植物生理生化学特論 第5回講義

炭素同化

第5回の講義では、葉緑体における二酸化炭素の固定反応と炭素同化の仕組みについて解説しました。


Q:ルビスコは、RuBPと二酸化炭素/酸素の反応を触媒する機能をもち、葉緑体に含まれる可溶性タンパク質の半分を占める。ところで、なぜそこまで多量のルビスコが必要とされるのか?その原因は、ルビスコが行うカルボキシラーゼ反応の効率が芳しくないことに加え、オキシゲナーゼ反応により酸素を取り込んでしまうことにある。そのため、炭酸固定の効率が低下するのみならず、多くの水とエネルギーを無駄に消耗してしまう問題点がある。多くの植物では、このようなルビスコの機能上の欠点を克服すべく、進化の過程でその機能を向上させる(カルボキシラーゼ反応の効率を上げる、オキシゲナーゼ反応を抑制させる)のではなく、その量を増やすという対策をとってきた。ところが、残念ながらルビスコの量をいくら増やしたところで、酸素と二酸化炭素を「間違う」欠点は克服しきれず、むしろオキシゲナーゼ反応が活発になってしまい、その結果として多量の水分を必要とする植物が誕生せざるを得なくなった。
 そこで、仮にもカルボキシラーゼ反応の効率を高めたり、また二酸化炭素と酸素を正確に識別することで、オキシゲナーゼ反応を抑制できるルビスコ様酵素が発見されれば、光合成に必要とされる水の量を大幅に減らすことが可能となる。実際、海苔の原料として知られるスサビノリがもつルビスコでは、二酸化炭素を正確に認識する能力が他植物のそれに比較して1.5倍高かった。また、鹿児島県トカラ列島・宝島温泉から分離された微生物からは、同様の能力が2.5倍高い「スーパールビスコ」が発見された。
 このようなルビスコを陸上植物に遺伝子組換えすることで、例えば乾燥地帯や砂漠の緑色化につながる可能性はないだろうか。また、既存の環境下でも、現存する植物の生産性を高めることも期待される。

A:ルビスコの最大反応速度と二酸化炭素/酸素への親和性の比には、逆の相関が見られるという話を講義の中でしたと思います。もし、あらゆる面で優れたルビスコを持つ生物が現れたら、そのルビスコを持つ生物が生態系の中で優先するはずです。生命の「改変」を論じる場合には、必ずそのような視点が必要です。あと、外部から得た情報を記載する場合には、必ず出典を書くようにしてください。


Q:今回の講義ではカルビン−ベンソン回路に関わる酵素としてルビスコについて学びました。ルビスコは分子量544,000の巨大複合体でRuBPと二酸化炭素・酸素の反応を触媒する酵素です。このルビスコはカルボキシラーゼ反応において二酸化炭素濃度が飽和してもLSU1分子あたり3.3回/秒という極めて代謝回転率の悪い酵素であり、この不利益を葉の全タンパク質30-50%に達する多量な量を合成することにより克服しています。今回の講義で、ルビスコについて学び何故ルビスコの代謝回転率が悪いのかという疑問を持ちました。ルビスコは先ほども述べましたが、カルボキシラーゼ活性の他にオキシゲナーゼ活性を持ちます。ルビスコの類縁関係に着目するとFormIからIVまで存在しますが、FormIIの方がIよりもオキシゲナーゼ活性が高いです。FormIVに分類される枯草菌のRLPがカルボキシラーゼ活性・オキシゲナーゼ活性を持たず、FormIIがIよりもオキシゲナーゼ活性が高いことを考えると、一度獲得したオキシゲナーゼ活性を退化させたと考えられます。おそらく太古より光合成生物によって大気組成が変動する状況に適応したのでしょう。しかし、一方でオキシゲナーゼ活性による光呼吸も現在は生理的意義が不明なままですが、光阻害の回避など何らかの役割を担っている可能性が高いと考えます。そこで、ルビスコ1分子のカルボキシゲナーゼ活性を進化させながらも、絶妙なバランスを維持するために大幅に効率を上げた分子を少量保持することはせずに、効率の悪い分子を大量に保持する方が微調整が行いやすいのではないでしょうか。

A:講義で紹介したことに自分で調べたことを合わせてレポートを書いているのは良いのですが、ちょっと中途半端ですね。重要なのは最後の自分の考えの部分です。例えば、「微調整」というのは具体的にどのようなことでしょう?また、なぜ、大量にルビスコを持っている方が微調整を行ないやすいのでしょう?サイエンスにおいては、雰囲気で文字をつづるのではなく、明確なロジックを示すことが重要です。


Q:今回の講義で生じた疑問は、「C3植物は光呼吸をするためにC4植物よりも効率が悪いともいえるのに、なぜ自然界での12Cを選り好みして使おうとするのか?」というものだ。同位体は質量数だけが違って化学的性質は全く変わらないはずである。しかもC3植物はCO2の濃縮機構を保持していないから、選り好みなどする余裕はないはずである。回路を効率よく回すために、材料は少しでも軽いほうが良さそうであることは予想できる。ではなぜC4植物は選り好みしなくてよいのか? 酵素の違いはもちろん、CO2の濃縮機構を得る進化的な過程で、光合成にある程度のエネルギーが集中する仕組みが整ったのではと考えた。Eleocharis viviparaは、構造を変化させてまで、生息場所によりC3植物とC4植物を行き来し対応する。構造を変化させるためには相応のエネルギーが必要なはずで、C4植物の持つCO2濃縮機構にはそれだけの労力をかける価値があるのだろう。

A:「光合成にある程度のエネルギーが集中する仕組みが整った」という部分の意味がわかりませんでした。このレポートも、もう少し、自分なりの論理が欲しいところです。


Q:C3植物はRubiscoを用いて二酸化炭素を固定する。また、二酸化炭素の補償点が高く、高温になるとさらに上昇し、大気の二酸化炭素濃度に近づく。これにより、成長速度が制限される可能性が高くなる。一方、C4植物は一般的なC3植物に比べて維管束鞘細胞が発達しており、この中に葉緑体が存在する。このため、C4植物は通常、維管束鞘細胞でカルビンベンソン回路を行う。また、Rubiscoの代わりにPEPCで二酸化炭素を固定する。二酸化炭素の補償点が低く、水分使用率が高く、半乾燥状態でも生育することができる。さらにC4植物はC3植物に比べて、窒素効率が高い。これはC4植物の二酸化炭素濃縮機構により、Rubiscoのオキシダーゼ反応が起こらなくなる。この結果、Rubiscoの生成量が少なくて済むためである。また、光呼吸による窒素の再放出が起こらないこともC4植物の特徴である。C4植物はC3植物に比べて光利用効率が高く、過剰な光は光化学系Ⅱや光化学系Ⅰの還元力を蓄積させ,活性酸素を発生させるため、植物にとっては害である。そのため、光を蛍光や熱として放出することにより、光呼吸で還元力を消費させたり、集光アンテナの効率を悪くしたりすることによって強光から自身を防御している。さらに、C4植物はC4経路によって効率よく炭酸固定が進むため、C3植物が利用しきれないような量の光も利用することができる。これらの理由から高温、乾燥、強光下、貧窒素土壌環境下では、C4植物はC3植物に比べて有利である。以上の特徴を見て行く限りでは、C3植物よりもC4植物の方が様々な面で優れているように見える。C3植物であるイネにC4植物であるトウモロコシのC4光合成酵素(PEPC)のゲノム遺伝子を導入したところ、トウモロコシと同等、あるいはそれ以上のPEPC活性を示すイネが得られたという研究結果もあるくらいだ。しかしながら、現実には地球に存在する植物の多くはC4植物ではなく、C3植物である。その理由について一つ仮説を立ててみた。C4植物はC3植物から進化したものであると一般的に言われている。また、被子植物にも裸子植物にもC4植物は存在する。すなわち、進化において被子植物と裸子植物に分岐する以前でこの機構は存在していたと考えられる。ここから私は、C3植物として進化を遂げていくだけでも充分環境に適応することができるため、高温、乾燥、強光下、貧窒素土壌環境下でもない限り、無理にC4植物に進化する必要はなく、その結果、C4植物に進化する必要のある植物だけが、進化し、現在のようにC3植物が多くを占めているのではないかと考えた。
参考文献:ベーシックマスター生化学、農林水産技術研究ジャーナル 21巻3号 p. 24-28  (1998-3)

A:きちんと書けています。前半の事実を述べたくだりはもう少し省略してもよいでしょう。重要なのは後半の考察です。ここで提案されているのは、乾燥条件などでなければ、C3植物はC4植物にならなくても生きられた、ということですね。ただ、それだけだと、どんな場所でもごくたまには高温乾燥状態になることがあるかもしれませんから、やはりC4植物の方が得になるように思います。ロジックとしてはC4植物が損をする条件を記述する必要があると思います。