植物生理生化学特論 第4回講義

発光測定の方法

第4回の講義では、化学発光や蛍光を使った生物学的測定について解説しました。


Q:蛍光の測定について学んだ。そのなかでNDフィルターには2種類あって、光を吸収するものと反射するものであることを知った。吸収とは、物質中の原子が光により励起状態になって振動し、熱などの他のエネルギーに変換されること。反射とは、物質中の原子が励起状態になったあと、同じ光エネルギーとして発散させることであるが、通常どちらも当てられた光エネルギーよりも低い強度のエネルギーに変換させそれを放出させる。蛍光も、そのような原理によって発光し、吸収から発光への光強度の変遷はストークスシフトと呼ばれている。しかし、わたしは普段、蛍光顕微鏡を使う機会があるが、ときどき当てられた光の強度よりも強い強度で発光しているであろう細胞がなかにはあることを頻繁に観察する。これは自家蛍光と呼ばれる現象であるが、通常考えられないようなこの現象について、どのような原理で強く発光するのか知りたくなった。当てられたエネルギー以上のエネルギーが自然に発生することはないと考え、結論として、物質が光を吸収して原子が励起された際に、物質内部にもともと存在する熱や化学物質が働いて、より強い強度にエネルギーに移行され、放出されるのではないだろうか、と考えている。

A:もし自分の研究で蛍光顕微鏡を使っているのであれば、よい機会なので、きちんと勉強してみてください。生半可な知識で研究を進めるのは危険です。1.蛍光のストークスシフトは「光強度」の変化ではありません。「光の色」=「光子1個の持つエネルギー」の変化です。一方で、反射光の場合は照射光から吸収や透過によって光が失われますから、通常照射光よりは光強度が低下します。2.測定対象の蛍光の強さに対して自家蛍光がより強く発光することはよくありますが、これは、測定対象の蛍光発光収率が極めて低いために相対的に自家蛍光が強く見えることがほとんどです。強く見えたからといって、「当てられた光の強度よりも強い強度で発光」することはありません。そのようなことは「通常考えられない」だけでなく、通常起こりません。


Q:今回の講義の中で最も印象的だったのが、放出された蛍光は吸収された光より長波長である、という事実です。これを聞いた時、私はホタルから放出される蛍光はどうなのか?と疑問が出てきました。ホタルは光を吸収せずに自らのエネルギーを用いて蛍光を出します。これは化学エネルギーから光エネルギーに変換しているという結果です。この化学エネルギーを光エネルギーに変換する際に、熱エネルギーなどで無駄に使用していることはないのか?と考えました。効率良く変換されているなら化学エネルギーと光エネルギーがほぼ等しくなると考えられ、放出される光エネルギーが化学エネルギーを下回った場合はどこかで無駄にエネルギーを使用していることになります。化学エネルギーと光エネルギーを比較することが可能なのか分かりませんが、ここでは比較することが可能であると仮定して話を進めます。もし、ホタルなどの光を吸収しない発光を行うことが可能な生物において、放出される光エネルギーとそれを合成する化学エネルギーがほぼ一緒であるなら光エネルギーから蛍光エネルギーに変換する際にのみ無駄にエネルギーを使用していることになり。放出される光エネルギーがそれを合成する化学エネルギーを下回ったなら、蛍光という光エネルギーに変換するには無駄なエネルギー、もしくは形式の異なったエネルギーを経由しなくてはならないと結論づけることが出来ると考えました。

A:実際には、光エネルギーは光の波長と強度から直接求めることができますし、化学エネルギーは化学反応の自由エネルギー変化から求めることができます。これらは、同じ単位であらわすことができますので、ここで述べられたような実験をすれば、無駄になるエネルギーの大きさ、逆にいえば光エネルギー変換効率を求めることが可能です。


Q:生物における発光に、(1)光の吸収を伴わないもの(Bioluminescence)と(2)光の吸収が先行するもの(Photoluminescence)との2種があるのが気になった。(1)は基本的にはルシフェリンとルシフェラーゼの反応であり、これにはATPが消費される。それに対し、(2)では光エネルギーで励起されての発光であり、ATPは消費されない。吸収した光エネルギーで発光できる生物がいる一方で、何故ATPを消費して発光する生物がいるのか、その理由として、暗黒下、すなわち光がより目立つ条件下で発光するこができる、ということが考えられる。しかし、例えばオワンクラゲは、発光タンパク質イクオリンがCa2+と結合することによって青色に光り、そのエネルギーでGFPが緑色に発光する【1】ため、暗黒下でも光ることができる。よって、ATPを消費する意義として、暗黒下でも光ることができる、ということは考えられない。では何故、(1)の生物では、ATPを消費する発光機構をもつのか。(1)と(2)の大きな差異のひとつとして、環境に左右されるか否か、ということが考えられる。(1)の生物は、ルシフェリンとルシフェラーゼの反応が起こる時にのみ発光する一方で、(2)の生物は、上記の反応が起こる時以外にも、光のある環境下ではその光を吸収して発光する。このことから、(1)の生物は、環境に因らずに発光を行うことが重要であると考えられる。一方、(2)の生物においては、発光が環境に左右される可能性があるため、発光の目的は、(1)と異なることが考えられる。
参考【1】http://dyna.geo.kyushu-u.ac.jp/~yoshida/japanese/science-notes/material/light-emission.html、九州大学大学院理学研究院・吉田茂生准教授、5月9日閲覧

A:世の中にはエネルギーの保存則(熱力学の第一法則)があり、エネルギーが使われずに光(これはエネルギーそのものです)が放出されることはありません。イクオリンは蛍光タンパク質ではないので、発光に先行する光の吸収は必要ありません。また、反応に直接ATPが使われることもありません。しかし、実際の反応は、発光基質の酸化反応を伴っており、発光したらば、次に発光するためには新しい還元型の発光基質を結合しなおす必要があります。つまり、基質を燃やして発光していることになりますから、結局ATPを使うルシフェリン・ルシフェラーゼの反応と同様に、化学エネルギーを利用して光っているのです。イクオリンはカルシウムの指示役として用いられるためカルシウムを結合して光る、と説明されますが、別にカルシウムがエネルギーを供給しているわけではありません。


Q:発光、特に身近なホタルの発光に興味を持ったので調べてみた。ホタルの既知の発光メカニズムを理解したうえで、ホタルの発光色を青色にできるかどうかという点に興味が湧いた。ホタルの発光色は通常黄緑色だが、変異体では橙色、赤色と変化させることができる。これはホタルルシフェラーゼとルシフェリンとの空間的な配置により起こることが確認されている。励起状態のオキシルシフェラーゼから基底状態のオキシルシフェリンへの変化に伴うエネルギーが低くなってしまうため、低エネルギー、長波長の赤色へと発光色が変化する。これはエネルギーを低い状態にすれば良いわけで、現に実験に成功しているが、逆に高エネルギー状態の青色発光色にする方法が見つかっていない。野生型の励起状態ルシフェラーゼの持つエネルギーよりさらに高いエネルギーを持つ、変異型励起状態ルシフェラーゼを作成することは出来るのだろうか。ルシフェラーゼとルシフェリンとの空間的な配置を何通りも変えて試してみる、ATPをより多く供給してみる、基底状態のオキシルシフェリンのエネルギーを下げるなどの方法をとることはできないのだろうか。

A:レポートは評論ではないので「できないのだろうか」とオープンクエスチョンで終わるのではなく、何らかの自分なりの理屈をつけて、自分はできると考える、あるいはできないと考える、と自分の立場を明確にしてください。講義で説明したように、多くの化学発光が黄緑色光である一方、構造的な特徴に共通点があるわけではありません。前者を強調すれば「できない」結論になるでしょうし、後者を強調すれば「できる」結論を導くこともできるでしょう。


Q:蛍光物質の三つの特徴 ①蛍光波長は熱的に失われた分だけ励起光波長より長くなる ②蛍光強度は励起光強度に比べて弱い ③蛍光の寿命は基本的に短い について詳しく調べてみた結果②の蛍光強度が弱くなる原因として、蛍光物質の持続的な励起による蛍光物質の分子の構造変化と酸素による酸化があげられていた(蛍光とは ゼロから学ぶレーザー顕微鏡 オプティペディア http://optipedia.info/microscopy/fm/fluorescent/flue/)。そこで私は、次の二つの点について疑問を抱いた。まず、この励起によって生じる分子の構造変化が生物由来の蛍光にも起こるのかということ。次に、もしも生物発光においてこのルールが適応された場合、生体が発する光は時系列的に弱まるのか、ということである。これら二つの疑問を解決するため、光る植物としてヒカリゴケを対象として実験系を考えてみた。まず、ヒカリゴケを採取してすりつぶし、蛍光物質のみを抽出する。それを試料として励起光を当て分光器(あるいはフィルター)に通し光の強さを測定する。このとき試料は複数用意し、それぞれに当てる励起光の時間を変化させる。もし、この蛍光強度が時間の長さに反比例して低くなれば、生物由来の蛍光物質においても励起光の照射時間に対応して蛍光強度は低下するということになる。仮にそれが実証されたとして、次に、生物発光にもそれが適応するのかについて検討してみると、次の結果が考えられる。例えば自然界では光の強さや量には日較差があるが、それを無視して日照時間をコントロールし励起光で断続的に照射した状態と、自然の日射リズムに合わせた状態でヒカリゴケを生育し、その発光を測定し比較する。上記の仮定から推測すると、光を断続的に与え続けたヒカリゴケは蛍光強度が低下されると考えられる。一方自然界のリズムに合わせた生育環境では夜間の光の強度および量が少ないことで、その間は分子の構造へは影響を与えないと考えられるため、蛍光強度の低下は少ない(遅い)と思われる。しかしこの実験系では、より多くの光エネルギーを得た場合の光合成の増加量や、その結果植物体が新たに蛍光物質を再生産する可能性については考慮されていない。そのため、生体内における蛍光強度の測定は、更なる実験による検証が必要である。

A:色々考えている点は評価できます。ただ、そもそもヒカリゴケは蛍光で光っているわけではありません。単なる光の反射です。論理の前提となる重要な点は、何らかの方法で確認しておいた方がよいでしょう。


Q:生物発光を起こす生物はバクテリアから魚までかなりの数存在するのに対し、生物発光を引き起こすルシフェリンには数種類しかなく、多くの生物は他の生物由来のルシフェリンを食物連鎖の中で手に入れたと考えられている。それに対し、ルシフェリンによる生物発光を触媒するルシフェラーゼは固有のものを持つ生物も多い。生物発光といってまず思い浮かべるのは授業でも扱ったホタルだが、ホタルの発光の意味は仲間に存在を知らせることや、反対に自らの身が危機に瀕したときにルシフェリンとルシフェラーゼを細胞外に分泌させ、敵の目をくらませることだという。同じように発光するものとして、発光バクテリアは微妙な酸素中でも発光することから酸素の検出に用いられるが、そもそも発光バクテリアはなぜ光るのだろうか。その他の生物の体内に共生するものであれば、前述のように存在を知らせたり、逆に身を隠したりするのであろうが、そのほかの種類はどうなのだろうか。小さな個体に発光のような機能が備わっている理由はいまいち理解しがたい。一つ考えられるのは、発光バクテリアといえども発光以外にも機能しているだろうということ、その点において光ることで利益を得られるのではないかということである。光るというと単純に目立つという特徴が挙げられる。他の生物以外に見つかりやすくする(共生のために)以外にはいまいち思いつかないが、光るという現象を何か他のことに活かしているのだろう。
参考:http://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2008/200812kougi.pdf、https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/50/3/50_3_141/_pdf

A:生物の持つ特性は、そのほとんどが進化的な淘汰圧を受けているはずですから、エネルギーを使って光ることには適応的な意義があるはずである、という論理には間違いないでしょう。ただ、それだけだとちょっと当たり前ですね。その上になって、発光の適応的な意義を自分なりの論理で説明してほしい所です。


Q:今回授業で扱ったNDフィルターについて。NDフィルターには同じ透過率のものでも反射型(TND)と吸収型(ND)があり、それぞれの欠点として前者は反射光が生じそれがノイズになり得る、後者は光エネルギーの吸収により加熱するということだった。そこで両者の欠点を無くしたフィルターは作れないものか考えた。考え方としては二通りある。一つは発熱しない吸収型フィルターを作るということだ。これは吸収した光エネルギーを熱エネルギーではなく、全て他のエネルギー(例えば電気エネルギー)に変換するようなフィルターとなる。しかし、このようなフィルターを開発することは熱効率100%の太陽電池を作ることと同じであり、現在のところ困難であろう。もう一つの考え方は、反射光が一定方向に向かう様な反射型フィルターを作ることだ。方法としては、光を反射する分子を均一な向きに並べ、反射方向をそろえられれば良いだろう。光を部分的に反射するような分子にどのようなものがあるかは調べることができなかったが、技術的には液晶パネルの液晶を作るために開発された液晶光配向技術UV2A(:Ultra-violet induced multidomain Vertical Alignment)のように、紫外線により分子の方向を揃える様な技術を用いれば可能なのではないだろうか。
参考資料:SHARP社ホームページ:http://www.sharp.co.jp (2012年5月12日現在)

A:これは、自分なりの視点を導入していて評価できます。ただ、反射光の向きは通常の反射型のNDフィルタでもランダムなわけではなく、多くは180度であり、これを他の角度にしたときにどのような利点があるかを説明する必要があるかもしれません。


Q:ルシフェリン・ルシフェラーゼを持つ動植物でも、生物種により違う起源をもつのが不思議だと思った。違う起源を持ちながら、進化の過程で「発光する」必要があったからだと考えられる。何のために光るかも種によって違い、ルシフェリン・ルシフェラーゼの種類も全く違うが、他の生物種との競争を勝ち抜く中で、光ることにより存在意義を示した過程がとても興味深い。いくつか例をあげようと思う。ホタルは生殖のために発光するといわれている。深海魚は捕食・コミュニケーションのため、ということである。発光する以外に他の手段はなかったのだろうか。今挙げた例の中では、ホタルのみ陸上の動物である。雌が雄を呼び寄せるためにはとてもわかりやすいやり方である。昆虫ではフェロモンや鳴き声等で求愛行動を行う昆虫が多く、なぜ光るようになったかはよく分からなかった。しかし発光することにより求愛する動物は珍しく、確実に生殖行動を行うためにこの方法が選択されたと考えるしかない。海中に生息する動物では、コミュニケーション・捕食・威嚇・求愛行動、ということであった。光の届かない深海では、発光すること自体が目印となる。よって種同士でのコミュニケーションや、他の種をおびきよせるために発光するようになったと考えられる。他の方法ではどうだろうか。水中であるため、フェロモンなどの化学物質は必要以上に拡散されてしまう。また、鳴き声もほぼ伝わらない環境である。海中では発光すること自体がとても重要であるということだろう。

A:きちんと考察されていると思いますが、多少前半部分が羅列的ですね。この内容だったら、陸上と水中における発光の利用に焦点を絞って論理を展開すると、非常にしっかりしたものになったのではないかと思います。


Q:今回のレポートでは、講義の主眼であった測定法からは少しずれてしまいますが、生物発光について考察したいと思います。具体的には、なぜホタル同士が発光によってコミュニケーションを行うのかについてです。まずコミュニケーションを行うには、その媒体が、非常に特異性が高いものである必要があり、ホタルの発する光は、特定の波長域にピークを持ったスペクトルとなっていますが、特別尖鋭度の高いバンドとは言えないため、その波長域によって、特異性を保っているわけではないと考えられます。それよりは、その発光に規則性を持たせるといった時間的な情報を加えることによって、特異性を高めていると考える方が自然であると考えられます。では、ホタルはフェロモンなどによって発光で行っているコミュニケーションを代替させることは出来ないのでしょうか。化学物質では、光に比べて特異性も高くノイズに対する強度も強いと考えられます。しかも、その構造や反応性のバリエーションは膨大であると考えられ、シグナルとしてはこちらの方が優れているように思われます。光の方が優れている点としては、まず化学物質が他の物質や温度などによって伝達や反応が阻害されてしまう可能性があること。最大の違いとしては伝達速度が挙げられ、短い時間で情報を伝えられ効率的であるということが一つ考えられます。ただこの伝達速度の速さは、先程挙げたパターンを生みだすという部分で最も効果を発揮していると思います。パターンという時間的な情報を与えるには短い時間間隔で信号のon/offを制御できる装置が必要になると思います。化学物質でこれを行うとなると非常に困難が生じます(長いタームスケールではon/offを生み出せるとは思いますが、一つの信号を送るのに非常に長い時間がかかってしまいます)。光を使う意味は、「短い時間的なパターン」を生みだすためであると考えました。これによって、先程挙げた波長依存的ではない、パターンの組み合わせによって特異性を高めた信号を生み出せると考えられます。同じ様な媒体で、さらに複雑なパターン(高低を細かく調節できる)を持つ「音波」も考えられますが、なぜ「音波」を使わないのかについては、消費エネルギーが関係しているのではないかと予想しました。ルシフェラーゼの消費エネルギー(ATP)に比べて音を出すためアクチン、ミオシンを動かすのに大きなATP量が必要となるのではないかと考えました。加えて、音波を受容するための器官がより複雑であることも理由として挙げられると思います(光の場合単純なものであれば光受容体単一でも可能)。器官の複雑さ、エネルギー消費量を最小限に抑えるため、夜間という時間に絞り、光を使ってコミュニケーションを行うことにしたのではないでしょうか。

A:情報伝達に関しての考察としては非常に優れていると思います。ただし、生物学としては、なぜ光を使うのがホタルなのか、という疑問が重要になってきますが、その部分は弱いですね。フェロモンや音を使う昆虫も多い中で、光を使うことを選択した昆虫の生態を議論して、情報としての光の特性を説明できればさらに素晴らしいレポートになるでしょう。