生物学通論 第2回講義

生体を構成する物質

第2回の講義では、生体を構成する元素についての一つの表からどれだけの情報をくみ取ることができるのかを紹介しました。


Q:生物は、動物と植物によって構成される元素の重量%の割合が異なる。植物の場合、C、H、Oが多く含まれ、そのほかの元素は先の3元素よりも少ない。動物の場合、植物と同様にCHOを多く含むが、P、Caも全体の中で比較的多く含まれている。二つの生物を比較してわかることは、どちらもC,H,Oが体の中で多く含まれているという事である。しかし、なぜ多いかという理由はそれぞれ異なる。まず植物の場合、光合成による活動を行っていること、植物の幹の主成分がセルロースであることによるためC,H,Oが必要とされる。一方動物の場合、呼吸の際に酸素を取り込み、その際に二酸化炭素と水が形成される。また、身体が様々な有機物と水でできていることからC,H,Oの割合が高い。動物の場合は、C,H,OだけでなくP,Caも比較的多く含まれているが、それは骨格が2元素で構成されるためである。しかし、なぜ動物と植物によりその構成される物質が異なるかという点は明確ではない。

A:このレポートで述べられている内容の大半は講義の中で取り上げた事項です。初回の講義の際に説明したように、この講義のレポートで求めているのは、講義のまとめや、単なる感想ではなく、自分なりの論理です。次回のレポートではそのあたりを工夫して見るとよいでしょう。


Q:私はヒトとマツの元素の重量比を見て、ヒトのほうがバランスよく存在していると思った。たしかに最も多い元素であるOはヒトのほうが多く、偏っているともいえるが、N,Ca,P,K,Sの重量比が桁違いである。ここに動物と植物の体の機能の差が表れていると考えた。複雑な動物の体を構成するにはやはり多種の元素が必要なのではないだろうか。重量比の違いの原因について知りたくなったためインターネットで調べたところ、動物のほうがタンパク質と骨格の割合が多く、体液にNaが多いのが主な原因だそうだ。タンパク質が多い原因は、細胞壁がないためで、それに伴ってOが少なくなっている。(CLINICIAN No.331 p.538-539より)私が考えたイメージでは、さまざまな臓器などがあるために重量比が異なると思ったが、実際はもっと根本的な違いだった。植物は骨格の代わりに細胞壁により形が保たれているという話を高校か中学の理科で聞いたので、その差がこの表に表れているのだろう。

A:このレポートでは、疑問が設定され、その疑問を調査によって解明しています。一般的なレポートとしては、評価できるのですが、この講義に対するレポートとしては、やはり、自分なりの論理が欠けています。「主な原因だそうだ」だけではなく、それいがの可能性はないのかといった点について、自分で考えた結果をレポートに反映させるとよりよいレポートになります。


Q:今回の講義自体に対して"先生が望んでいるであろう"レビューをすることを,今回に限り,見送ります.従って,このレビューに対しての評価を望みません.見送る理由を以下に述べます.何について自らで論理を構成すれば良いか分からなかったからです.今回の講義で"先生が望んでいるであろう物"を理解することは,できた気がします.無味乾燥としたデータから,その差異を読み取り,少しの計算と様々な背景知識を用いて,その差異に対して論理的に説明をつける.たとえば,講義では,次のような2つの可能性を示唆しました.人体におけるCaとPの割合が植物のそれよりも明らかに高いのは,ヒトは骨を持つが,植物は持たないからであること.そして,植物におけるC,H,そしてOの割合の和が人体のそれよりも高いのは,植物は光合成をできる一方でヒトはそれを行えないからであること.講義後,何について論理を構成すればよいのですか.講義で扱われなかった思考以外で,何らかの思考を自らで探して,自らで論理を組み立てればよいのですか.以上の点が不明だったので,今回の各学生のレビューに対しての各フィードバックを読み,求められる,すなわち評価されるレビューを自分なりに模索しようと思います.

A:まず、講義で話されたことが全て正しいと考える必要はないと思います。「人体におけるCaとPの割合が植物のそれよりも明らかに高い」というのは、実験に基づく事実ですから、実験が間違っていない限り正しいと考えられますが、その差が骨格に由来するというのは僕が示した解釈であって、それが正しいかどうかわかりません。僕の解釈は間違っていて、別の解釈が正しい可能性もありますし、僕の解釈が正しいとしても、それ以外の要因が存在する可能性は十分にあります。自分なら、その同じデータをどのように解釈するかを論理的に述べれば立派なレポートになります。以下のレポートには、そのようなものもあります。また、レポートの題材は、講義で扱ったデータの解釈に限るわけではありません。例えば、今回の講義であれば、単純なデータから意味を読み取るための普遍的な方法はあるのか、といったテーマでもよいでしょう。レポートを書く代わりに、レポートを書けない理由を議論していますが、それだってレポートに昇華せることは可能です。「不明だったので」書けないというだけだと論理とは言えないかもしれませんが、例えば、僕が求めるようなレポートよりももっと教育上よいと考えられるレポートの書き方を、何らかの事実をベースに論理だてて展開できれば、それも立派なレポートです。何にせよ、考える種がない、ということはまずないと思いますよ。


Q:授業中に扱った、人体と植物の体の組成の表について考える。 人体と植物を比べると、酸素、水素、炭素に比べて、窒素、カルシウム、リン、カリウム、硫黄の割合が極端に小さい。さらに細かく見ると、人体に対して植物は、窒素は1/100、カルシウムとリンは1/200、カリウムは1/40、硫黄は1/20の割合でしか含んでいない。ここで、硫黄に比べると、窒素やカルシウム、リンは人体と植物とで特に大きな差がある。このため、酸素、水素、炭素の含有量が大きくなったことで相対的にほかの元素の割合が小さくなったという理由以外に別の要因を考える必要がある。授業でカルシウム、リンについて扱ったので、ここでは窒素について考える。
 表から、植物に比べて人体は、窒素を多くの割合で含んでいることが分かる。市販されている化学肥料にはリンやカリウムとともに窒素も含まれていることから、植物体には窒素は必要であるが、リンと同様に摂取しづらいということが予想できる。その理由は何だろうか。窒素の単体は空気中に約80%と多く含まれているが、植物は空気中から直接窒素を取り込むことはできない。そのため地中から根を通して取り込むことになるが、植物が根から吸収できるのは無機窒素化合物だけである。地中に窒素は多く含まれるが、その中には有機窒素化合物も含まれる。有機窒素化合物は、動物の排泄物や死体が腐敗することによって土壌に供給されるが、それが無機窒素化合物になるためには微生物のはたらきが必要となる。このため、窒素の供給量は土壌の質と微生物のはたらきに依存することになり、移動のできない植物が大量に取り込むことは望めないのではないだろうか。一方で人間は窒素をタンパク質から取り込むが、移動可能な動物ならば、ある程度の量を摂取することは可能であろう。特に、生態系の頂点にある人間ならば、タンパク質の摂取はより簡単なこととなる。以上の理由から、植物は人体に比べて窒素を含まない、と考える。
参考文献:生物学通論 授業スライド(R.フリント、浜本哲郎 訳、数値でみる生物学—生物に関わる数のデータブック—、シュプリンガー・ジャパン株式会社、2007)、鹿児島県総合教育センター、指導資料 理科 第241号(通巻第1429号)—中、高等学校、盲、聾、養護学校対象—、2003  (http://www.edu.pref.kagoshima.jp/)

A:このレポートは、植物と動物の窒素の量の違いを問題として設定し、その理由を自分なりに考えているので、レポートの最低限の必要性を満たしています。考え方の論理は、ある意味で単純ですが、まあ、最初はこんなものでしょう。


Q:第2回の講義は生体構成物質のうち、とりわけ構成元素に着目したものであった。生物の構成元素は、地球表層部分に比較的存在する元素が多く、また動物、植物によってその存在度も生活スタイルに関連してある程度違うということであった。ここで自分が注目したのは、クラーク数では比較的多く地殻部分の地球表層に存在するケイ素が表中になく、ほとんど微量にしか生物の構成元素には含まれていないということである。ケイ素がもっと多く含まれていてもよいのではないかと考えたのは、炭素と同じく原子価が4つあるため炭素化合物に似たものを作り、生物の構成要素になれるのではないかと思ったからである。そこでケイ素が炭素の代わりに用いられない理由を考えてみた。一つ目としては、何よりも原子量が炭素よりかなり大きく、体が重くなってしまうことが挙げられる。これは生物にとっては致命的なことである。二つ目は、ケイ素化合物は地球のような惑星環境では固体のものばかりであり、ケイ素を吸収することは炭素に比べて困難であるということである。以上のようなことを考えるとケイ素を使わないのは現在の地球環境ではごく自然なことであると考えられ、生物は環境に合わせて選択的に元素を用いていることが実感できた。

A:クラーク数との比較からケイ素が生物にあまり含まれないことの意味を考えていて、よいのではないかと思います。2つの理由も、きちんと考えられていると思います。ただ、他にも同じ点に注目したレポートはありましたので、独創性という意味では、もうひと工夫の余地があるかもしれません。


Q:今回の授業では、一見何の変哲のないデータやありふれた事象でも、必ず何らかの意味があり、考察することによって様々なことが読み取れるということを学ぶことができた。今回の授業中では、人間とマツの組成データという一見つまらなそうなデータから、考察を重ねることで、植物は光合成によって二酸化炭素と水から得られるセルロース、つまりかなりの低コストで生産できる物質で、体を支えようとした結果、水素、炭素、酸素が突出して多いのだろう、という結論に達した。
 ではなぜわざわざ人間をはじめとする動物は入手するのに光合成よりもよっぽどエネルギーを消費するリン酸カルシウムを体を支えるのに選んだのだろうか、という疑問が生じた。単純に体を支えるだけならセルロースの方がコストがいいし、強度も大して変わらないどころかセルロースの方が良いはずである。これは、動物が他の生物を食べる際に、体の一部、すなわち歯を固くする必要があったことが一因ではないかと私は考えた。セルロースは強度はあるかもしれないが、固さはリン酸カルシウムに劣るのではないか、ということである。食虫植物のように消化液でゆっくりと溶かしていてはとても生きていけないため、動物は食物を噛み砕いてから消化器官で素早く消化する必要があり、そのためにリン酸カルシウムでできた歯を備えるようになり、次第に骨も余ったリン酸カルシウムで作るようになったのではないか。これが、私なりの結論である。

A:これも自分なりの論理を展開していてよいと思います。また、他にこのような論理を展開した人もいませんでしたから、独創性も合格ですし。


Q:講義中の計算で植物と人体の元素の比較をした時に、カルシウム(Ca)とリン(P)は人体に相対的に多そうだ、それは人体には骨があるからではないかという推論に達した。実際にそのように言えるのか少し掘り下げてみたい。骨の構成成分は、リン酸カルシウムと水酸化カルシウムの複合体であるハイドロキシアパタイトという物質である。化学式はCa10(PO4)6(OH)2である。Caの原子量を40、Pの原子量を31して以下考察する。ハイドロキシアパタイト中のCaとPの重量比は、40×10:31×6=2.15:1となる。講義中に示された表によると、人体のCaとPの重量%はそれぞれ1.5%と1%である。この結果を見ると仮にCaがすべて骨に使われていたとしても、全Pの1/4強は骨以外に使われていることがわかる。つまり、植物に比して人体の方がCa・Pの割合が高いのは骨があるからだという推論は否定できないが、それ以外にも大きな差を生み出している人体の仕組みがあると言わざるを得ない。

A:これは、僕が説明した理由では説明しきれない部分があることを指摘したレポートで、きちんと定量的に考察している点が評価できます。では、リンが骨以外に何をしているのか、という点にまで踏み込めれば満点ですが、生物を専門とする学生向けの講義ではないので、この講義のレポートにはそこまでは求めません。


Q:植物は光合成によって炭水化物を比較的容易に手に入れることができる為セルロースを支持機構に採用したのは自然だが、では逆にヒトは何故リン酸カルシウムに依存しているのかということが疑問として浮かんだ。植物と同様の理由だと、リン酸カルシウムはヒトにとって容易に得ることができるものであるはずだ。調べた結果、リンもカルシウムも現代人にとっては得やすいものだということは分かった(下記のURL参照)が、植物にとっての二酸化炭素、水、太陽光と同様かと問われると、そうではないような気もする。植物同様に、得やすいからという理由ではないようである。私が調べた中で最もしっくりきたのは次の説である。古代に海に住んでいる生物にとってカルシウムやリンは貴重(カルシウムは貴重とまではいかないが)、かつ必要不可欠な存在であった為、それを貯める必要があった。陸に進出する際にそれまで自重を支えてくれていた水がなくなる為、自重を支える役目に貯蓄したリン酸カルシウムを選択した、というものである。つまりもともとの役割としてはリン、カルシウムを貯めるということ、それを使って自重を支えるのにも使おうということだ。すべてが例外なく同じプロセスで進化・変化していくわけはないなと再確認した。
『リンの多い食品と、食品のリンの含有量一覧表 』 http://www.eiyoukeisan.com/calorie/nut_list/phosphorus.html、『カルシウムの多い食品と、食品のカルシウムの含有量一覧表 』 http://www.eiyoukeisan.com/calorie/nut_list/calcium.html、『カルシウムの話1』 http://homepage2.nifty.com/ToDo/cate1/hone1.htm

A:これは、最後のしっくりきた部分が、調べた結果得られたものであるとすると、やや物足りないですね。やはり、突飛でもよいので、自分なりの論理を展開してほしいと思います。