植物生理生化学特論 第4回講義

酸化還元と電子の伝達

第4回の講義では、主に光合成の電子伝達のメカニズムについて話しました。


Q:光化学系IとIIの起源について、それぞれ独立の光合成システムとして保持していたバクテリアが細胞内共生することで、両システムが融合されたことに端を発すると紹介された。興味深いことに、講義で配られたプリントを鑑みると、バクテリアのもつシトクロム複合体は、高等植物やシアノバクテリアがもつそれとは種類が異なることが伺える。特に後者において、シトクロムb6-f複合体は光化学系IとIIを仲介する重要なタンパク質であり、単一の光化学系システムにおけるシトクロム複合体の構造や機能と比較することで、如何にして現存の光化学系システムを保持するに至ったかを進化系統的に理解できると考えた。具体的に、単一の光化学系システムに存在するb-c1複合体がなぜb6-f複合体に置き換わったのか、といった問題である。
 シトクロムb6-f複合体は、葉緑体の電子伝達系において唯一能動的なプロトンの輸送がなされる場所である。ここで、バクテリオロドプシンや類縁プロトンポンプを対象にした先行研究から、それらの内部には必ず強い水素結合を形成した水分子が存在することが分かり、さらに水分子の水素結合構造とプロトンポンプ機能は相関させられることが知られている。つまり、プロトンポンプの機能を決定する構造要因は1個の水分子に帰着できるということだ。
 具体的な実験系としては、赤外分光解析を適用し、タンパク質内部でのプロトンの移動にとって中心的な役割を果たす水分子の水素結合変化を測定することで、負電荷に水和した水分子がプロトン移動の過程でその水素結合をどのように変化させるのかを検討できるだろう。さらに系統的なアミノ酸変異を導入することで、内部に存在する水分子の水素結合状態を、赤外の伸縮振動として完全に帰属させることが提案できる。
 以上のように、シトクロム複合体の機能・構造特性を網羅的に明らかにし、さらにミトコンドリア内に存在するシトクロム複合体などとも比較していくことで、シトクロム複合体の淘汰・選別という観点から、現存の光合成システムが如何に最適化されたかについて考察できるだろう。

A:プロトン濃度勾配の形成については、呼吸系で見られるようなプロトンポンプもありますが、講義で触れたようにシトクロムb6/f複合体の部分では、プラストキノンによるプロトン輸送が重要です。もしかしたら、ちょっと誤解があるかな?


Q:窒素固定を触媒する酵素ニトロゲナーゼは酸素に反応して失活してしまうため、窒素固定と光合成とは時間・空間的に分業する必要があります。例えばAnabaenaは窒素固定能に特化したヘテロシストを分化させ、ニトロゲナーゼの失活を防いでいます。このような中で、海洋性シアノバクテリアTrichodesmium属は明期に光合成と窒素固定を同時に行うという興味深い現象を示します。Ilenaらによって、Trichodesmium属は明期に光合成と窒素固定を同時に行いながらも、時・空間的に絶妙に分業を行うことが示されました (Ilena et al., 2001, Science)。線形的電子伝達が発生した酸素を光化学系Iで還元することによって、ニトロゲナーゼを保護しており、Ilenaらは光合成が進化した初期ではニトロゲナーゼが嫌気性で従属栄養性の代謝機構に対し電子受容体として機能していたと推測しています。また進化系統樹において、Trichodesmium属は早期に分岐し、この後に完全な時間分業を行うものと空間的分業を行うものが、それぞれ進化したとされ、光化学系Iは嫌気性の環境を作り出すことから、進化の過程で選択されたのだろうと同論文内で述べられています。上述のようにTrichodesmium属が窒素固定と光合成両立の初期段階にあるのであれば、その進化速度は極めて遅いと思われます。栄養物の流入が少ない海洋では窒素固定能を有するTrichodesmium属は貴重な存在で、他のシアノバクテリアと同様に完全な時間・空間的分業を実現すべきではないでしょうか?しかし、現在の海洋について考えると、陸上や淡水と比較して嫌気的な状態が生じやすく原始的な海洋の状態に近いと言えます。そうした環境ではTrichodesmium属のような光合成初期段階の窒素固定と光合成の両立の仕方の方が効率が良いのかもしれないと考えました。

A:面白いのですが、今回の講義についてのレポートとしては、講義との関連を明示してください。全体としては、ちょっと人のストーリーに乗っかった部分が多い気がします。自分の独自の視点をアピールするためには、最後のところの「窒素固定と光合成の両立の仕方の方が効率が良い」という部分で、何がどうなれば効率がよいのかを、もう少し具体的に描けるとよいですね。そうすると非常によいレポートになります。


Q:今回の講義の中で一番興味深かったのは、PSIとPSIIの基となる2系統の光合成細菌がまずでき、それが融合して現在の藻類や植物に見られる酸素発生型の光合成システムを形成するようになったという内容です。これにより、地球上に無尽蔵に存在する水を資源にエネルギー生産を行えるようになったことが、植物自身のみにとどまらず地球上に多種多様な生命が誕生するきっかけになったのだろうと思いました。光化学系を一つしか持っていない光合成細菌は酸素を発生しないため、水を分解して酸素を発生する効率的な光合成システムが誕生しなければ、呼吸によってエネルギー生産する多くの生命は誕生できなかっただろうし、大気中に酸素が放出されずオゾン層も形成されていなかっただろうから、今とは全く異なった地球環境になっていただろうと思いました。

A:これは全くその通りなのですが、講義の内容からあまり発展していませんね。講義の内容をベースにするのもちろん良いのですが、その上に、何らかの自分独自の視点を持ち込みたいところです。


Q:Joliotによる酸素発生の4周期振動の実験が興味深かった。藻類を暗闇に置き、短時間フラッシュを照射すると4回目に光合成により酸素が発生するというものだ。なぜこのような振動パターンの形になるのか着目してみた。Kokの酸素時計が光合成を終えて、次の回転を始めるのにに必要な光エネルギーの閾値のようなものが存在し、閾値を越えると照射時間に比例してKok時計の回転角が決定すると仮定する。それでも照射回数を追うごとに振幅が小さくなっているのは,だんだん回転速度に勢いがついて回転速度も早く一定のリズムで酸素発生が行えるようになるため光が断続的でも光合成が行えるようになる。これによる生物学的意義は、弱光では光合成により無駄なエネルギーを消費せず、強光下で光合成サイクルを回しやすくして効率よく行えるようにすると考える。

A:講義で説明したと思うのですが、酸素発生の4周期振動は、線香を照射することによって反応がいわばデジタルで起こるところがミソです。なので、「だんだん回転速度に勢いがついて」というアナログな表現はちょっと・・・。振幅が小さくなる理由も、一応説明したと思うのですが、ちょっと舌足らずだったのかもしれません。


Q:光化学系Iはクロロフィルにα-ヘリックスのタンパク質が外部を覆い、複合体の中心に鉄イオンが含まれている。また、クロロフィルが複合体全体に散在している点も特徴である。光化学系IIはクロロフィルにα-ヘリックスのタンパク質が外部を覆っている点は光化学系Iと同様であるが、鉄イオンが複合体の中心だけに含まれているわけではなく、複合体全体に散在している点で異なる。また、クロロフィルも複合体全体に散在してはいるが、光化学系Iに比べると量としては少ない。私は、この2つの複合体の構造の差異を考察してみた。
 光化学系IIが光のエネルギーを受け取ると,2分子のH2Oを酸素(O2)にまで酸化できる強い酸化剤である酸素発生複合体が生成するとともに,P680を弱い還元剤(P680+)に変える。これに付随して,チラコイド内では4つのプロトンが生じる。一方、光化学系I(PS I)が光のエネルギーを受け取ると,NADP+をNADPHまで還元できる強い還元剤と弱い酸化剤が生じる。つまり,P700は光で励起されて電子を放出して酸化型(P700+)になる。P700+はプラストシアニンからの電子で還元される。ここから、光化学系IIでは、水が存在していれば電子を得ることは可能である。そのため、複合体全体に鉄イオンを散在させることによって、効率よく電子を供給する機構が発達したと考えられる。一方、光化学系Iでは、プラストシアニンからの電子供給以外の経路は存在しないため、鉄イオンを一点に集中させた方が効率がよく、鉄イオンの一点集中型の複合体の機構が発達したと考えられる。

A:「複合体全体に鉄イオンを散在させる」という話はしなかった気がするのですが。光化学系Iに鉄硫黄センターがあるという話はしましたが。それ以外のところは酸化還元電位の関係など、きちんと理解できているようですね。


Q:光エネルギーの使い方について、今まではなんとなくでしか理解していなかったが、エネルギーの視点からみると、酸化還元反応において起こりえない反応を起こすために必須であるということが、すんなりと理解できた。光化学系IIから光化学系Iのプロトンの輸送の際のQサイクルの存在を知り、想像以上の無駄の無さに感動した。意思の無い植物がこのような無駄の無いシステムを獲得出来たこということは、人の手を加えることにより、更に効率的な反応を行う植物を作ることが出来る可能性を感じた。

A:これは感想文ですね。レポートとしては、もう少し論理がほしいところです。