植物生理生化学特論 第2回講義

吸収測定の方法

第2回の講義では、吸収測定の原理を吸収・散乱・透過といった基本の部分から解説しました。


Q:今回の講義では分光学的測定の原理について学んだが、その中でも懸濁試料の吸収測定に関連して、その応用について論じる。懸濁試料や牛乳のようなコロイド溶液の測定においては、溶質にぶつかった光の散乱を考慮して吸収の値を分析する必要がある。散乱した光の波長を知るには、積分球を用いて散乱光を反射させたものを検出・分析することが有効だといえるが、この測定原理を利用してステンドグラスなどの色ガラスに含まれる成分の解析ができるのではないかと考えた。ガラス細工は、その着色のためにガラスに金属コロイドを分散させることによる光の吸収を利用しており、コロイド粒子の大きさや形、溶媒のガラスの種類によって吸収スペクトルが変化する〔1〕。例えば歴史的建造物に使われているステンドグラスを採取し、その吸収スペクトルを解析する。その際、積分球を用いて金属コロイドにぶつかって散乱した光も検出する。得られた結果と既知のスペクトル(ガラスの透過率、金や銅などのコロイドの吸収)を照らし合わせることで、対象に含まれる金属コロイドの成分や粒子の大きさを分析できると考えられる。この分析によって、使われたステンドグラスの技術的背景を明らかにすることができ、美術史研究への貢献や、より繊細なガラス着色技術への応用が期待できる。
〔1〕角野 広平, 2009, NEW GLASS Vol.24 No.2

A:面白いですね。ステンドグラスの色が、コロイド粒子によるものだとは知りませんでした。分光学には、色ガラスフィルターが重要な役割を果たすことが多いのですが、こちらは散乱があるとまずいので、コロイドではなく、均質なのだと思います。


Q:授業にて分光光度計では、まず光の屈折する性質を利用したプリズム、もしくは光の干渉を利用した凹凸のある板の使用によって光源からの光を各波長に分解し、その後試料に照射していることを学んだ。そこで思ったのが、試料に当てる前に分光をわざわざせずに、透過光をカメラのようにセンサーを用いて色を読み取ればいいのではないかということである。しかしよく考えてみると一般のカメラのセンサーは光をRGBに分解して色を認識している。だが逆にRGBの三色から元の光のスペクトルへ変換することは不可能である。よってこれを可能にするにはRGBだけでなく、各波長毎のフィルターを持ったフォトダイオードが必要になってしまい、かなり大掛かりな機器になる事が考えられた。次に試料の透過光を分光してスペクトルを得るという方法を考えた。しかし調べたところこの設計はハイパースペクトルカメラという機器と同様であり、既に存在していた。試料の後に分光を行なう利点は光源が白色光であれば太陽光でも良いということや、カメラとしての使用が出来るので、試料の濃度の測定だけでなく、例えば葉の局所的なクロロフィルa/b比、反射率の違い等を発見できるかもしれない。

A:試料を透過した光を分光するタイプの分光器については、次回の講義の中で触れる予定です。


Q:講義の中で議題となった、「牛乳のAbsorbanceを測定する方法」について考察してみたい。結果牛乳試料中に存在する分子由来の散乱をどのように克服するか、以下3案を挙げるに至った。
 まず、散乱の様子を計測してデータを補正する方法。散乱に対する評価はそれが静的か動的かで異なるが、前者では散乱光の強度と方向を計測し物質の構造を調べ、後者ではブラウン運動に起因する分子の濃度の動的な揺らぎを評価し、拡散係数やその分布を求める[1]ことに重点が置かれることから、今回は動的光散乱を測定するべきであろう。即ち、分子内の運動や分子間協同運動の様子を確認し、散乱ベクトルを算出する。今回は様々な分子が存在することから溶液中の粒子は総じて光学的に等方性を持つと仮定すれば、そこから拡散係数・物質濃度を計算すれば良いと考えられる。
 次に、タンパク質の濃度のみを測定する方法。例えば和光純薬プロテインアッセイBCAキット[2]などその為の典型例と言える。この場合、当該試薬を牛乳に滴下し、生じるキレートが定量できる吸光度を測定すれば良い。但し実際に行う場合牛乳を30~100倍に希釈する必要があるとの指摘も見られる為、実際に行う場合は試薬、牛乳ともに適切な希釈率を実験で確かめる必要があるだろう。
 最後は、個別成分の自家蛍光を利用する方法。タンパク質や脂肪分はユニークな励起波長が存在する筈であるから、蛍光スペクトルを測定すればそれが確認できる。牛乳中のそれぞれの濃度を知りたい場合、ピーク波長からそれが何であるかを類推し、それの標準試薬との蛍光比を計算すれば、簡易的にではあれ濃度測定を代行出来ると考えられる。
[1]野瀬卓平・堀江一之・金谷利治、若手研究者のための有機・高分子測定ラボガイド、講談社、2006、p.196-215
[2]和光純薬."タンパク質定量用試薬" http://www.wako-chem.co.jp/siyaku/product/life/bca/pdf/info.pdf 2016年04月20日参照

A:化学者の眼からすると、生物試料は極めて「汚い」ので、そこをどのようにクリアするのかが、むしろ実際の実験の上では重要になってくると思います。レポートの中でも「様々な分子が存在する」という形で触れられていますね。最後の蛍光については、蛍光の収率は一般のタンパク質ではかなり低いので、実際の実験系としてはかなり厳しいものになると予想されます。


Q:懸濁試料の吸収測定が散乱光の為に難しくなっているというお話を聞いて、牛乳(ここでは懸濁試料とします)中に含まれる脂肪球を分解できないかと考えました。脂肪球の分解により散乱光を抑えられると考えたからです。その為の方法としてビーズを用いた破砕方法を提案します。ビーズ破砕により溶液中の脂肪球を細かく分解することが出来れば散乱光を抑えることが可能となり、ビーズを入れただけの試料をコントロールとし、入射光に対する直進光を調べることで牛乳のスペクトルが測定できるのではないかと考えました。ただ懸念される点としては、牛乳中の脂肪球を分解することにより脂肪球膜に包容されたカロチノイド等の黄色色素が溶け出す可能性があることです。カロチノイドが表面化することで牛乳本来のスペクトルを測定していないという指摘があるかもしれません。

A:ビーズによる破砕は、細胞の破砕方法として一般的ですが、細胞の場合、破砕されて小さくなれば細胞ではなくなるのに対して、脂肪球の場合、小さくなっても結局脂肪球のままとなる可能性がありますね。1つの粒子の大きさが小さくなっても、粒子の数が多くなると、散乱の強度は粒子の大きさに比例して小さくはならないでしょう。そのあたりが難しそうですね。


Q:私は、自身の研究で酵母菌の濁度を計測する際に分光器を使用したので、今週の授業内容から分光器について考察したい。分光器で懸濁試料の吸収測定を行う際には、溶質にぶつかり測定装置に取り込まれない散乱光ID、溶質にあたらなかった直進光IS、散乱光の内で偶然に光電子増倍管へ届いたpの割合の散乱光p*IDがあり、直進光ISと散乱光の一部p*IDだけ測定できるということであった。これは、もし懸濁試料中の溶質に多様な大きさのものが含まれていた場合、正確な測定は難しいのではないか。なぜならば、溶質にぶつかった散乱光は一部しか光電子増倍管に届かず、さらに溶液の濃度測定に関係のない直進光はすべて測定でき、溶質に多様な大きさの物質が含まれている場合は一度ある溶質にぶつかった散乱光が別の溶質に再度ぶつかることなどにより光電子増倍管に届きにくくなると考えられるので、測定結果の信憑性が揺らぐと思われる。そこで、この疑問に関して解決策を考えた。この場合、問題となるのは、懸濁試料中の溶質が溶液中を浮遊し、入射光I0に対して試料がぶつかる角度が様々に変化し、さらに一部が再度溶質にぶつかることで、ほとんどの散乱光が光電子増倍管に取り込まれない点ではないか。このため、溶液中の溶質の固定を行い入射光が二度以上溶質にぶつからないようにするために、光路長の狭い、極めて薄いセルを使用するとよいのではないだろうか。溶質の位置が固定されれば溶質が浮遊することによる過剰な溶質との接触を防ぐことができると思われる。また、測定時によく懸濁して溶質が一部に集中しないようにすることも重要だと考えられる。

A:考え方は非常い面白いのですが、光の方向は、溶質に一度ぶつかっただけで大きく変化しますから、溶質に二度ぶつかったとしても、一度だけの時に比べて結果は大きく変わらないと思います。逆に、溶質の濃度を高めて、光が必ず溶質にぶつかるようにしたら何が起こるかを、次回の講義で紹介します。


Q:今回の授業は分光光度計の仕組み等について主に扱った。授業中で構造色についての話があり、これは回折格子という構造によって反射した光同士が干渉し、見る角度によって色が変化するというものでした。見えない色が見えたり見えなかったりということを考えた時に、色盲という病気が頭に思い浮かびました。これは色を認識する能力が低いという病気です。色盲という病気に詳しくないので見当違いかもしれませんが、この回折格子構造を人工の角膜に取り入れて、色盲患者の見えにくい色を見やすくする補助などにはできないのかと思いました。

A:これはまた、僕好みの突拍子もないアイデアです。ただ、できたら、実際に人工の角膜に回折格子を入れたらどうなるかを、もう少し考えてほしいと思います。回折格子の機能は、透過ではなく、反射する際に発揮されますから、実装するのが案外難しいことはすぐにわかるでしょう。


Q:今回の授業で、分光光度計の仕組みを詳細に知ることができ勉強になりました。自分が使用することはほぼないのですが、濃度の濃い試料を測るときに希釈し計算しなおすことに手間がかかったので、濃い試料でも希釈しなくて済む方法を考えたいと思います。濃い試料だと入っていく光(I1)が多く吸収され、出ていく光(I2)の値が非常に小さくなり測定の精度が下がることが予想されます。よって、以下の2つの方法で防ぎたいと思います。まずセルの幅を短くするようにすることがあげられます。光が透過していく中で、試料に接触する距離が長いほど吸収されてしまうので、短くし防ぎます。次に、入射光の入る数を増やすことがあげられます。厚みが薄く、縦に長くすると光の当たることのできる場所が広がることや、データが増えるので精度が上がると考えられます。希釈するよりも直接測った方が信頼しやすいですが、基本セルの形大きさは同じなので、いろいろなサイズが入る分光光度計もあると、効率よく実験をすすめることができると思いました。

A:実際に、試料の量を極限まで切り詰めたタイプの分光器も市販されています。ナノドロップという分光器では、セルを使わずに、表面張力で保たれた試料そのものがセルの代わりをしています。


Q:今回の講義では最後の方で、懸濁試料の吸収測定について学んだ。溶液ではなく、細胞などいわゆる「つぶつぶ」のある懸濁試料の吸収スペクトルを測定する場合、色の情報の殆どは散乱によって失われる。
A=log(Io/(Is+p*Ip))
解決策を調べてみたところ、柴田和雄が考案したオパールガラス法という手法に行き着いた。対照および試料の、検出器側との間のすぐ後に乳濁ガラス(オパールガラス)を置いてから吸収スペクトルを測定することで、試料懸濁液による散乱の影響を対照側のオパールガラスの散乱によって相殺する。これによって基線のかさ上げを抑えるという手法であったが、私は別ベクトルの解決策として、単純に光検知部位の受光面を広げる、または試料に密着させることで、散乱光を捉えてみてはどうかと考えた。これならばオパールグラスの挿入による必要以上の対象光の散乱が引き起こす、測定値の誤差の発生なども考えずに済むと思われる。もっとも、この手法を用いる場合は光検知部位が特殊な構造をした分光器を用意する必要があるので、コスト面で考えてみればオパールガラス法に一歩譲らざるを得ないだろう。
参照:光合成事典(http://photosyn.jp/pwiki/index.php?%E5%85%89%E5%90%88%E6%88%90%E4%BA%8B%E5%85%B8)

A:よく考えていますね。オパールグラス法を含むこの辺りの方法については、次回の講義で紹介します。


Q:自分の研究における分光測定を例にして考察する。ソラマメの種子のチラコイド単離溶液のクロロフィル濃度を測定するために3回固定波長測定をしたところ、その三回で値が同じような値にならなかった。この問題は測定するためにアセトン抽出に使うチラゴイド溶液の量を増やして測定したところある程度改善された。つまりこの値の乱れの第一の原因は濃度が薄すぎたことによるものであったとわかった。しかしそれでも稀に数値が乱れることがある。そこでスペクトル測定を行ったところやはり固定波長測定が乱れているときにはスペクトルも他のものとは少し異なった。これはおそらくソラマメの種子のチラゴイド単離溶液に散乱を促す物質が含まれていて、それが吸光度を狂わしているのではないかと考えられる。今のところ吸光度を必ず一定にする方法は見つけられていないが少なくない確率で一定の吸光度を出すことができるので濃度を揃えて測定するときには何回か同じ測定をして統計的におかしいものは除いていくという方法を取るしかないのかもしれない。また散乱の影響を確かめるために積分球を用いて吸収スペクトルを測定することも必要である。

A:おそらく、濃度が低すぎることによる問題と、散乱物質の混入による問題は、別に考えるべきかもしれません。濃度が低すぎる場合は、ばらつきが大きくなるので、平均をとる統計処理が有効ですが、散乱物質の混入による場合は、混入が一番少ないところが真の値に近いはずなので、平均を取ったとしても真に値には近づきませんから。


Q:今回の授業では、生物学実験を行う上で欠かすことのできない「分光器」について、その原理と種類を学んだ。その中でわたしが興味深く思ったことは、構造色の存在である。いわゆる玉虫色や、貝殻のような角度によって様々な色に見える色は、色素ではなく構造色という現象によるものであることを初めて知った。構造色は色素や顔料と違って、紫外線などによる劣化がない。すなわち、半永久的に色を保つことができる。このことを応用して、絵画や服飾に構造色を活かすと、永久に色あせない美術が作製できるのではないだろうか。そのためには、構造色を人工的に作る必要がある。構造色は光の干渉によって生まれるので、屈折率に異なる物質を混合させることにより作ることが可能である。例えば、異なる屈折率をもつ繊維を複雑に織り込んだ生地(ナイロンとポリエステルなど)を作製できれば、様々な角度から色を楽しめ、経年劣化の少ない服を作ることが可能なのではないだろうか。構造色を美に取り入れることによって、服飾文化の幅は更に拡がりをみせるだろう。

A:なるほど。これはあまり考えたことがありませんでした。面白いですね。でも、今までそのような服はデザインされていないのでしょうかね。誰かが思いついていてもよさそうな気もしますが。


Q:私は以前、構造色は色素の色と異なり退色がないと耳にしたことがあり、今回構造色の原理を聞いて納得した。ところで、普段私は植物細胞内における特定の分子・オルガネラのイメージングのためGFPなどの蛍光タンパク質を利用しているのだが、蛍光タンパク質は顕微鏡下で精々30分も励起光を当てていると退色してしまい、いささか不便である。そこで構造色を利用したイメージングができないだろうか、と考えた。だが構造色は薄膜または微粒子に跳ね返された光の干渉によるものであり、よってそれら薄膜・微粒子の並び方(構造)が重要となる。細胞内で特定の分子やオルガネラを任意に発色させるためには、それらの表面に任意の構造を再現しなければならないだろう。組換えプラスミドを細胞内に導入して蛍光タンパク質を発現させる手法や、酸化還元色素を細胞外から送り込んでミトコンドリアに蓄積させるトラッカー染色のような手法、またオルガネラ特異的抗体を用いる手法では、任意の構造の再現は難しいと考えられる。構造色を利用したイメージングには、そのような技術的な問題、また多数の薄膜や微粒子を付加された分子・オルガネラが果たして人為的改変なしの場合と同じ運動をするか、といった問題が考えられ、それならば、退色の遅い蛍光タンパク質の開発を待つ方が現実的なのだろう。

A:その通りだと思います。細胞レベルで構造色を使うのは難しいでしょう。そもそも、構造色が成り立つのはその構造が波長のオーダーの大きさの場合です。つまり、可視光だとすると、0.4-0.7 μmということになります。原核細胞など、そもそも細胞自体が1 μmですから、構造色では、内部構造を見分けるだけの分解能を発揮させることは原理的に無理でしょうね。