植物生理生化学特論 第13回講義

植物と水

第13回の講義では、主に植物と水の関係について、気孔の開閉、雨による葉の濡れがストレスとして働く場合の研究を中心に解説し、また光合成と呼吸の相互作用について、陰生植物と陽生植物の違いや発熱する植物の研究例とともに解説しました。


Q:今回の授業で紹介されていた雨の光合成への影響について考察したいと思います。授業内では、まず雨の影響の一つとして葉の濡れというものに着目し、葉が濡れると気孔が閉じる傾向が見られ、それによってルビスコの量が半分に光合成活性が低下する。これには気孔が閉じたことによる葉内二酸化炭素濃度の低下が原因として挙げられるものの、単純に低二酸化炭素濃度ではルビスコの量は変わらないため、雨処理は低二酸化炭素濃度+αの影響を葉に与えているということでした、気孔が閉じるということが非常に強く効いているのであれば、単純に葉にワセリンなどを塗り気孔からの物質の出入りを防ぐような実験において同様の結果が得られるかなどは調べられているのでしょうか。もしこれで違う結果が得られた場合、気孔が閉じること以外に、葉が濡れていなければならないということがもしかしたら強く影響している可能性があることになります。考えられ得るのは葉の表面に付着した水分と葉の内部の水分の間に特定の物質の濃度に差がある場合は、物質の流入もしくは流出ということが起きると思いますが、表面を覆うクチクラ層などがある状態で物質の出入りは起きうるのでしょうか。加えて、上記の実験を行う前に、葉を濡らす条件を厳密にコントロールする必要もあると思います。たとえば、濡らす際の水の温度は、低すぎないか、それにより低温ストレスを与えてはいないか、葉に水分を吹き付ける際の物理的刺激の効果は出ていないかなどです。それらの可能性をすべて排除したうえで、果して気孔の開閉の影響か、水分の影響なのかが考慮できると思います。

A:ワセリンを塗る実験と、二酸化炭素濃度を減らす実験を比較した場合に、どちらが現象として複雑化を考えると、やはりワセリンを塗る実験の方でしょう。二酸化炭素の出入りの問題のほかに、物質としての影響を考える必要が出てきますから。とすると、二酸化炭素を減らす実験に加えて、ワセリンを塗る実験をしても、得られる知見はワセリンの物質としての影響になってしまいますから、あまり意味がなさそうですね。


Q:光が当たっている状況で葉が濡れ、気孔が閉じると、二酸化炭素の不足により光合成速度が下がるということであった。また同時に、光合成に関わる酵素であるRubiscoが失活し、量が大幅に減少する。Rubiscoはタンパク質である。二酸化炭素量が減少し、体液のpHが高くなり変性を起こすことが予想される。それでは、なぜ日が照っている状況でスプリンクラーからの水を浴びている、芝生のような植物は、そのような阻害を受けないのであろうか。それは、芝生に使われるような植物の多くが、C4回路を保持しているからだと考えられる。C4回路の特徴として、カルビン・ベンソン回路に移行する前に別の代謝経路で二酸化炭素を固定すること、また、その経路ではRubiscoとは別の酵素が利用されること、そして、その過程で二酸化炭素が濃縮されることで、C3回路のみを利用する植物よりも少ない二酸化炭素量での光合成が可能であることが挙げられる。つまり、芝生のような植物は、気孔が閉じて二酸化炭素量やRubiscoの量が大幅に減少しても、C4回路によって、二酸化炭素を効率よく利用することで、光が照っているのに気孔が閉じるような状況下においても生存することができるのである。それでは、C3回路しか持たない植物にとって、雨は地面に水を供給する以外は悪影響しか及ぼさないのであろうか。そんなことはない。推察ではあるが、雨が降るだけでも酵素の量が減少することから、植物は動物よりも、タンパク質の分解や再生に関わる酵素が不足しているのではないだろうか。雨が降るだけでもRubiscoの量が減るのはそのような理由からくると考えられる。つまり、雨は植物中のタンパク質の代謝を促進、補助しているのである。

A:C4光合成を結び付けて考えるのは面白いと思うのですが、細かい点でいろいろ問題がありますね。まあ、でも植物が専門ではないからそれはしょうがないでしょう。


Q:高山に生息しているセイタカダイオウは葉で花を覆うような形態をしている。何故このような形態をしているのか定かではないが、紫外線が花を形成するために必要なのではと考えた。 山のふもとでは他の植物に生育の場を奪われ、他の植物が生存できない場所での生活を強いられたために高山に生えていると考えられる。そこでセイタカダイオウは紫外線の多い環境に適応するために、大切な生殖器である花を葉で覆うようになった。しかし、セイタカダイオウは紫外線を求めるために高山に生息しているのではと私は考えた。その理由として葉を重ねて作っているドームの大きさが大き過ぎる点である。このドームは花を覆うために必要だと思われるが、紫外線を避けるためには花の大きさが進化の過程において小さくなるのではと疑問視してしまう。生殖器である花に紫外線によって変異が入ると種の保存ができない。よって、大きな花は不利な形態だと言える。しかしながら、セイタカダイオウは大きな花を維持して、花を覆う進化を遂げた、このことから、ある程度の紫外線が花の形成、成熟、交配に必要なのではと考えられる。

A:ちょっと論理にわからない部分があります。結局そうすると、あの覆いは何のためのものなのでしょうか。


Q:雨ストレスにおいても低二酸化炭素ストレスにおいても、光化学系2と光化学系1との間の電子伝達が阻害されている。葉に濡れ処理を施すと直後に気孔が閉じることから、低二酸化炭素ストレスと同様に、雨ストレス下でも葉内の二酸化炭素濃度が低下していることが考えられる。また、葉内の二酸化炭素濃度の低下に加えて、雨ストレス下ではルビスコ量が減少し、低二酸化炭素ストレス下ではルビスコの活性率が低下していることから、両ストレス下では二酸化炭素固定能力が著しく低下していることが考えられる。そのような条件下で光が当たっていると、電子伝達で作られる還元力が余るため、両ストレス下では系1と系2の間で電子伝達の阻害が生じていると考えられる。ここで、両ストレス下ともに、もともと葉内二酸化炭素濃度が低いことに加え、何故二酸化炭素固定能力が低下するのか、という疑問が生じる。葉内の二酸化炭素濃度が低い分だけ二酸化炭素固定能力を上げれば、電子伝達によって作られた還元力の余剰も最小限に抑えることができ、延いては光合成活性の低下も最小限に抑えることができるはずである。何故、雨ストレス下、低二酸化炭素ストレス下において、二酸化炭素の固定能力が低下するのだろうか。低二酸化炭素ストレスの場合、二酸化炭素を葉内に取り込もうと気孔が開くことが原因であると考えられる。気孔が開いて葉温が低下するため、ルビスコの活性率が低下するのではないだろうか。もしそうであれば、ルビスコが失活しない程度の高温下においては、低二酸化炭素ストレスは見られないはずである。一方、雨ストレスによる二酸化炭素固定能力の低下(ルビスコ量の減少)については、葉内の二酸化炭素濃度の低下(気孔の閉鎖)は関与していないことも考えられる。つまり、葉の濡れが、気孔の閉鎖とは別に、ルビスコ量の減少をもたらしていることが考えられる。

A:面白い論理だと思います。ただ、最後で低二酸化炭素ストレスと雨ストレスで共通に引き起こされるルビスコ活性の低下に、ストレスの種類によって異なる原因を想定しなければならない点がやや弱いように思います。また、そもそも、光が当たっている時に雨が降るという、非生理的な条件において、植物がうまくいろいろなプロセスを制御できているのか、という点も重要かもしれません。


Q:サトイモやハスの葉は撥水性なので、雨で濡れたところに日が当たることで起こる障害を回避している。他の植物もこの葉の構造を持っていれば障害を防げるのではないだろうか。サトイモやハスの葉の表面には葉緑体を持たない突起細胞がある。この突起細胞があるせいで、光がそこで散乱してしまい光エネルギーの損失が生じるため光合成効率が下がるのかもしれない。そうするとこの構造は、雨に多く晒される地域や水辺の植物以外は持たない方が良いことになる。突起細胞を作る遺伝子を同定してノックアウトした株を作製した場合、その株は光エネルギーを効率的に使用できるようになるだろうか。また、突起細胞は水を弾く以外の役割はないのだろうか。例えば、弱光に晒されたとき葉緑体定位運動が起こり葉緑体が突起細胞の中に移動して光を集め易くするなどといったことはないだろうか。

A:撥水の仕組みと光捕集効率の間にトレードオフの関係を仮定している点は、面白いと思います。


Q:今回は「晴天下での降雨は、雨滴により気孔が閉じた結果二酸化炭素の取り込みが減少し光阻害が起こる。それでは真夏にスプリンクラーの散水を受けてなお、一層青々と生育する芝生には光阻害は起こらないのだろうか。」という講義中の疑問について考えてみました。芝生は乾燥気候に生育する植物ですので、そのような生育環境がこの現象に関係しているのかと思い、まず芝について調べてみました。その結果、日本では大きく分けて「寒地型」と「暖地型」の芝生が生育されていることがわかりました。それぞれは、寒地形が冬でも緑を保ち生育可だが暑さには弱く、後者は冬には休眠するが夏には強く生育旺盛という特徴があります。さらにこれらの性質の差は異なった光合成の方法が基になっており、寒地型はC3型光合成、暖地型はC4型光合成を行うそうです。C4型光合成は気孔が閉じ気味でも高い光合成能力を保持できるため、蒸散を抑えるために気孔が閉じられる夏場でも光合成ができるため夏期は育ちが良い。この特性を踏まえて私は、炎天下の散水が芝に与える影響について考えてみました。降雨時に気孔が閉じるのも、蒸散を防ぐために気孔が閉じるのも「気孔が閉じる」という現象的には同じと考えられます。従って、例え散水によって気孔が閉じた場合にもC4型光合成を行う暖地型は炎天下で光合成を行うことができるはずです。但しこの仮説が正しければ、C3型である寒地型のシバに関しては光阻害が起こることになります。しかし公園や校庭に植えられているシバはどちらのタイプもあるはずですから、やはり他の要因も考えてみなくてはいけないと思います。
参考:芝生の校庭 ソフトサイエンス社:http://www15.ocn.ne.jp/~yamazou/sibatoha.pdf

A:調べたことを生かしてきちんと考察しており、素晴らしいと思います。実際には、2種類の芝を混合して植えるような場合もあるようですね。


Q:蒸散量を左右しているものは何だろうか。10cm四方の葉は約1gしか水が含まれていないのに、1時間あたり約5gも蒸散を行う。では蒸散量は何によって決められているのだろうか。主に蒸散が行われるのは気孔であるため、植物体が感じ取ることができる環境要因に大きく影響を受けていることが考えられる。たとえば、気温が上昇し葉温も上昇した場合や照度が高いとき、葉は熱を逃がすために蒸散量を増やすだろう。また湿度が高い場合は、水分は出ていくことができないだろう。しかし、二酸化炭素濃度が上がった場合は気孔を閉め、温度を上げてでも水を失わない方を選ぶことから、植物体にとって体温が上がることよりも水不足および二酸化炭素濃度が高いことのほうが深刻な問題であるということがわかる。二酸化炭素は光合成の基質になるためある程度の量は不可欠だが、必要以上の量が存在すると弊害が起こるのではないか。一定量までは光合成が促進され二酸化炭素は消費されるが、光合成の結果生成された炭水化物が蓄積してしまうと逆に光合成が抑制されるだろう。よって植物体自体の高濃度二酸化炭素によって、光合成自体も抑制されてしまうといえる。一口に光合成といっても基質が複数ある分、一概にその時々の光合成量を左右している要因を決定することは難しく、それは蒸散をはじめとする植物のあらゆる行動にも同じことがいえると考える。

A:きちんと考えていてよいレポートだと思います。ただ、二酸化炭素濃度を挙げたときに気孔が閉じることの目的としては、高濃度の二酸化炭素が何らかの阻害効果をもたらす、という他に、単になるべく水を失わないようにする、という考え方もあるでしょう。その二つを最初に切り分けて議論した方がよいでしょうね。


Q:今回授業で扱った内容に、葉の撥水性が光合成に与える影響について研究したものがあった。葉が濡れている状態で光が当たるとルビスコ量が低下し、一種の光阻害が起こるということは、園芸において(特に夏場の)昼間に植物に水撒きをすると良くないと言われていることと一致しているようで興味深かった。では葉が濡れた状態で光が当たるような環境とは自然界ではどのようなところかということについて考えてみると、熱帯雨林のスコールやイギリス等であるようなにわか雨のような晴れ間に急な雨が降るような地域があてはまるだろう。ここで、授業で紹介されていたように植物の種類により葉の撥水性は大きく異なるということだったが、熱帯雨林の樹冠に葉があるような植物やにわか雨が多いような地域に生息する植物においてこの撥水性が高くなる傾向にあると考えられる。ただいしこの傾向があるかどうかを調査するためには、年間降水量ではなく、むしろ晴れの多い地域でありかつにわか雨が多い地域かどうか、ということを念頭置きに調査する必要がある。

A:雨が多い地方の植物の葉の撥水性は高くなるはずだ、という論理だと思いますが、上のレポートにあるように撥水性のマイナス点を考えないと、全ての植物が葉に撥水性を持てばよいことになってしまいますから、論理が成り立ちませんね。


Q:雨に濡れた場合、「濡れた」ということ以外に考慮すべきことが多いのが意外だった。植物生理学という分野で考えるのであれば、雨が植物に与える影響のひとつとして物理的刺激というものは不可欠である。普段、生態学という分野で学ぶ者としては、もっと大きい範囲から事象を観察するため、そのような考え方は考えたことがなかった。ただ、生態学において、物理的刺激まで考えることは必要ないと思う。そこまでいちいち考える時間はおそらくない。時と場合により、考察する範囲をうまく設定しなければならないと思った。

A:科学において何かを考慮する際には、時間ではなく、それがどれだけの影響を与えるのかによって決める必要があるでしょう。熱帯スコールの大粒の雨の植物に対する影響が、実は吸水よりも物理的刺激の点で大きいことがわかったなら、生態学であろうがなかろうが物理的な刺激を考慮するしかありませんから。