植物生理生化学特論 第8回講義

光環境応答

第8回の講義では、光環境の変動に対する植物の応答のうち、主に光吸収を減らすための様々な仕組みについて解説しました。


Q:今回の講義で一番印象を受けたのは、葉緑体が植物の中で移動するという事実でした。光と二酸化炭素が多くあればあるほど良いものだと思っていました。今までの講義で話された光の吸収率や透過率について学び思ったことが、葉緑体の移動によって葉の光に対する透過率・吸収率を変えているということなのではないかと思いました。つまり、葉に光を当て、その透過率を測定することで自然条件下での葉緑体の移動を調べることが出来るのではないかと思いました。また、これを利用すれば顕微鏡下ではなく極力自然状態に近いかたちで葉緑体の移動速度の測定も出来るのではないかと思いました。例えば、光量以外の条件を常に一定に保ち、光の量を変化させていくなどして、透過率の変化を測定、葉緑体が完全に細胞の側面に集まるとそれ以上は透過率も変わらないと思われるので速度の測定も可能だと思いました。

A:論文をもう一度見てみないとわかりませんが、透過率ぐらいは測定していた気もします。ただ、葉の透過率の測定には積分球が必要ですから、案外やっていない可能性もありますが。


Q:今回の講義の後半では色素と環境の関係について学んだが、この観点からするとシアノバクテリアの生息領域と色素・補色順化能は、自身の研究分野である運動性や粘液分泌、多細胞と単細胞の様相にも相関性があるのではないかと考えた。多細胞性シアノバクテリアの一部はGlidingと呼ばれる滑走運動を行う。Glidingの原理や関連遺伝子は未だ不明な点が多いが、繊毛や多糖類放出遺伝子の必要性について研究が進んできている(Duggan et al., 2007; Risser DD and Meeks JC,2013)。これらは主に物体表面における運動であり、バイオフィルム内での移動を可能にしている。実際、繊毛運動を行うSynechocystisにおいては本講義でも紹介された池内らにより、走光性に関与するPixJ1とシアノバクテリオクロムの関連が示されている(Yoshihara.S. et al.., 2004)。自然環境での生息環境を考えた時、このように運動性と光合成はかなり密接に関連しており、今後は遺伝子間の関係性と同時に、各特性の相関性を多くの種にわたって調べる事も大事ではないかと考える。

A:できたら「各特性の相関性」という部分をもう少し具体的に記述できるとよいでしょう。そこが弱いと、単に人の研究の紹介になってしまいます。


Q:植物の光環境への応答は、色素タンパク質を持った光受容体をセンサーとして行われているというお話でした。それぞれの光受容体タンパク質の吸収極大はクロロフィルのもつ760nm, 450nmの吸収ピークにそれぞれ対応していて、このことが光合成に関わる光情報を得ることを可能にしているということでした。ここで私が疑問に感じたのが、光合成に関する光情報を得たいのならば、クロロフィルを光受容センサーに用いた方が正確な情報が得られるように思えるのに、なぜわざわざ他の色素を用いるのだろうか、ということです。 そこで、この疑問について考えると、クロロフィル以外の色素が用いられる理由としていくつかの理由を考えることができると思います。まず、クロロフィルあたりの光合成効率の点からの理由があると思います。光受容体は少なくとも光合成を行う器官の、光が当たりうるすべての部分に必要だと思います。必然的に普段光があまり当たらない部分にも存在しなければならないでしょう。もし、せっかく産生した大事な光合成色素であるクロロフィルをわざわざ光センサーのためだけに広い範囲に散らばらせておいたら、光合成効率の面から非常に大きな無駄が生じるのではないかと思います。次に、光受容体となる色素タンパク質が光合成以外の反応に関わる光センサーとしても働いていることが理由になると思います。光受容体タンパク質であるフォトトロピン、フィトクロム、クリプトクロムはそれぞれ赤色域か青色域のどちらかにピーク波長をもち、それぞれが光に誘発される複数の反応に関わっているというお話でした。もし、クロロフィルのような広い吸収波長域を持つ色素を光受容体として用いると、光合成以外の反応において反応を開始するべきするべき波長域を識別することができないのではないかと思います。

A:クロロフィルの吸収ピークが760nm, 450nmとなっていますが、これは680 nm, 430 nmでしょう。クロロフィルを信号伝達の光受容体として使っている例は確かにないと思いますが、一方で、光合成系の電子伝達の酸化還元状態をモニターして環境応答している例はあります。これは、光合成を直接関知して直接制御していることになります。


Q:今回の講義では光受容体について扱われた。フィトクロム、クリプトクロム、フォトトロピンには細胞内の局在に違いがある。フィトクロムは細胞質中に存在する可溶性タンパク質であり、クリプトクロムは核内に、フォトトロピンは細胞膜に存在する。本レポートでは、フィトクロムが細胞質中に溶解している理由を考察する。フィトクロムには赤色光と遠赤色光のそれぞれを吸収する分子種が存在する。赤色光を吸収したフィトクロム(Pfr型)は核へ移行し転写制御に関わり、遠赤色光を吸収したフィトクロム(Pr型)はその移行を阻害する。何らかの物質(リガンド)がシグナルとして転写制御を行うならともかく、基本的に細胞中を透過する光をシグナルとしているならば、フィトクロムは核内に局在させておく方が効率的である。遠赤色光は水に良く吸収されるため、生体組織の内部にまではあまり透過しない。よって、周りを水(細胞質)に囲まれた核内にフィトクロムを局在させた場合、フィトクロムは遠赤色光をほとんど吸収できなくなり、赤色光シグナルを打ち消す機能を発揮できなくなる。フィトクロムが遠赤色光を正確に吸収するためには、細胞質中にフィトクロム分子を溶解(拡散)させておいて、細胞膜透過直後の遠赤色光を吸収するしかない。したがって、フィトクロムが細胞質中に溶解している理由は、水に邪魔されずに遠赤色光を吸収するためであると推測される。
参考文献:桜井英博他著 植物生理学概論 初版(2008) 培風館

A:面白い考え方ではありますが、もし水による赤外光の吸収のためにフィトクロムが核では働けないのであれば、細胞質でも、光が入射する側からみて裏側にある部分についてはやはり働けないことになりますね。やや無理があるような。


Q:植物が余計な光を吸収し過ぎないないように短期的な調節を行っていることにおどろきました.その中で葉緑体が動き光の吸収の調節に役にたっていますが,葉緑体がどのような原理で移動するのかが気になりました.葉の中の液の流れで動くのか,葉緑体自身が動くのかということです.私は光を感知して葉緑体が動くので,葉緑体自身が動くのではないかと考えます.

A:単に「考えます」ではなくて、もう少し論理展開が必要です。これだけではレポートとして不足です。


Q:今回の講義では、葉緑体の集合反応と逃避反応について教わった。また、葉緑体は膜上に位置するが、これは表面上に存在した方が二酸化炭素を素早く吸収できるためとの事であった。ここで、葉緑体を取り囲む環境が変わると、光に対する葉緑体の移動反応にはどの様な変化が起こるのか疑問に思った。例えば、細胞内を二酸化炭素または重炭酸イオンで充満させた環境(high CO2下) や、葉内をインフィルトレーションして水で浸した環境(infiltration下) を考えてみる。まずhigh CO2下は、膜上に存在しなくても十分に二酸化炭素を取り込める環境である。よって葉緑体は、暗黒下では自由運動を、弱光下では葉の内部で一か所に集合すると考えられる。なお強光下では本来とは大きな変化は起こらないと予想される。しかし葉を表面から見て、少しでも光の強さが周りと比較して弱い部分があれば、膜上で無くてもその部分に移動すると考えられる。(この際も葉を横から見た図では、葉緑体は縦に一列に並んでいる様に見えると予想される。) 次にinfiltration下は、葉緑体が膜上に存在していたとしても、周りが液相となるので二酸化炭素の供給が通常葉よりも遅い環境である。しかし細胞の周りが液相になったとしても、細胞内では二酸化炭素は更に液相内を移動する必要がある。よってこの場合、葉緑体は自由運動するよりも膜上に存在した方が二酸化炭素の取り込み効率が高いと考えられ、光に対する集合反応と逃避反応には大きな変化は無いと考えられる。

A:面白い考え方だと思います。高二酸化炭素濃度化では、光合成の律速段階が変わる可能性もありますから、そこも考えに入れた方がよいかもしれませんね。