生物学通論 第9回講義

DNAの複製・修復

第9回の講義では、DNAの複製と修復のメカニズムについて紹介しました。


Q:この授業では、遺伝子が複製される過程を中心に学んだ。この授業を受けて思った点は、すべての生物において共通のDNAを持つのであれば生物を人工的に復元する事は可能なのではないかという事である。極端な話をすれば、遺伝子さえ見つかればその遺伝子とあらゆる現生生物の遺伝子を駆使して絶滅した生物を復元する事が可能なのではないかという予想を私は抱いている。しかしながら、ねずみのクローン作りは成功できた例は別として実際に生物が人工的にできた例はない。では、なぜ過去に例が無いのだろうか。考えられる原因として、まず技術上の限界が挙げられる。仮に髪の毛をみつけたとして、そこから得られる遺伝子の情報は全身ではないかもしれないからである。残りの情報は近縁の生物の情報をもとに復元することで補うことができるかもしれないが、どこまでが同じ情報であるか判断できない可能性がある。というのも、生物の遺伝子によってはもともと欠落した遺伝子や他の生物の遺伝子とは違う形で置き換わる遺伝子も存在する場合がある。復元できないもう一つの原因として、倫理上の問題が挙げられる。生物の復元は、いい意味でも悪い意味でもとらえられる。良い意味でとらえるなら、その人の臓器のクローン化によって臓器移植が行える。絶滅した生物の復元により自然科学の理解を深めることができるなどが行えるだろう。一方悪い意味でとらえるなら、遺伝子という個人情報の入手による犯罪が行えるだろう。

A:問題のとらえ方はよいと思います。事実としてはいくつか考えなければいけない点があります。髪の毛は生きていないので、きちんとした状態でDNAを採取することはできないでしょう。ただし、付け根の毛根の部分なら生きています。細胞のゲノムはどの細胞でも同じですから(ただし配列に関しては3つ下のレポートを参照)、原理的は毛根からも生物を再生できます。最後の「遺伝子という個人情報の入手による犯罪」というのが具体的にどのようなものなのかがイメージできませんでした。


Q:今回の講義で、DNAの複製の際、原核生物では1か所に複製開始点があり、複製フォークは両側へ向かって進行するが、真核生物では1つのDNA上に複数の複製開始点があり、またDNAの合成は一方向にしか進まない、と扱った。ここで、なぜ原核生物と真核生物にこのような差があるのか、考察する。まず、真核生物と原核生物では、DNAの存在状態が異なる。多くの原核生物ではDNAは閉じた環状二本鎖であるのに対し、真核生物では直鎖状二本鎖で、両側に末端がある。すなわち、原核生物のDNAには方向性がないため複製フォークが両側へ向かって進行し、真核生物のDNAには方向性があるために一方向にしか合成が進まない、と考えることができる。また、複製開始点の数についてだが、これはDNAを構成する塩基対の数によるものだと思う。前々回の講義で、インフルエンザ菌(原核生物)の塩基対の数は183万であるのに対し、紹介された中で一番少ないものでも、シアノバクテリア(真核生物)の塩基対の数は394万であった。ヒトの塩基対の数は30億であり、これを1か所から複製を始めては時間がかかりすぎる、ということだろう。もしかしたら、真核生物で1か所からDNAの複製を始めるような生物が過去には存在したかもしれないが、そのような生物は増殖がうまくいかずに絶滅してしまっただろう。以上より、原核生物と真核生物の複製の違いはDNAの形状と大きさによるものであり、生物が複雑化し、DNAを構成する塩基対が増えるのに伴い、複製の機構も変化したのではないか、と考える。

A:面白い考え方でよいと思います。あと一つだけあるとしたら、そもそもなぜ原核生物に環状のゲノムを持つものが多く、真核生物ではそうでないのか、という点が議論できたら完璧です。


Q:今回の講義はDNAの複製についてであった。講義内で、DNAは複製に際し、不正確な複製が起こる確率も存在しているという点が挙げられたが、これが存在しているのは意図的なものなのか、それとも複製精度の限界によるものなのかは疑問が残った。 ただの複製のミスだとしなかったのは、突然変異などの問題が存在しているからだ。生物は、環境に適応するため進化をして生き延びようとする、そのために突然変異が起こる必要があり、すなわち複製ミスは必要なシステムとして組み込まれたのではないかということである。これを確かめることは難しいが可能性は大いにあると思う。

A:これも面白い考え方でよいと思います。ただ、論理の展開はやや浅い気がします。意図的かどうかについて、もう少し深く考えられるように思いました。


Q:DNAの複製の際に複製ミスについて考えたい。ヒトの細胞の複製ミスは10^(-11)~10^(-10)で起こると教わったが、1個体の生物を構成する細胞中のDNAが全て同じであることから、複製ミスで生まれた細胞はすぐに死んで代謝していると考えられる。全ての細胞のDNAが同じでである、という情報がなかったとしても以下のように考えるとそれが蓄積されないことがわかる。ヒトの60兆個の細胞があり、1日に10^12個程度の細胞が分裂すると、1個の細胞の分裂周期は60日程度ということになる。つまり、一つの細胞(から分裂した細胞)は、ヒトの一生を70年としても365*70/60≒426回複製が行われることになる。これは一生の間で元の細胞は(1-10^(11))^426程度になってしまうことを意味する。大まかな数字も計算できないが、同じ個所にあったはずの細胞が生まれた時と死ぬ時でだいぶ違うものになっているということになってしまう。これゆえ、複製ミスは蓄積されないと考えることができる。

A:おそらく僕の説明の仕方が悪かったのですが、「細胞中のDNAが全て同じ」ではありません。ゲノムとしてどの細胞も同じものを持っているということですが、そのDNAの配列が完璧に一致するというわけではないのです。その意味では「ほぼ同じ」というべきでした。また「生まれた時と死ぬ時でだいぶ違う」という場合の「だいぶ」というのは、おそらく元の配列に対して変異した割合を言っているのだと思いますが、その際には一つの細胞に注目することになりますから、分裂してできる細胞数とは直接結びつかないでしょう。基本的には複製ミスの確率が重要になります。


Q:DNAが損傷したとしても校正機能がついており、ポイントを絞って修復できることがわかった。もし、修復できなかった場合、これがそのまま突然変異になってしまうのだろうか。塩基配列が変わった場合でも、3つのコドンで20種類のアミノ酸を指定するので同アミノ酸がつながれる可能性がある。他にも似たようなアミノ酸がうまくつながれば、これも影響はあまりなさそうである。ロイシンとイソロイシンは構造異性体で似ている。しかし、これだけだと突然変異が日常茶飯なものだなという印象を受ける。仮定だが、塩基配列のミスで酵素がうまく合成できない場合、紫外線などの特殊な環境で形成されるチミンダイマーが除去できなくなるといった、変異が重なることではじめて影響が出るものが多いのではないかと考える。

A:変異の影響というのは、結局は確率の問題になると思います。遺伝子が変異しても表現型には表れない例が圧倒的に多いことは間違いないと思います。「重なる」という点は、影響することもあるかとは思いますが、本質的ではないでしょう。


Q:DNA中の塩基は、3つでひとつのアミノ酸を指定しているそうだ。この対応関係を表にしたものをコドン表という。コドン表を見てみると、2文字目までが決まれば3文字目がなんであろうとこのアミノ酸と対応するという場合と、3文字目まであってはじめて、対応するアミノ酸が決まる場合とがあることに気付く。それぞれのアミノ酸によってコドン表に占める割合が異なっているのだ。私は、これは生体内に含まれるそれぞれのアミノ酸(あるいはその残基)の割合を反映しているのではないだろうかと考えた。つまり、生体を形作るにあたり、大量に必要となるアミノ酸に対応する暗号は解読をスピーディにして、生産に集中するため2文字までで決定できるようにしているのではないだろうか。生体内でどのアミノ酸がどの割合で含まれているのか、という情報とそれぞれのアミノ酸がコドン表に占める割合とを比べれば考察がより広がるだろうと思う。

A:そうですね。そのような考え方は十分にあるでしょう。生体内のアミノ酸の比率のデータが欲しいところでした。


Q:DNAの元素の交換(代謝)は、複製の方法によって大きく異なると考えられる。ところで、メセルソンとスターリンの実験によってDNAが半保存的複製を行うことが示された。このことから、DNAの元素組成が当時の環境を保存し得るかについて考える。n回分裂後のDNA内の14Nの割合をPn、次の分裂までの間の生物の環境における14Nの割合をQnとする。この時、n+1回目の分裂でDNAの組成はPnとQnの平均をとるので、Pn+1=(Pn+Qn)/2が成り立つ。これを解いて、Pn=P1*(1/2)^(n-1)+Σ(k:1→n-1)Qk/2^kと表せる。DNAの複製が行われ始めて以降の分裂回数は無限に大きいと考えられ、また影響力が5%未満の変動因子は誤差範囲に含むとしたとき、上式はPn=(1/2)*Qn-1+(1/4)*Qn-2+(1/8)*Qn-3+(1/16)*Qn-4と近似できる。すなわち、過去4回分の複製の際の環境のみを保存するのである。これは地球史などの長期的な観点ではDNAの元素組成が当時の環境を保存すると言え、同位体比から古環境の復元が可能であると考えられる。事実、堀川らにより堆積物中の窒素同位体比を用いた(生物を用いたかは定かでないが)古海洋解析などがなされており、これの分析対象に古生物のDNAを用いることも可能ではないだろうかと思われる。
参考文献:堀川恵司・重光雅仁・南川雅男(2007),「窒素同位体比を用いた古海洋解析」,『海の研究(Oceanography in Japan),16(5),375-399』

A:アイデアはよいのですが、他人のアイデアに依存している部分が多いのが残念です。自分なりの論理の展開部分を増やすと、より高く評価されるレポートになります。