生物学通論 第7回講義

生物のゲノム

第7回の講義では、生物のゲノム、遺伝子などの定義を確認したのち、生物種の間でのゲノム配列の違い、あるいは個体ごとの違いについて紹介しました。


Q:「新しもの好き」が、遺伝子上の配列で決まってくるのであれば、そのほかの性格も遺伝情報によってある程度決まってしまうのではないか?と最初は考えた。しかし、遺伝子の一部分が変わるということは、かなり大きな変化を与えてしまう。たとえば、血液型を考えるとほんの一部分が変わることによって変わってしまう。なので、「ここの遺伝子がこうだからこういう性格だ」というように一対一の関係にはなりにくいのではないかと考えた。つまり、人の好き嫌いや性格は複雑な情報過ぎること、かつ、遺伝情報では変化が大きすぎるので、逆に定まらなくなってしまうのではないかと考えた。しかし、傾向はだせるので、まだ環境的な要因によって性格が定まっていない幼児などに対して、そのほかのたとえばよく聞く喧嘩をしているときなどに分泌されるアドレナリンの受容体の数を調べることで、すぐ頭に血が上ってしまう傾向があるなども調べて、教育に応用できるのではないかと考えた。

A:個人個人の違いを生み出す原因は、単独の遺伝子の変異によって0/1で決まる場合もありますし、連続的な変化を引き起こす場合もあります。さらに複数、場合によっては何十という遺伝子の相互作用によってきまる場合もありますから、なかなか一筋縄ではいきません。教育面への応用という観点から僕がやや危惧するのは、ゲノム配列から得られた情報が先入観になって本来は問題がない部分が問題化する可能性です。人の行動などは、複雑な要因によって決まりますから、現象を単純化することは常に危険を伴うように思います。


Q:ヒトとサルやチンパンジーは約600年前くらいに別れましたが、今後100万年後に人間がまだ生きているとしたら、人間と酷似した生物が存在してると思います。そうした場合、今現在生存しているヒトが下位互換になっている可能性があり、新しく分岐したヒトによく似た生物は今現在のヒトが持っていない能力を持っている可能性が高いです。こうした分岐はその当時の環境によって適応能力が関係してくる。そしてこのようなヒトとサルやチンパンジーの違いをゲノムが決めているので、サルやチンパンジーのゲノムとヒトのゲノムの違いを研究すれば、古環境や古代に何が起きていたかなどを解明でき、生物学以外の分野にも貢献できるのではないかと思った。

A:何やら面白そうな話題なのですが、時間が前後に飛ぶので、全体として何を主張したいのかがあまりはっきりしませんね。文章の最初で問題点を定義してしまう方が、わかりやすいレポートになるかもしれません。


Q:今回の講義では印象に残ったのは、親の染色体を一つずつもらうときにすでに祖父と祖母の遺伝子が混ざり合った状態で子に引き継がれるという事実だった。講義中にはその理由が話されなかったが恐らくこれは同じような個体が多数存在している状態だと、ある一つの弱点を持っていた場合それを突くような脅威(災害など)に出会った時にあっという間に絶滅してしまうからだと考えられる。ここ最近は人の遺伝子の研究の進歩が著しく、一人一人の遺伝子配列がわかる日も近いということなので、例えば近年問題になっているタミフルを服用すると暴れてしまう理由や化粧品によって肌が爛れてしまう理由なども解明できるのではないだろうか。

A:講義でも少し紹介しましたが、人によって処方する薬の種類や量を変えるオーダーメイド医療などは今後急速に進展する分野だと思います。生物の多様性と進化の関係については、講義の最後の方で一度触れる予定にしています。


Q:今回の講義では、ゲノムのことについて学んだ。その講義の中で興味を持った内容が、"私とあなたの違いは?"という、人間の違いとゲノムとの関わりについてのことである。ヒトゲノムの個人差は0.1%程度であり、特定の一か所の塩基の違いや繰り返し配列の繰り返し回数の違いなどが原因で、遺伝子の中に異変が起きてしまうと、病気や異常などとして人体に影響を及ぼしうるものであることを学んだ。また、遺伝子の変異が複数入ることにより初めて影響が現れる場合があり、人種間の髪や肌の眼の色の違いにかかわる遺伝子が、合計11遺伝子が同定されることもわかった。ここで私が考えたことは、0.1%程度しか他人とのゲノムにおける差は定義できないが、そのとても小さな差から現在の人の多様性が生じていることは非常に興味深いことであるということである。もともとのゲノムでの違いは0.1%程度であっても、成長するにつれて性格や顔、体格など様々な点で個性が生まれてくる。このような成長に伴った変化なども含めて議論をすると、果たしてすべての人のゲノム単位での違いは、必ずしも0.1%程度であるのかと疑問が生じたのである。ゲノム上に含まれる11の遺伝子を考えた上であっても、現在の全世界の人口分だけ多種多様な人を、0.1%程度での差で定義することは困難であるのではないかと考えた。

A:講義では、ゲノムの塩基配列の違いの割合と、変異がある遺伝子がどれだけあるかの割合は、全く違う数値になることを紹介しました。直感的に数値が大きい、小さいだけではなく、その数値が何を意味するのかを理解することが重要です。


Q:本日の講義はゲノムと遺伝子についてのものでした。その中で、アルコールに対する強さは、アルコールが体内でアセトアルデヒドになったときこれを分解するアセトアルデヒド脱水素酵素の働きに依存するもの、とあり、このアセトアルデヒド脱水素酵素の働きが十分かどうかは遺伝子レベルで決まっている。つまり酒に対する強さは遺伝によるものである、とありました。世界規模でみてみると、白色人種や黒色人種のひとのアセトアルデヒド脱水素酵素は100%活性型で、酒に強く、日本、中国、韓国人には低、不活性型が多い、とありました。この理由のひとつとして、もとの人類は全員が活性型遺伝子を持っていたが、モンゴロイド系の祖先のだれかに突然変異が起こり不活性型遺伝子が現れ、それが子孫に広まったというものがありますが、私は、もともとモンゴロイド系の遺伝子には低、不活性型が多くあったものだと考えます。その理由は白色人種、黒色人種とモンゴロイド系には、体格や肌の色など多くの違いがあるので、アセトアルデヒド脱水素酵素の遺伝子にも違いがあってもおかしくない、という考えと祖先の突然変異でここまで大規模な子孫に影響がでることを疑問に思ったためです。
~参照~アセトアルデヒド脱水素酵素の有無http://www001.upp.so-net.ne.jp/acacia/sake/taisitu.html

A:「遺伝子が現れ、それが子孫に広まった」ことと、「もともとモンゴロイド系の遺伝子には低、不活性型が多くあった」の違いは何かを考えてみる必要がありますね。現在のヒトの起源は複雑で、種間交雑に近いことも起こっているようですが、大本は一つであると考えてよいと思います。とすれば「もともと」とはいっても、共通祖先までたどれば同じになるわけですから、どこかの段階で変異が入ったことには違いがないことになります。


Q:講義ではヒトはゲノムの総数に対して遺伝子領域は2-3%であるということを学んだ。講義の中の表で紹介されていた動植物の中で、ヒトはゲノムの総数に比べて遺伝子領域とそうでない部分の差はかなり大きいものであった。このことからヒトが高等な生物となったのは遺伝子領域ではない部分が多いことに関与しているのではないかと考えた。遺伝子は何らかの要因で変質する場合があるが遺伝子情報を持つ部分が多いほどそのリスクは高いと考えられる。したがってヒトの遺伝子情報の領域は少ないがそれは遺伝子情報を保持するという理由もあるのではないかと考えた。

A:「遺伝子情報を持つ部分が多いほどそのリスクは高い」と考えた理由をもう少し説明した方がよいでしょう。たとえば、配列の長さあたり一定の確率で変異が入るのであれば、遺伝子配列の長さが変わらない限り、遺伝子以外の配列の部分が長くなってもリスクは変わらないことになります。


Q:授業の中で、「ヒトとチンパンジーのゲノムの違いは1%程度だが、80%の遺伝子について、それが生み出すタンパク質のアミノ酸配列に何らかの違いがある」ということを学んだ。ゲノムはその生物が持つ遺伝情報全体、遺伝子はDNAの並びの中で実際に遺伝情報を持っている部分のことを指すのなら、遺伝情報に関する違いの程度がこれほど離れてしまうとはおもえず、上記のことが矛盾しているようで疑問だった。そこで、ゲノムと遺伝子を別のものに例えて考えてみた。遺伝子をあるシリーズものの複数の本そのものとすると、ゲノムはそのシリーズ全体のストーリーの内容と例えられると思う。どれか一冊の本に乱丁・落丁があったり、本の並べ方が昇順・降順・バラバラかによって、遺伝子の並びは大きく変わるが、それらの本全体としてのストーリーは変わらない。遺伝情報全体でみるとヒトとチンパンジーは近しい存在だが、どの遺伝子配列がどの染色体に含まれているかなどで遺伝情報の重要度のランク付けが違うのだろうと考えた。

A:本の例えで解説してみましょうか。1冊十万字の本を100冊出版したとします。誤植が千字に1か所あったとすると誤植の確率は0.1%です。しかし、十万字の一冊本の中には平均して100か所ぐらい誤植があることになります。とすると、100冊の本のうち、誤植があるものの確率はほぼ100%になってしまいます。これなら矛盾しているように見えないでしょうか。


Q:ヒトゲノムのうち遺伝子領域はたったの2-3%で、その領域以外にはタンパク質の情報を持たないが、RNAとして転写される領域、繰り返し配列と偽遺伝子があり、また、ヒトとチンパンジーのゲノムの違いは1%程度ということであった。以上のことを考えると、偽遺伝子はおそらく進化の過程でヒトが使わなくなった遺伝子であろうということであったが、それならばヒトと起源を共にするチンパンジーでは、ヒトでいうところの偽遺伝子の一部はタンパク質の情報をもっている遺伝子領域となっているのではないだろうか。また、ヒトが受精卵から胎児になるまでに、これまでヒトが辿ってきた進化を母体内で繰り返すということはよく知られていることであり、この段階では後に偽遺伝子となる領域も転写、翻訳が行われているのではないだろうか。

A:面白い点に着目していると思います。個体の発生が系統進化を反映するという考え方はヘッケルが唱えたものですが、どちらかというとアイデアとしてとらえるべきで、実際にメカニズムとして同じことが起こっていると考えるのは無理があります。


Q:今回の授業では、染色体とゲノムについて、習いました。染色体の組み換え、ゲノムの意味・大きさ、遺伝情報の際による性質のちがいなどを習いました。ゲノムの数と遺伝子総数の表を見たとき、ヒトがゲノムサイズ30億個なのに対して、遺伝子総数2万個強なのに、疑問を持ちました。他のものは、大腸菌はゲノムサイズ560万個に対して、遺伝子総数3000個程度、その比は[1:0.00005]、ショウジョウバエはゲノムサイズ1億8000万個に対して、遺伝子総数2万個弱、その比は[1:0.00001]、イネはゲノムサイズ4億3000万個に対して、遺伝子総数5万個弱、その比は[1:0.00001]と、[1:n×10^-4)]で落ち着いているのに対して、ヒトは[1:0.0000006]と大きく差が開いています。この違いは何故なのか、考えたいと思います。ある種が繁栄するためには、子が全く同じ遺伝子を持ってしまうと、変わり行く環境への適応が出来ないので、完全に同じ個体を増殖させるのはある種の危険があります。なので、スニップ等のある塩基の違いによる多様性は、環境に適して行くために必要だったと考えられます。そして、様々なゲノムに対してのその塩基の変異(スニップ等)の割合が概ね等しいとすると、遺伝子総数に対して、ゲノムサイズが大きいと、必要な遺伝情報をつかさどる塩基にその変異が来る確率が減ります。これが、ゲノムサイズを大きくした所の利点ではないでしょうか。ある程度の変異は、前述の通り必要です。しかし、度を超えた変異は時として、その機能も奪ってしまいます。なので、遺伝情報が複雑な種類は、ゲノムサイズを大きくして、その遺伝情報が欠損、変異などをする確率が減らしたのだと考えました。

A:よく考えていると思います。ただ、ゲノム1個当たりの変異の確率が等しいことが前提となっていますね。配列の長さ辺りの変異の確率が等しい、と考えた場合には、結論が違ってくることに注意する必要があります。


Q:DRD4遺伝子の繰り返し回数には日本人とアメリカ人では違いがあるいうことを学び、その違いがドーパミンの受容に影響を与えているとしたらどうなるかを考えてみました。日本人はアメリカ人に比べて感情を表に出すことが少ない。このことをDRD4の繰り返し回数の違いと関係あるとする。DRD4遺伝子のある部分(48個)の塩基の繰り返し回数が日本人は4回、アメリカ人は7回であることがほとんどである。これによって、アミノ酸16個の配列も日本人が4回続くのに対して、アメリカ人は7回続くためタンパク質も異なると推測できる。回数が多いほど快感や満足感を受けやすいとすると、日本人はアメリカ人よりも受けにくいことになる。日本人は感情を表に出すことが少ないのではなく、もしかするとアメリカ人ほど感じていない可能性もある。

A:感情の表現の違いと、そもそも感情が変化しているのかどうかを区別すべきである、という論旨ですね。面白いと思いますが、そのような問題点を冒頭で定義してしまった方が、読み手にわかりやすいレポートになると思います。


Q:人の遺伝子の総数は、ゲノムサイズから推測される予想とは異なり、他の生物の遺伝子の総数とほとんど変わらないという説明があった。その理由を考えてみた。複数ある遺伝子のうち、ある一つの遺伝子のゲノムサイズが異なるのであれば、一つの遺伝子の中に組み込まれている情報量が異なってくると考えられる。人の場合は、遺伝子総数が少なくても、一つの遺伝子にあるゲノムサイズが他の生物より多く、それが人の機能性の高さと関連しているのではないかと考えている。そうすると、遺伝子数ではなく、遺伝に関わるゲノムサイズと生物の機能性で比較をしてみるとの何らかの相関が得られるのではないかと考えられる。例えば、イネは動物より機能性が低いイメージがあるので、遺伝に関わるゲノムサイズは動物に比べてかなり小さくなると予測される。また、全ゲノムサイズに対する遺伝に関わるゲノムサイズの割合がどの生物も概ね同じになるかもしれない。

A:「一つの遺伝子にあるゲノムサイズ」というのは、「一つの遺伝子のゲノム上のサイズ」という意味ですね。「ゲノム」というのは講義の中で定義したように「全体」を示す概念です。また、「機能性が低いイメージ」とありますが、機能性をどのように定義あるいは定量するかが一つのポイントになるように思います。