生物学通論 第15回講義

葉の色と光合成色素

第15回の講義では、光合成色素と葉の色の関係について、光合成色素の種類、葉の構造、斑入りなどの影響を中心に紹介しました。


Q:光合成色素について高校の資料集で調べてみたところ、クロロフィルaはラン藻類、紅藻類、ケイ藻類、褐藻類、緑藻類、種子植物・コケ・シダという光合成細菌以外の植物で主要な色素と紹介されていたが、そのほかの色素は種によって存在に偏りがあることに気付いた。その中で、講義の中でも紹介されたβカロテンが、緑藻類、種子植物・コケ・シダで主要な色素となっていたので、この点について考察する。講義の中で、カロテノイドは、余分なエネルギーを熱として捨てる役割を持つ、と扱った。藻類が水中で生活する一方、種子植物・コケ・シダは陸上で生活するので、より太陽からエネルギーを得ると考えられる。このため、陸上植物にはカロテノイドがより必要であると言える。また、βカロテンは橙黄であることから、長波長側の反射が強いと考えられる。海水中では深くなるほど長波長の光が届かなくなることから、植物が陸上に進出した際、βカロテンが必要になったと考えられる。水中に棲む緑藻類でカロテンが主要な色素となっている点について、これは、他の藻類との生息場所の違いが原因であると考えられる。紅藻類や褐藻類がほとんど海生であるのに対し、緑藻類には淡水生であるものが多い。講義では、浮遊物のある汚い池では長波長側の光の方が深くまで透過するということだったので、淡水に棲む緑藻類では長波長側の光を反射する必要性があったのではないかと考えられる。ケイ藻類にも淡水生のものがいるので、これだけでは説明が付かないが、原因の一つではあると思う。以上より、より長波長側の光を得やすい環境に棲んでいる植物で、βカロテンが主要な色素として存在していると考えられる。

A:β-カロテンは、カロテノイドの中でもおそらくかなり中心的な役割を果たしています。いわゆる反応中心複合体の中心部分のサブユニットは他のカロテノイドはほとんど含みませんが、β-カロテンは必ず含んでいます。今回あまり細かい話はしませんでしたが、カロテノイドだけでもいろいろなエピソードがあります。


Q:今回は色と光の関係について学んだ。既に虫に食われているように擬態してると思わしき植物の存在には感心した。今回最も気になったのは見ることのできる色の範囲である。なぜ見ることのできる色の範囲が存在するのだろうか。見ることのできる色が多いほど取得できる情報が増えて得なはずである。たとえば人間が紫外線の色を見ることができれば外がどの程度肌に有害かが一目瞭然である。ところで、紫外線が目に見えて外がいかに危険であるかわかったとして、我々にどのような影響があるだろうか。実際のところ、とる行動はそんなに変わらないはずである。外が肌に危険だと分かったとして、だからと言って外に出ないかというとそれはまた別の話である。むしろ一々危険であることを承知で太陽の下に出なければならないのは鬱陶しいに違いない。要するに、この場合「見える」ではなく「見えすぎる」となってしまうのである。情報量が多いからと言って有利とは限らない。食べ物と外敵が識別できればそれでいいのである。勿論、生体の限界点として識別できる色の範囲があるかもしれない。だがそれが必要なのであれば進化して適応した個体だけが生き残るはずである。やはり、余計な情報に惑わされないように限界点を自ら設けた結果なのだろう。

A:面白い考え方ですね。実は、人間は3色の色覚ですが、夜行性の哺乳類などは2色の色覚のものが多いですし、魚は4色の色覚を持つものがいます。今回色覚の話はしませんでしたが、そのあたりも含めて考えてみると面白いでしょう。


Q:キャベツと紫キャベツの光合成色素の有無の違いを生んだ理由を考えたい。まずキャベツは球形をしており、一般的な野菜の中で珍しい形態をしている。もともとは多くの植物のように茎に対して垂直方向に葉がついていたと考えるのが自然である。これが丸くなっていったのは生存に対して利点がいくつかあったからであろうと考えられる。その中で大きな理由となっているのが、外敵から葉によって花を守ることができるという点であろう。しかし、このことによって球の内側の葉は光が届かず充分な光合成ができていないはずである。こう考えたときに紫キャベツの球形になっている部分の葉に光合成色素がなくても生存に不利ではないということが言えそうである。つまり、使い道のなくなってしまった葉緑体は、外敵の餌となりうるたんぱく質をたくさん持つため、最初から葉緑体を持たない方が外敵からの攻撃というリスクを減らせるという利点が生まれる。この点で一般的なキャベツに比べて生存に対して少なくとも不利となっていないのではないかと考えられる。

A:外敵からのリスクを減らすために葉緑体を持たない、という考え方は面白いですね。同じ点を指摘したレポートがもう一つありました。そちらのレポートではただ、野菜のように人間が関与している生物の場合は、その性質が本当に自然の中で必要なものなのかどうか、わからないという点も指摘してありました。


Q:光合成色素について学んだ。陸の植物よりも水中の植物のほうが光合成色素の種類が多いそうだ。これは水中のほうが陸上よりも多様な光環境にあるためで、つまり、植物は自分のいる環境下で最も効率よくエネルギーを得ることのできる波長帯の光を吸収しやすい色素を持っているということだ。陸上においても水中においても同じ波長帯の光を吸収するより、植物によって異なる波長帯を吸収していれば光をめぐる競争も少なくなるはずなのに、なぜ可視光領域の光を吸収する色素が多いのだろうか。その理由は第一に可視光領域の光は地球上に多く降り注いでいるためという理由があるだろう。異なる波長を用いたくとも、そもそも地球上にやってくる量が少ないのかもしれない。ただ、あまり強い光を受けると植物にとっても害になることがある。可視光領域以外の光でも害にならないちょうどいい量であることと、他の生物との競争にならないことを満たすような光を利用する植物は存在するかもしれない。

A:実は、実際に、赤外線を光合成に使うことができる藻類や細菌が存在して、これらは他の光合成生物が可視光を吸収してしまうような環境に生きています。推測が当たりましたね。


Q:葉の表側は,柵状組織があることで葉の裏側より光を効率よく通すこと一方で,裏側では海綿状組織が光を多く反射する要因となっている.そこで,光を取り込む部分と,反射する部分が必要なのかと疑問に思った.もし,柵状組織,海綿状組織,柵状組織と並ぶように葉の断面が形成されていれば,光を効率良く葉の内部に送り込むことができ,光合成の効率が高まるのではないかと考えた.実験系としては,何も細工していない葉と,別の柵状組織が葉の裏側に貼り付けられ,柵状組織,海綿状組織,柵状組織と並ぶように細工された葉(どこかから,柵状組織を切り取っておく)でどれほど,光を吸収するか,あるいは光合成の効率がどうなるかを調べてみればよいと思う.

A:生物の仕組みを考えるにあたっては、環境とのかかわりを考えることが重要です。葉の裏側にも柵状組織を持った方が良いかどうかは、葉の裏側からどの程度光が来るかによって大きく変わるでしょう。そのあたりの考察が必要でしょうね。