生物学通論 第3回講義

アミノ酸とタンパク質

第3回の講義では、生体を構成する分子のうち最も重要といってよいタンパク質について、その構造を中心に紹介しました。


Q:タンパク質は20種類のアミノ酸がペプチド結合で繋がった長い分子で、もし10個のアミノ酸によるタンパク質だとすると、20^10といっていたが、最初は数がおかしいのでは?と考えた。例えば、3個のアミノ酸によるタンパク質を考える。①ACD、②DCAというタンパク質が考えられるからだ。しかし、これはひっくり返すと同じもののような気がするが、①ではAはN末端であり、②ではAはC末端である。末端の違いを考慮すると20^10になる。しかし、光学異性体を考慮するとさらにこれの4倍になるのでは?と考えた。生物は多様性によって、繁栄してきたので、最初の生物が宇宙から飛来して、それがL型だったとしても、D型を持つ生物が生まれる可能性もあるのではと思った。特に、授業でも取り上げていたサリドマイドなどはもしかしたらD型タンパク質で出来た人間には毒ではない可能性もあるので、その多様性も進化の中で存在してもいいと思った。しかし、D型が生まれなかった理由はおそらく、狂牛病の話の中にでてきた正常なタンパク質に戻すタンパク質の存在が原因ではと思った。つまり、進化の過程で全てがD型のものが生まれたとしても逆にL型のものが害になることもあるので、それを戻すタンパク質を内包したものがハイブリットとして生き残ったのではないか?と考えた。しかし、それでは全てがD型で出来たハイブリットも生き残るはずである。だがもしこれが生まれたとしても少数であり、D型とL型による子供が出来ることが難しいと考えると、根絶してる可能性が高いから今はいないと考えても良いのかもしれない。

A:よく考えていますが、もう少し話の焦点を絞った方がよいかもしれませんね。長いレポートを書く必要はありません。最初のうちはポイントを絞って「この点はどうなっているか?」という問題的にに対して「こういう事実があるから、こうだろう」と1対1に答えを対応させると、論理構成がわかりやすいと思います。


Q:今回はタンパク質について学びました。そしてキラルな物質に興味を持ちました。原始地球にはD型とL型がみられるアミノ酸が存在していたが、いまは生体内に存在する全てのアミノ酸がL型であると知り、なぜD型が排除されたのか疑問に思いました。そこで自分なりに調べ、考察しました。調べるまではD型アミノ酸は存在しないと思い込んでいたのですが、体内でL型からD型に変化すると知りました。老化によるものだそうです。そこから考えられることとして、人間はより進化していくためにL型を選び、老化によるD型は排除したのだと思います。L型からD型に変化する理由は、老化によるものということから、紫外線を浴びることやストレスが考えられるのではないでしょうか。

A:一つだけ。「生体内に存在する全て」とは言いませんでしたよ。「タンパク質を構成する全て」と言っただけです。老化とは必ずしも関係しないD型のアミノ酸も存在します。あと、調べた事実を書く場合は、出典を書いた方がよいでしょう(文章をそのまま持ってこなければ著作権法違反にはなりませんが、レポートを書く際のマナーとして)。


Q:プリオンの異常などの動物から感染される病気はなぜ動物を介さないといけないのか。病原菌は感染してから発症するまでに潜伏期間がある。これは感染した対象の中で増殖するための期間であると考えられる。そのため、大きな体の動物で一定の潜伏期間内で発症するまでに増加するためには、ある程度濃縮されないといけないと考えられる。よって人間よりも感染しやすい動物を一度介すことが必要であると考察される。

A:最初の問題設定「動物から感染される病気はなぜ動物を介さないといけないのか」という部分がわかりづらいですね。定義自体を疑問に思っているように見えます。議論には、動物を介さない病気との比較が必要でしょう。


Q:今回の講義は’タンパク質の構造’についてのものでした。タンパク質の基となるアミノ酸ですが、その基本構造にはL型のものとD型のものがあり、化学合成時にはその両方が生じるのに対し、すべての生物はL型のみを選択して使う。という点に興味を持ちました。抗生物質や細菌細胞壁にはD型アミノ酸もありますが、タンパク質はL型アミノ酸だけからできています。また、DNAはD型デオキシリボースに核酸塩基とリン酸基の結合がもととなっており、RNAはD型リボースに核酸塩基とリン酸基の結合がもととなったものですが、これらの共通点としてL型とD型の区別のある化合物ではどちらか一方のみが生き物にとって役に立つものになると考えられます。なぜ生物がL型のアミノ酸のみを選択し使っているのかは不明ですが、上のDNAやRNAのように、一方のみ(アミノ酸ではL型)が生物にとって役に立つものであると考えました。 ~参考~生化学へようこそ(http://cgi.din.or.jp/~a-yagi/biochem/index.htm)

A:ここには調べた事実が書かれていますが、書き手の論理があまり表れていないようです。事実ではなく、自分なりの論理をレポートにするようにしてください。


Q:授業でのサプリメントにはたまたまD型のものが混じっていることがあるという話から、地球上にはD型のアミノ酸も存在するとわかった。しかし動物にはL型のアミノ酸しか存在しない。それはなぜなのか。L型とD型が同じ機能を果たす違う物質であると考えると、L型しか持たない動物とD型しか持たない動物がいる可能性がある。D型のサプリメントを含んだことで奇形が多発した話からL型とD型は共存しづらいとわかる。つまりお互いを拒絶すると考えると、生物の誕生時にはL型とD型の生物が存在したが、繁殖する過程で排除されていくうちに片方のL型になっていったとも考えられないのかと考えた。

A:話したことと、やや乖離があるように思えます。サリドマイドの話だとしたら、「サプリメント」ではなく、立派な医薬品です。それに、タンパク質を構成するアミノ酸がL型だ、という話をしましたが、その他の体内の物質がL型だとは言っていませんよ。


Q:テーマ:現在存在する生物のタンパク質の構成アミノ酸はなぜ全てL型なのか?現在の科学では地球で生命が誕生した頃の大気の組成や海水の状態をある程度把握することができており、その条件に合わせて実験室でアミノ酸を合成するとL型とD型が等量できることがわかっている。そして、このL型とD型は旋光性以外の物理化学的性質が同じである。ではなぜ生物内のタンパク質で使われるのはL型アミノ酸だけなのかという問題が生じる。調べてみると、まず事実としてアミノ酸は地上でも生成するが、宇宙空間でも生成することが分かった。このことは、地球に飛来する隕石にアミノ酸を豊富に含むものがあることからも実証されている。さらに、隕石に含まれているアミノ酸は既にL型が過剰である。しかしこのL型アミノ酸を過剰に含む隕石の落下説を受け入れても、地球上にL型アミノ酸のほうが多いことは説明がつくが、生物を構成しているタンパク質の構成アミノ酸が全てL型であることは説明できない。このギャップを埋めるにはどうしたらいいか更にいろいろ調べたところ、有機化学反応で起こる現象の一つに不斉増幅と呼ばれる現象があることがわかった。これは不斉触媒を用いて不斉反応を行ったときに、生成物の鏡像体過剰率が触媒のそれを上回る現象のことである。ここで触媒をL型アミノ酸とする自己触媒反応が起こっていたと考えれば、生物の長い歴史の中で徐々にL型アミノ酸の割合が増加していき、現在においてはほぼ100%になったと考えられる。ただし、生物学的に古い年代における生物の構成アミノ酸がほぼL型だった場合、この考え方は否定される上、そもそもD型アミノ酸のみでできたタンパク質で構成された生物がいないという証明にはなっていないので不完全であるが、自分ではここまで考えるのが精一杯だった。

A:内容的にはこれで十分でしょう。調べた事実を組み立ててレポートが構成されていますが、この講義のレポートとして要求しているのは事実ではなく論理ですから、ここまで調べなければいけないわけではありません。むしろ、知識としてはわからなくても、自分の中で論理を組み立ててそれをレポートに盛り込んでくれれば、その方がむしろよいレポートになると思います。


Q:授業では地球上のすべての生物はL型タンパク質を使っていて、その理由はまだ分かっていないという事でしたが、もしも仮に地球上のすべての生物がD型タンパク質を使っていたらどうなるのでしょうか。地球上のすべての生物は良く観察すると左右対称ではありません。授業の中で異なる一次構造は異なる三次構造を生み出すとありましたが、生物における非対称性は生物がL型タンパク質だけを使っていることに起因しているのではないでしょうか。この考えが正しいとし、地球上のすべての生物がL型ではなくD型タンパク質を使っていたならば、全ての生物の左右が逆になっていたのではないかと思います。しかし、この考えが正しいかどうかを実証するのにはD型タンパク質を使う生物が発見されないことにはどうしようもないですね。

A:これは生物の非対称性の原因を光学異性体に求めていて、アイデアとしては面白いと思います。ただ、このテーマだと議論を深めるのが難しいですね。議論を深めるには、左右対称なものとそうでないものを比較しないといけませんが、最初に「全ての生物は」として比較の可能性がなくなってしまっているので。あと考えられる方法としては、比較の対象を地球外生命に広げて議論するぐらいでしょうか。


Q:今回の授業では、タンパク質の多様性、タンパク質の構造、光学異性体、構造と機能について行いました。その中でも、卵を温めると固まるのは日常的に当たり前のことですが、その仕組みを考えたことがなかったので、熱による分子の振動が増えてタンパク質の三次構造が変わり、安定するためにまとまるという話は面白かったです。この話でも出ましたが、タンパク質が三次構造が変わるだけで機能が変わるというのは、面白いのですが、狂牛病の話の通り生物にとっては危険なのだと思います。一次構造の時点で、仮にアミノ酸100個からタンパク質が成り立っているとすると、20の100乗、約10の130乗以上の組合せになり、三次構造が異なるだけで機能が変わるのであれば、10の130乗×n通りもの組み合わせになります。その中から、ピンポイントで体の組成に必要なタンパク質を選び出しているとは、到底思えません。なので、自分はタンパク質の一次構造、三次構造において、多少の誤差があってもきちんときのうするものがほとんどだと考えました。授業で、通常とは異なった三次構造を治す機能を持っていると、言っていましたが、一次構造、三次構造において10の130乗×n−1通りの間違えをそれぞれ、完璧に治すというのは、難しいと思うので、それを治さないと絶対的に問題になる部分については、DNAを再度翻訳、部分的に入れ替える、などして、正常な構造を保っているのだと思います。
 まとめると、タンパク質の構造は多様すぎるので、多少の誤差は修復しきれないので、修復しなくても機能するものが、ほとんどだと思いました。これを、検証する実験は、生物の一部分を切り取って、同じ種類の生物と入れ替えた時に、機能するかどうかで見られると思います。同じ種類の生物でも、完璧にアミノ酸の三次構造までも等しいとは、考えにくいので、もし機能すれば、アミノ酸の大枠が等しければ、きちんと機能すると判断できると思います。

A:非常によく考えていると思います。タンパク質の一次構造は同じ生物であれば、同じと考えてよいでしょう。ここでのミスの確率は非常に低いことが分かっています。しかし、三次構造になると「完璧に」等しくない場合が生じます。ただし、これを、静的なものと考えてはいけません。タンパク質の三次構造は、常に揺さぶられていて、それを常に修復して、結果として一定の状態が保たれている、と考えられています。


Q:卵をあたためると変性してしまい固まってしまうことを習い、人間も熱中症になってタンパク質が変性して死んでしまうことを思い出して、変性していく順番を考えてみました。変性しにくい繊維状タンパク質からできている部位は細胞骨格、筋原繊維、腱、軟骨そして真皮です。これらは熱中症と関係なさそうなので扱いません。熱中症と関係のありそうな球状タンパク質からできている部位は主に血液、筋肉、酵素、ホルモンです。球状のためアルブミンのように形を補い合うのでアルブミンと同様に変形しやすいです。以前友だちが熱中症になったときに意識が朦朧として視野が狭くなったということを聞いたので、血液と筋肉の変性が熱中症ではポイントになると考え、この2つに焦点を絞って考えます。血液はヘモグロビン、フィブリノゲーン、水溶性クロブリンそして血清アルブミンからできています。また筋肉はミオグロビンからできています。まず意識の朦朧の原因としては酸素不足が考えられるためヘモグロビンの凝固が初めに起こると考えられる。ヘモグロビンは凝固が始まっていても、熱中症の人を処置するときは大きな血管があるところを冷やすため血清アルブミンまだ凝固していないと考えられる。また同時かその前後に筋肉痛や筋肉の痙攣などが起こることからヘモグロビンの次に凝固が起こると考える。それから残りのタンパク質が凝固していくと考えられる。

A:これもよく考えていますね。問題点が明確に設定されていて素晴らしいと思います。ただ、このレポートだとかなりの生物学の知識が前提になっていますが、もっと生物学の知識なしで議論を進めることができれば、むしろそのほうがよいかもしれません。


Q:タンパク質を構造上で分類すると、球状タンパク質と繊維状タンパク質に分類できる。球状タンパク質は、二次構造であるαへリックスやβシートが、球状に折りたたまれるため、水に溶けやすい性質をもつ。このため、球状タンパク質は、体内の輸送機能を持つもの(例えば、ヘモグロビン)や伝達物質(例えば、ホルモン)などで利用される。一方、繊維状タンパク質は、二次構造であるαへリックスやβシートが、平行に長く並んで形成されるため、水に溶けにくく、比較的頑丈で、柔軟性や伸縮性に富む。このため、繊維状タンパク質は、構造支持のための細胞組織や骨、筋肉などで利用される。例えば、鶏肉をちぎると裂けるようにちぎれるのは繊維状タンパク質で形成されていることが関与していると考えられる。
<参考文献>Tracey Greenwood et.al. 後藤太一郎ら訳 ワークブックで学ぶ生物学の基礎、オーム社、p14~p17

A:これだと調べ物レポートですね。中学・高校のレポートとしては高く評価されるかもしれませんが、この講義のレポートでは、自分なりの論理を評価します。単に事実を記載したレポートは評価されませんので。