植物生理生化学特論 第7回講義

蛍光測定による遺伝子機能解析

第7回の講義では、クロロフィル蛍光測定を利用して、ゲノムワイドな遺伝子機能解析を目指した研究例について解説しました。


Q:今回の講義では、クロロフィル蛍光を用いたシアノバクテリアのゲノム解析について学んだが、その中でも、シアノバクテリアゲノム情報の応用について考えたことを述べる。講義では、Synechocystis sp. PCC6803をはじめとして様々な種のシアノバクテリアの全ゲノム解析が進められている事を説明されていた。そこで、このゲノムデータベースを活かし、ストロマトライトの形成に関する表現型の解析ができないかと考えた。現在、培養したシアノバクテリアを用いて実験的に現世ストロマトライトを形成させる研究が行われており、その形成過程を明らかにしていた。そこでシアノバクテリアNostoc sp. A(実験で用いられていた種の1つ)のゲノム情報をもとに、変異体を作成し、表現型の解析を行うことでストロマトライトの形成過程の詳細を明らかにすることができると考えられる。

A:これはほとんど何の意味もありませんね。講義でも強調したように、表現型の解析は、何の解析をするかが明らかでないとできません。さらには、どんな変異体を作るのかが重要です。その2つがブラックボックスのままでは、研究にはなりません。


Q:今回の講義では変異の入った、或いは表現系の異なったシアノバクテリアのクロロフィル蛍光を経時的測定することで、その遺伝子の意味や機能を探ることができるというお話を聴くことができました。またシアノバクテリアの多くの遺伝子が光合成系と密接に関わっているためにゲノムワイドな概日振動を示すというお話を聴いて、概日リズムの意義を光合成と結びつけてあまり考えていなかったので見落としていたなと少し反省しております。先行研究より24時間周期で振動するシアノバクテリアと22時間周期で振動する変異株、30時間周期で振動する変異株を共培養したときの生長測定をL12D12(Light 12時間・dark 12時間)、L11D11、及びL15D15の環境下で測定したところ自身のリズムの固有振動数と近いLDサイクル下で生長速度が高くなることが知られております。今回のお話を受けて、自身のリズムと外界の昼夜変動がリンクしていないと光合成系の働きが悪くなるので生長速度が落ちるとも解釈できるなと思いました。
引用文献:Resonating circadian clocks enhance fitness in cyanobacteria, Yan Ouyang, Carol R. Andersson, Takao Kondo, Susan S. Golden, and Carl Hirschie Johnson
The Adaptive Value of Circadian Clocks: An Experimental Assessment in Cyanobacteria Mark A. Woelfle, Yan Ouyang, Kittiporn Phanvijhitsiri, Carl Hirschie Johnson

A:まさに「リンクしていないと光合成系の働きが悪くなる」という点を昔から調べたいと思っていて、用意が整ったら共同研究をしたいと岩崎さんには話しているのですが、なかなかそこまでいかないのが現状です。


Q:授業では、クロロフィル蛍光を用いたシアノバクテリアの機能解析について学んだ。その際、海洋における光合成生産の5割を担う藻類Prochlorococcus marinus MED4,MIT9313,SS120について、その生育場所は光の強さと栄養塩とのバランスで生物種により異なると知った。MED4は強光適応型、MIT9313,SS120は弱光適応型のため、MIT9313,SS120の方がより深い場所に生育していると考えられる。ここで、植物プランクトンなどが光合成できる限界である水深200mあたりに生育する藻類は水圧の高い環境に耐える必要があるため、海面付近に存在する藻類と比べて新たに強い水圧に耐えられる能力を得たのではないかと興味を持った。水圧は10mごとに1気圧増え、さらに水深が増すにつれ気温も下がる。藻類はもしも光合成可能な限界の水深で生育しようとしたら、低温に耐えられるような体内での化学合成機能の特殊化を獲得し、さらには水圧に耐えうるような強固な細胞壁もしくは体内の液胞に高濃度のイオン物質や難溶性の物質を蓄えることをしなければならないのではないだろうか。
参考文献:深海とは 国際海洋環境情報センター、http://www.godac.jp/education/deepsea.html

A:水圧についてはその通りなのですが、温度については、水の性質として比重が摂氏4℃で一番大きくなりますから、深海でも基本的には4℃以下に下がることはありません。温度に関しては、地上の方が圧倒的に大きなストレス要因になります。


Q:昼夜の光環境の変動に応答することが生物時計の役割であることを学んだ。生物時計とは、生物がその体内に持っている時計機能で体内時計とも呼ばれる(1)。生物時計で最も考え付くのは睡眠である。夜になれば睡眠を欲し昼になると起きる。もし生物時計が無かったら多くの生物が昼に行動し夜に睡眠するというようなサイクルが無かったかと言えばそうは思わない。なぜなら生きていくために生物は栄養を取る必要がある。よって生物は自らが餌とする生物が行動する時間に合わせて行動するはずである。どちらかといえば昼行性か夜行性のどちらかと断言はできないが恐らく今と同じように昼行性に偏ったはずである。なぜなら植物が成長するのは光合成ができる昼の時間帯である。昼に花が開いてその花の蜜を餌にするために動物が行動する。花の蜜を餌にする動物を餌にする動物が行動する。このようなつながりが順に生まれると考えられるため、生物時計が無くとも昼行性の動物が多くなったと考えられる。
(1) 生物時計とはー花井@産総研-AIST:産業技術総合研究所、https://staff.aist.go.jp/s-hanai/biologicalrhythm.html

A:面白い考えですが、「昼行性に偏った」というのが、昼行性である人間のそれこそ偏ったものの見方ではなく、客観的にもそうなのかどうか、という検証が必要である気がします。


Q:今回の授業で、ゲノム科学の普遍性やポストゲノムの多様性、DNA配列の決定、変異体の表現型の解析などについて学んだ。変異体の表現型の解析にはどのような表現型を知らべるかをまず決定する必要があるが、実験を進めていく中でどこに注目すればよいのか、どう進めればいいのかわからなくなる時が来るので、自分の実験において同様のことが起きたらどうするか考える。植物では遺伝子の機能が重複しているが多いのでシングルの変異体では表現型が出ないことが多い。そのため注目しているパラメーターがよくないのか、違う遺伝子が補っているのか分かり辛い。また、表現型を観察するためにF3までとるのには時間がかかる。よって、最初のうちの多重ノックアウトを行っておくのが効率が良い。しかしむやみやたらに行うことはできないので、promoter-GUS-assayなどで遺伝子の発現部位を特定し、発現部位が重なっているもののノックアウトを作成するのが良いだろう。細胞と違い植物の個体では成長過程の細胞の大きさなどを観察するのが難しい。そこで、葉を非破壊的に細胞の大きさや数を測定できるような機械あると非常に有用であると思った。

A:どんな場合でも、個体レベルの非破壊的な測定によって多くの情報が得られると、研究の進み具合は格段に速くなります。光合成研究においては、クロロフィル蛍光測定がその役割を果たしました。ただ、細胞は3次元に配置されているので、その大きさや数を非破壊的に調べるのはなかなか難しいでしょうね。


Q:岩崎先生によると、シアノバクテリアの遺伝子発現の9割は生物時計に依存するということであった。しかし、連続光条件で培養し、生物時計を止めてもシアノバクテリアは生育することができる。この点に疑問を抱いたので考えてみることにした。この二つは相反する理論のように思えるがどちらも実際に起こっていることを確認されているのでどちらも正しいことは確かであろう。考えられる可能性としては2点思い浮かぶ。一つは9割の発現以外の1割でもしっかりと生育できるという可能性だ。そしてもう一つは連続光条件でも生物時計は働いていることである。次にこれらを調べる実験を考えることにした。まず前者の方は通常の条件で9割の、発現を抑えても生育をできるか調べてみればよい。後者は連続光条件で9割の発現があるかを確認してみればよい。

A:もう一つの可能性が抜けていますよ。9割の遺伝子の発現調節は、夜から昼、あるいは昼から夜への、切り替えの際に必要である、という可能性です。そうであれば、切り替えのない連続光条件では、発現調節をする必要性がなくなりますから。あと、9割という値は、初期の遺伝子数を絞った解析での値で、マイクロアレイの結果ではもう少し低い値が得られているようです。


Q:今回の授業では、表現型を扱うための方向性について学んだ。最近の生物細胞学はイメージングによる解析が主流であるが、その際非常に多くのパラメーターを使って3次元、4次元的に解析する必要がある。4次元的に解析するにはタイムラプスを用いることが多いが、画像処理によるタイムラプス解析は解析に差が出てしまうことが多々ある。特に細胞内の微粒子速度をタイムラプスで算出する場合、粒子を自分で追っていく必要がある。これはとてもアナログな作業である。そこで、新しい細胞内流動速度測定解析法について考える。普通は粒子にGFPをつけて光らせて見るのだが、共焦点顕微鏡にある特定の蛍光タンパク質を覚えさせ、その蛍光タンパク質を細胞内オルガネラと融合して観察する。顕微鏡がその蛍光を認識すると、タイムラプスで速度を算出してくれる。このようなシステムと蛍光タンパク質を構築すれば、オルガネラの自家蛍光に左右されることもなく、厳密な速度を測定できるのではないだろうか。

A:うーむ。アイデアはわかりませんが、この手の解析方法は、実際にどのように実装するかが勝負です。今一息具体性に欠けるような気がしました。


Q:シアノバクテリアの遺伝子のうち90%もの遺伝子の発現が生物時計の支配下にあると聞き驚いた。講義では、光合成は他の多くの代謝系の影響を受けるがゆえに、昼夜の光環境変化への応答を担う生物時計の影響を多くの遺伝子が受ける、ということだったが、そのような「ついで」とでもいうような理由だけで90%もの遺伝子(光を直接必要としない代謝にかかわるものも含む)の発現が光で左右されることを許容しているのだろうか。「満足に光合成できる」ということは、光以外にも温度状況、栄養状況、CO2状況などの点においても生存や繁殖(細胞分裂)に適した環境にいるということであり、すなわち、エネルギーや物質をわざわざ使って代謝をするというコストに見合った結果が得られる環境にいると言うこともできるだろう。よって、多くの代謝にまつわる遺伝子の発現が、光に応答する生物時計の支配下にあるということは、シアノバクテリアがコストパフォーマンスにおいて損することを防ぐという意義もあるのではないかと考えられる。

A:そうですね。実際に、発現の変化が能動的なものなのか、結果として起こっているものなのかを、きちんと実験的に見分けるのは案外大変そうです。