植物生理生化学特論 第11回講義

光化学系量比調節

第11回の講義では、シアノバクテリアの光化学系量比調節に関わる遺伝子の研究例を紹介しました。


Q:今回の授業では光化学系量比の調節と適者生存について学習した。本授業では光合成調節遺伝子であるpmgAに関してpmgA変異株と野生株を比較し、短時間の強光条件ではpmgA変異株の生育速度の上昇が確認された。一方、長時間の強光条件で培養すると、pmgA変異株の生育速度の減少が見られた。このことは適応のフェーズに関して、短期的な応答から長期的な順化に変わったことが考えられる。強光条件では過剰な還元力が生じ、光障害が生じてしまうことからpmgA変異株において、光阻害を防ぐために光合成調節遺伝子が発現し始めると考えられる。あらゆる環境変化のリスクに対して対応できる点で野生株が適者生存と言われる所以なのであるのだろう。今回は変異株が順化して野生株の持つ機能を復活させた形となったが、野生型が予期せぬ環境変化に関してどのように対応するのであろうか。おそらく野生型に関しても個体毎に若干遺伝子配列も異なると考えられる。その中で新たなタンパク質を発現し周囲の環境に適応するための遺伝子配列を有する個体が適者生存し、それが進化なのではないかと考察した。

A:考察しようという努力は感じられますが、もう少し問題点を明確にした方が科学的なレポートになると思います。あと、「pmgA変異株において、光阻害を防ぐために光合成調節遺伝子が発現し始める」というのは逆です。pmgA遺伝子の機能自体はよくわかりませんが、野生型ではこれが、強光下で機能していると考えられます。


Q:光阻害について書くことにした。以前に、講義の課題を行うにあたって調べものをしていた時に、光阻害のメカニズムは2つの説があると書いてあったのを思い出して少し調べてみた。そこでは、「一つ目は、葉が受けた光エネルギーのうち光合成や熱放散などで消費しきれない過剰な光エネルギーがダメージを引き起こすとし、Excess energy仮説と呼ばれる(Ogren et al. 1984, Vass et al. 1992)。二つ目は、光化学系IIの酸素発生系に存在するマンガンが光によって励起されることで遊離し、酸素発生系が機能を失った状態で、光化学系IIの反応中心が励起されることがダメージを引き起こすというもので、Two-step仮説と呼ばれる(Hakala et al. 2005, Ohnishi et al. 2005)。」と書かれていた。今回の講義で、野生(WS)と変異株(WL or ΔpmgA)の違いについて学んだ。変異株は野生株に比べて光阻害に強く、また微量のDCMUを加え光合成を抑えることで長期強光による生育阻害を抑制することが出来る。光合成を抑制することで強光による生育阻害を抑制できる、これは光阻害のメカニズムの2説の前者「光合成で消費しきれない過剰なエネルギー」というのは間違っているとは言わないにしろ、それが原因とは言えなくなってくるのではないかと思いました。ただし、今回は変異株であること、またDCMUを微量という条件であるため、本当に光合成が関係ないのであれば、微量でなく過剰に入れても同じ結果が得られる必要があるのではないかと思いました。
光阻害のメカニズム:http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/seitaipl/personal/riichi/photoinactivation.html

A:これは、DCMUを入れれば、光合成は止まるのだから、むしろ過剰になるエネルギーは増えるはずだ、ということですね。確かに、エネルギーとしてはその通りだと思います。一方で、活性酸素の発生などにつながる還元力の生成は、DCMUによって低下します。もう一つの考え方は、pmgA変異株で見られる生育阻害は、光阻害そのものではなく、還元力の生成が関わる別のメカニズムによるものだ、というものでしょう。


Q:実験室環境における進化・淘汰について記述する。微生物の多くは細胞周期が短く、特に単細胞性のバクテリアでは細胞の変異=個体の変異とみなせるため、遺伝的変異が環境に適応していれば、その変異種は適者生存により短期間で集団の多数を占め、変異が固定される。この変異は意図的かどうかに関わらず発生し、本授業で扱ったWL株などは偶発的な発生である。一方で、バクテリアの実験室内環境を変化させる事は高等植物や動物に比べてかなり容易であり、意図的に環境操作を行い適応させる実験も数多く行われている。一方でこの方法は既存の遺伝子の欠損が主に狙いとなっており、新規の機構を獲得させる事は難しい。そこで、他種のシアノバクテリアより抽出したゲノムを用いて形質転換を行い、形質転換を行った上で環境条件によりスクリーニングを行う方法を用いて、適応能力の優れた変異株を得る事を考えた。例えば強光下で培養し複数回の植え継ぎを行えば、WL2のように長期的な強光適応能力の高い個体が多数を占める可能性がある。この手法はメタゲノム解析上のスクリーニングでよく行われるが、強光適応遺伝子のスクリーニングについてはあまり文献が発見できなかった(調査不足の可能性もあるが)。これは恐らく、強光環境下でもシアノバクテリアが死滅するとは限らず、スクリーニング効率が良くないためではないかと思われる。しかし今回のWLタイプの適者生存の割合を見れば、長期的に行う実験としては一定の結果が得られると考えられる。

A:面白い考察だと思います。pmgA変異株の生育が悪くなる条件としては、連続強光条件と光グルコース条件がありますが、後者の方が生死の形で野生型との差がはっきりと出ます。スクリーニング条件としては、多少生育速度が違うという場合には、実際に有効に機能しないことも多く、それが強光適応遺伝子の解析例が少ない理由なのではないかと思います。


Q:pmgAの遺伝子機能について考察します。pmgA欠損株(以下変異株)から得られた結果の中で今回注目したのは「変異株は生育速度が高いが、長期間強光条件下におくと生育に顕著な遅れが見られた。しかし変異株の光合成活性を阻害剤で抑えてやると生育阻害が回避された」、「光混合栄養条件下において変異株の生育速度は減衰する」の二点です。これらを総合すると、pmgAが欠損していると「光独立栄養条件下では光強度上昇に伴い光合成速度が上昇するが、強光による障害を回避しなかったために生育速度は後に減衰する」、「光混合栄養条件下では何らかの理由で光合成活性が低下し、周りから摂取したグルコースをエネルギー源として頼るため、生育速度が減衰する」と考えました。つまりpmgAが機能することで「強光による障害を回避することで生育速度を保っている」、「光混合栄養条件下というグルコースが潤沢である培地であっても普段どおりの代謝を行うことで、通常よりグルコースが多く使用できる分生育速度が上昇する」と予想しました。端的に言えば、pmgAが欠損していると、光を存分に使いすぎて働きすぎる、グルコースが培地に豊富に存在するとき光合成はサボっているのに対し、pmgAが機能することで強光は疲れるので避け、グルコースが豊富でもいつも通りの仕事をしているということになります。以上より、pmgAの遺伝子機能は「光強度や代謝物の濃度を感知することで光合成活性を調節し、生育速度を制御している」ことである可能性があります。このことを裏付ける、またもっと的確な機能を調べるために、光強度を細かく変化させる、培地のグルコース濃度を変化させる、その他シアノバクテリアの代謝産物を与えるなどした実験が必要だと考えられます。

A:良く考えていると思います。もうちょっとで、強光条件と光グルコース条件の共通点が、具体的に浮かび上がってきそうですが、今の所難しいようですね。


Q:光化学系量比の調節に関するお話の続きで、系Ⅰの量比調節が正常に行えないpmgA変異体に関するお話が印象的でした。今回の講義でpmgA変異体は強光下で短期間の光阻害に強く、成長も野生株より大きい一方、長期的には野生株よりも大きな生育と光合成の阻害を受けてしまう、光合成もやりすぎは良くない、という趣旨のことをおっしゃっていたかと思います。講義の主題からは外れてしまうかもしれませんが、非常に気になったので、光合成のし過ぎが害を及ぼす原因について考えてみました。生育や光合成を阻害するものとしてはやはり活性酸素が考えられますが、pmgA変異株では短期的な阻害が起こらないことから、光合成系から発生する活性酸素が原因となっているのではないと考えられます。もしそうならば光合成をするそばから活性酸素がどんどん傷害を引き起こし、すぐに阻害が現れてくるはずだからです。なので、原因は光合成によって有機物量が増え、その消費に伴って発生する活性酸素なのではないかと思います。有機物を栄養器官などの形で大量に蓄えられない植物は、成長や代謝でどんどん有機物を消費しなければならず、その際に活性酸素が大量に発生すると考えられるからです。この有機物の消費によって生じる活性酸素が処理しきれないと、光合成系や成長にも悪影響を及ぼすのではないでしょうか。この場合、体内のデンプン量の増加と生育、光合成の阻害には何かしらかの関係性が出てくると思うので、pmgA変異株を使って体内のデンプン量の日数変化と生育や光合成阻害の関係を調べてみると面白いと思います。

A:「有機物の消費」というのは、具体的には呼吸のことでしょうか。呼吸に伴って活性酸素が生成する例は確かに知られているので、そのあたりの知識と絡めると、より具体性のある議論ができると思います。


Q:今回の講義では「pmgA破壊株(⊿pmgA株)は、野生株(WT)が実験室内における培養条件に適応・進化した結果できた変異株である。」事が紹介された。本レポートでは、⊿pmgA株がどのように培養条件に適応して野生株を駆逐するようになったかを考察する。講義において、実験室ではWTをBG11培地(グルコース等の糖質は無添加)に植えて強めの光で培養していたと聞いた。「呼吸基質であるグルコースを加えず、連続明期で繰り返し培養」(以下単に「培養条件」とする)していたのだと推測される。上記のような培養条件では、WTは細胞内の代謝反応に用いるATPとNADPHの供給を光化学反応に依存し続けて生育することになる。そのような培養条件では「光化学反応速度がWTよりも速い」遺伝子変異株が生じれば、その変異株はWTを駆逐して集団内で支配的な勢力となる。では、「光化学反応速度を速くする」にはどのような変異が生ずればよいのだろうか。ATPとNADPH合成は光化学反応だけではなく、それぞれ呼吸鎖電子伝達反応とOPP pathwayにおいて行われている。光化学反応速度を速くするには、電子伝達体を呼吸鎖と、NADP+をOPP pathwayと取り合わない(干渉しない)ようにすればいい。よって、pmgAは光化学反応速度に制限をかけて呼吸鎖電子伝達反応やOPP 反応が抑制されすぎないようにする機能をもつ遺伝子であり、それが壊れることで光化学反応速度がWTよりも速くなったのだと推測される。

A:最後の所の論理が少しわかりませんでした。結局、電子伝達の速度の違いは、光化学系の側にあるのでしょうか、それとも呼吸関連の代謝の側にあるのでしょうか。後者だとすると、pmgAの機能も光化学反応とは直接関係ないと考えるべきなのではないかと思います。


Q:今回の講義では、パルス変調測定(PAM)を用いてpmgA変異株の電子伝達活性を測定した研究について紹介されていた。その中で、pmgA変異株ではWSと比べて強光下におけるqPとY(II)が共に高いことが分かった。ここで、pmgA変異株ではWSと比較して強光下でのPSI活性にどの様な変化があるのかを考えてみる。まず、pmgA変異株では強光下でもPSI量の減少が見られないことから、WSよりもNADPH蓄積量が過剰になっておらず、P700は酸化的である事が考えられる。よって、強光下ではPSII活性だけでなくY(I)も高いと考察される。次に、pmgA変異株を強光下に3日間置くと生育阻害が起こっていたが、この時DCMUを加えると生育阻害が回避されていた。ここから、3日間強光下に置いたpmgA変異株ではQAよりも上流部分での阻害、すなわちPSII自体に異常が起こっていることが考えられる。よって、生育阻害が起こる強光下3日後においても、pmgA変異株のPSI活性は減少していないことが考察される。

A:「ここから、3日間強光下に置いたpmgA変異株ではQAよりも上流部分での阻害、すなわちPSII自体に異常が起こっていることが考えられる。」という部分の論理がわかりませんでした。DCMUを加えると生育阻害が回避されますが、DCMUを加え始めるのは実験の最初で、生育阻害が起こるのは3日後ですから、3日後の阻害の原因は、必ずしもDCMUの直接的な影響であるとは言えないように思います。