生物学通論 第4回講義

酵素とその働き

第4回の講義では、生体の中で触媒として働く酵素が、そもそもどのようなものであり、どうやって働くについて紹介しました。


Q:活性化エネルギーや酵素など今回も興味深い内容の講義だったが、中でも物が燃えるという現象が結局のところ科学的に説明するにはどうしたらいいのかという疑問を日頃もっていたのでそれに対する一つの考え方に出会うことができたのが最大の収穫だったように思う。今回の講義では物が燃えるというのはある反応により発生した熱が隣接部分に活性化エネルギーを超える量のエネルギーとして与えられた時に起こる連鎖反応の現れのようなものと説明された。この考えに基づくと、鉄が酸素と化合すると酸化鉄になるがゆっくりと錆びていくとき自然発火することはないのは、化合によって出される熱と活性化エネルギーの差が多すぎる(発熱量に対して活性化エネルギーが高すぎる。)と考えられる。このように反応する物質が燃えるか燃えないかで発熱量を調べればどれほどの活性化エネルギーが必要かというのをある程度範囲を決定できるのではないだろうか。

A:発熱量から活性化エネルギーを調べようという考え方は面白いですね。ただ、大学生のレポートとしてはもう少し厳密に考えた方がよいように思います。「発熱量が活性化エネルギーと関係がありそう」という雰囲気だけではなく、どのような関係で何を測定すれば何が求まるのか、という点まで本来は議論できると思います。


Q:今回の講義を受講して、活性化エネルギーと体内における反応(燃焼など)とは深い関係があり、連鎖的にかかわっているものであると学んだ。こういった反応の速度は活性化エネルギーの高低に依存しているが、この活性化エネルギーを体内の酵素を利用して下げることが可能であるならば、燃焼の連鎖の話と結び付けることにより消化器官内での食物の消化活動時間を短縮することも可能であるのではないか。いやむしろ体内ではすでにそのような燃焼を手助けする活動が無意識のうちに行われていると考えられた。

A:これも、大学生のレポートとしてはちょっと物足りないですね。


Q:今回の講義で酵素について学びました。私は酵素と温度の関係に興味を抱きました。そこで、酵素の働きを考えると加熱した食品を控えた方が良いのか、という疑問を持ったので、自分なりの意見を述べたいと思います。酵素は基本的にタンパク質であるから特徴としてあげられるのが、熱に弱いということです。前回の講義で学んだように、卵は熱をかけていないときは白味の部分は透明でとろとろしていますが、熱をかけると白く固まります。同じように酵素も、加熱されると蛋白が変成して酵素でなくなってしまいます。つまり、加熱した食べ物に、酵素の働きはほぼないということです。このため、普段の食生活において、加熱したものばかり食べず、酵素の入っている食品を摂るように心がけなければならないのではないでしょうか。酵素は何に含まれているかというと、例えば新鮮な生の食べ物です。生の肉や魚、生野菜、果物には皆酵素が入っています。また、日本には多くの発酵食品があります。この発酵食品にも、酵素が豊富に含まれています。このような食品を意識して摂取したいと思いました。また、一概に加熱した食品は良くないとは言えないので、各酵素の働きを考えて取捨選択していきたいと思いました。

A:きちんと考えていてよいと思います。ただ、前提にやや問題があります。おそらく最近耳にする酵素がらみの健康食品の広告などから、酵素が体に良い、というイメージを持っているのではないかと思います。酵素はタンパク質ですから、食べると消化されてアミノ酸に分解されてしまいます。もし、分解されなかったら、その方が大ごとで、牛肉を食べ続けたら牛になることになってしまいます。そのあたり、間違えないようにしてください。


Q:時々耳にする酵素ダイエットは、老化に伴って減っていってしまう酵素を外から摂取することによって酵素の元来の働きである代謝や排泄のサイクルのスピードが遅くなるのを助ける。ここで私は本当に外から摂取した酵素は体内の酵素と同じように働くのかということに疑問を持った。酵素は基本的にタンパク質であるため、熱によって変性したり、酸によって変性したりなど、変性を受ける場面がある。したがって、酵素がそのままの性質を保ったまま体内に取り込まれることは少ないのではないのかと考えた。また、体内に取り込まれたとしても、だ液や胃液の酸などで分解されて体内の酵素として働くことはないのではないかと思った。さらに酵素というのはなぜ減ってしまうのか疑問に思った。酵素は触媒として働くのなら酵素自体が反応するわけではないので減少しないのではないか。しかし、実際老化と共に体に脂肪はつきやすくなり、基礎代謝量も減少する。したがって、酵素が減るというのは正しいことである。このことから酵素は触媒として働く以外に自身が反応もしくは変性することでそれまでの性質とは異なる物質になる、つまり体内の酵素は減っていくのではないかと考えた。

A:酵素は食べても消化されてしまう、というのはその通りです。酵素が触媒として働くなら減らないはずでは、というのも短期的には正しいのですが、実際には、生物の体の中の物質は、タンパク質も含めて常に入れ替わっているのです。タンパク質にも一生があり寿命があると考えてもよいでしょう。分解された分、合成していれば、量は変化しませんが、分解に合成が追いつかなくなると、量は減っていくことになります。


Q:化学反応をより活発にさせる働きを持つ酵素のおかげで、消化吸収がスムーズに進行したり、体内の酸素の運搬がより効率的になったりするなど、授業内では酵素の良い働きについて知ることができた。しかし、酵素は必ずしも良い働きばかりをするものではないのではないかと考えた。免疫系にはウイルスや細菌などの侵入・感染を防ぐための酵素系が存在すると聞いたことがあるが、逆に感染を促進してしまう酵素も存在するのではないだろうか。酵素の中にはRNA やDNAの合成やコピーをとる働きを持つものがあるが、RNAしか持たないヒト免疫不全ウイルスなどは、この酵素の働きによって増殖してもおかしくないように思われる。

A:「考えた」という点はよいのですが、レポートとしては、「なぜ」そのように考えたのか、考えた根拠、あるいはせめて考えた「きっかけ」がないと言いっぱなしで終わってしまいます。全体としての論理の流れができるように書いてください。


Q:横軸に基質濃度、縦軸に反応速度を取った時に酵素反応の速度のグラフはなぜあのような曲線になるのか?授業の説明では、基質濃度が低いときは、酵素分子は自由に反応を触媒でき、基質濃度が上がれば基質と酵素が出会う頻度も比例して上昇するから、傾きは直線に近くなり、基質濃度がある程度高くなると、酵素の活性部位は、ほとんど全て基質と結合してしまうので、反応速度は理論的上限値に漸近する、と習った。しかしこの説明では納得できなかった。なぜなら、基質と反応する酵素の量はきまっているはずであり、だとしたらある程度基質濃度を挙げた時点で全て酵素と結合してしまい反応速度の上限に達してしまうと考えられ、授業で書いたグラフのような理論値に漸近していく(しかし決して理論値に達することはない)ようなグラフにはならないはずである。そして、上限反応速度に達するまで基質濃度と反応速度は比例関係になるはずである。ここで気づいたことは、この反応速度のグラフは、物体を落下させたときの速度と時間の関係を表したグラフに似ていることが分かった。つまり反応速度が上昇することによって、反応速度上昇率(物理学的に言えば反応加速度)を抑制する力が働き、それは反応速度に比例する力であるのではないかと予想した。落下運動ではそれは空気抵抗にあたるが、酵素反応では何がその役割を果たしているのかはわからなかった。

A:よく考えていると思います。「抑制する力」の本体として、基質を結合していない酵素の量の減少を考えてみてはどうでしょう。酵素の濃度は一定でも、基質濃度が上がると、基質を結合していない(これから基質を結合できる)酵素のが図は減少しますから、そのような酵素が基質と出会う確率は減るはずですよね。


Q:授業の中で扱った分子集団におけるエネルギーの分布状態は、我々生物がどうしてこんなにも分子に対して大きくなったのかという問いに関係しているのではないだろうか。分子集団におけるエネルギーの分布図によると、一定の温度であっても集団内の各分子はそれぞれ異なるエネルギーを持つということだが、これは集団内に少数といえども他の分子とは違う動きをしている分子がいるということである。例えば、閉め切った部屋に漂う埃の一つ一つを分子とし観察すると、多くの埃は下に落ちていくが一部の埃は上へ舞い上がっていくという様にだ。このような不規則な分子が集団内に現れる確率は分からないが、分子集団におけるエネルギーの分布図を見るに、おそらく分子の母集団を大きくすれば相対的に不規則な分子の割合は減ると考えられる。ここで便宜上、不規則な分子の数を全体分子数の平方根と仮定すると、100の分子の中には10の不規則な分子が存在し、この分子集団を操作しようとしてもその誤差は10%にもなってしまい、生体内では致命的な誤差となってしまうだろう。次に10000の分子集団を考えるとその中の不規則な分子数は100となり、誤差は1%になる。この1%でも生体内では大きな誤差かもしれないが、この要領で考えていくと分子集団が大きければ大きいほど生体内での誤差は限りなく小さくなり、誤差が起きたとしてもそれは些細なことに過ぎない。以上の事を考えると、我々生物がこれほど大きいのは分子を確実に制御するためではないだろうか。

A:素晴らしい!量子力学を確立した物理学者の一人であるシュレディンガーは、量子力学的な不確定性が遺伝の規則性を乱さないためには、遺伝を担う物質が巨大な結晶である必要があると論じましたが、ボルツマン分布から生物の大きさを論じるというのは、それに匹敵するといってよい大胆な考え方だと思います。


Q:今回の授業では、酵素の働き・性質、活性化エネルギー、アロステリック酵素について行いました。リゾチームの糖鎖の分解についてでは、酵素の立体構造により、気質結合部位をつくり、糖鎖をくわえこんで、加水分解反応を促すと教わりました。その際、酵素内の負の電荷を反応する場所の付近に置くことで反応しやすくしているそうです。前回の講義で、タンパク質が三次構造が変わるだけで、機能が変わるということ行いました。なので、酵素に適正温度があるのは、そのためだと思いました。低温の場合、そもそもとして、化学反応に必応なエネルギーとしての分子のスピードが足りず、高温の場合だと、分子運動が激しくなり、三次構造が変化するので、反応部位の三次構造が変化してしまい、反応しなくなるのだと考えました。
 三次構造が変化して、反応部位が変わると反応しなくなるのは、理解できますが、反応部位が変わったおかげで他の部位に対応する反応部位になること。また、反応部位が変わらずに他の部分の三次構造のみが変化し、正常に反応すること、はあるのでしょうか。前者の場合、酵素の基質特異性から考えると、可能性は低そうですが、そもそもの三次構造が変わってしまっている場合、その特異性が保たれない可能性はゼロではないと思います。確かめる方法は、三次構造の変化した酵素を、その対象外の基質にひたすら混ぜていき反応するものがあるのかないのかを調べるしかないと思うのですが、その他の基質の数が多すぎて、あまり良い検証の仕方ではないでしょう。もととも三次構造が似ている酵素の対応している基質から調べていけば、見つかる可能性は増えるかもしれません。後者の場合、反応部位の三次構造が保たれていれば、酵素のその他の反応部位が変わっても反応すると思います。確かめるには、ある酵素の反応部位のみを取り出して検証できればよいのですが、反応部位を取り出した段階で、反応部位の三次構造自体が変化してしまいそうです。酵素の中で、翻訳するさいに一次構造を誤ってしまったもので、そのミスが反応部位以外の場合の酵素が機能するのかしないのかで確かめられるかも知れません。

A:これもよく考えていますね。素晴らしいと思います。2つの論点を挙げていますが、レポートとしてはどちらか一方だけでも十分です。


Q:今回は酵素を学び、多量体アロテリック効果の例にヘモグロビンがでてきました。そのヘモグロビンについて考えたいと思います。私は冬になると手先が紫色になることがあります。紫色になる理由をヘモグロビンが酸素と結合していない状態だと仮定して、考えます。またヘモグロビンと酸素が結合した状態を赤だと考えます。ヘモグロビンは肺では多くの酸素と結合していますが、手先では消費されてしまい結合している量が肺に比べてとても少ないです。さらに肺などの体の中に比べて手先は冷えやすいため温度は低いです。また冬は他の季節に比べて寒く手先の温度と体の中の温度差は大きいです。温度と酵素の反応にも関係があるためさらに結合しにくいと考えられます。そのため手先ではヘモグロビンと酸素の結合がほとんどされていない状態であり、色が赤ではなく紫になると考えます。

A:面白い考え方ですね。この講義を受講しているのは、生物を専門に学ぶ学生ではないわけですから、必ずしも背景となる十分な知識を持っているとは限りません。その場合、このレポートのように、自分である事実を仮定して、それをもとに論理的に考えを展開する、というのはレポートの書き方としてよいのではないかと思います。


Q:リゾチームは糖鎖を加水分解させる酵素であるという説明があった。一方で、唾液に含まれるアミラーゼはデンプンを分解させる酵素であることを中学で学習した。デンプンは多糖類なので、アミラーゼも糖鎖を分解させる酵素である。それでは、リゾチームとアミラーゼの違いは何か。おそらく分子構造が違うことにより、活性化エネルギーの大きさ、温度、酵素の働く環境が変わると考えられる。また、唾液だけではなく、人間の体内にはさまざまな種類のタンパク質や糖を分解する酵素が存在していることから、酵素は体のさまざまな機能を活性化させるスイッチの役割を果たしていると考えられる。

A:これは、着目した点は非常に面白いと思うのですが、やや展開が論理性に欠けますね。もう少し、論理だててストーリーを考えることができるとよいと思います。