生物学通論 第2回講義

生体物質とタンパク質の構造

第2回の講義では、生体を構成する元素について考えたのち、アミノ酸とそのアミノ酸から構成されるタンパク質について解説しました。


Q:人体と植物の構成元素について比較をする。まず、人体を占める酸素、炭素、水素の重量%と植物のそれを比較すると、人体では酸素が、植物では炭素が最も多くなっている。これは、人体の細胞が酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する活動のみ行うのに対し、植物は光合成を行うことができるため体内で炭素を生み出すことが出来ること、また植物特有の蒸散という活動により水分を体外に排出する活動のために植物の構成元素は炭素が相対的に多くなっているといえる。また、人体と植物の両方が構成元素のほぼ100%をそれらが占めていることから、双方とも炭水化物、タンパク質、脂質といった有機物で構成されているといえる。
 次に残りの窒素、カルシウム、リン、カリウム、硫黄に着目した場合、重量%が大きい順に並べると人体では窒素、カルシウム、リン及び硫黄、カリウムとなるのに対し、植物では硫黄、窒素、カルシウム、カリウム、リンとなっている。まず人体のカルシウムに着目する。人体は骨によって形作られている。その骨の主成分はカルシウム化合物である。また骨の役割に血中カルシウム濃度を一定に保つためにカルシウムを貯蔵するというものがある。そのため人体ではカルシウムの割合が多くなるといえ、リンについても骨の構成元素の1つであるため、同様に言える。次に、植物についてだが、カルシウム、カリウム、リンに比べて硫黄、窒素があまりにも多量であるため、まず前者の3つからクラーク数と照らし合わせて考える。この5つの元素について、クラーク数つまり地表付近の元素の割合はカルシウム、カリウム、リン、硫黄、窒素の順に多くなっている。しかし、どの元素も化合物として存在しているため、植物は根からそれらを吸収することが困難である。そのためカルシウム、カリウム、リンについては植物の構成元素としては少なく、クラーク数の順に多くなっていると考えられる。では、窒素及び硫黄はクラーク数では他の元素よりも少ないのに対し、植物の構成元素としては他よりも多くなっている。それはカルシウムなどが土中に存在するのに対し、窒素や硫黄は空気中にも存在するからだと考えられる。空気は流動性があるため植物が出会う可能性も高くなるため、空気中には存在が少ない硫黄でさえ十分に摂取することが考えられる。またさらに従って植物は呼吸や光合成のための酸素や二酸化炭素以外の物質も葉から吸収できると考えられる。

A:だいたいよいと思います。でもこれほど分量は多くなくても構いませんよ。焦点を絞った方がむしろ自分の論理の筋道をはっきり通すことができると思います。


Q:生物の構成元素の割合の表を授業で見た。その表がもし構成元素の量を示したものであるならば、個体差が大きく生じるはずだ。しかし割合を調べた場合その差がどの範囲で収まるのだろうか。表にあらわされたデータはどのようにしてとられたのだろうか。平均をとるにしても生物の場合、岩石とちがって状況で構成成分が変化するので難しいとかんがえられる。

A:問題点の設定としてはよいと思いますが、この後に、「どうなっているはずだ」あるいは「どうするのがよいだろう」といった、自分なりの論理展開をつけることがレポートとしては大事でしょう。


Q:三大栄養素の一つとして重要なタンパク質であるが、人間は食肉や大豆などから摂取できる。では、その大豆はどこからタンパク質を取り入れているのか疑問に思うが、植物は食事から摂取することが不可能である以上、外部からもう少し小さな単位で取り入れていることが考えられる。タンパク質より小さな単位はまずアミノ酸、更に小さくするとO,C,H,Nといった元素が考えられる。ここで、植物はタンパク質の材料をどうやって取り入れているのかという問いに対し、①アミノ酸を取り入れ、体内で結合してタンパク質をつくる②アミノ酸の元となる物質を取り入れてアミノ酸を体内で合成し、さらに結合してタンパク質をつくる、と2つの説が考えられる。①について考えると、土壌のアミノ酸を取り入れているのだろう。②について考えると、土壌から取り入れていることと、空気中から取り入れていることが考えられる。植物は呼吸によってOを取り入れることも、光合成によってCを取り入れることも可能であるし、肥料では窒素やリンと言ったものが主成分のものがあるので、②の説が有力だと私は考えるが、①の可能性を否定するためには、・根毛をアミノ酸のように分子が大きいものは通らない・土壌中にアミノ酸は十分な量存在しなくても植物が育つ、などといったことを確かめる必要がある。元素を取り入れることが出来て植物体内にアミノ酸の合成機構が存在しても、同時にアミノ酸そのものを取り入れる仕組みが存在することは否定できないからである。

A:素晴らしいと思います。自分で問題点を設定し、それに対して複数の仮説を立て、さらにその仮説の適否を自分なりの基準で判断しています。


Q:狂牛病の原因が、肉骨粉の殺菌のためのホルマリン処理による細胞の構造変異によると解説を聞きいて、そのメカニズムは今後の精査で明らかにするべきだと考えた。また、単純に草食の牛が肉を食べたことによって異常な細胞変異などは起こったりしないものなのかと疑問に思った。「ライオンは草を食わない」のになぜ牛は肉を食えるのか。消化器系の退化と進化が背景にある。退化の方に進化した種が合わせることはできないものなのか。他の種で試して同じような結果になれば、大筋近い結論が言えると考える。

A:いくつか疑問文が含まれていて、それは問題設定として評価できるのですが、そのあと、もう少し自分なりの論理を展開することが望まれます。例えば、ポンと「消化器系の退化と進化が背景にある」と書かれていますが、なぜそのように思うのかという理屈がないと科学的なレポートとしては物足りなく感じます。


Q:今回の授業では生物の主な成分について学びました。植物と動物では骨格となる成分が異なり、植物はセルロースが、動物はリン酸カルシウムが骨格となっていました。これは植物が光合成で糖をつくることができるが、動物にとって糖は自分では生産できない貴重なエネルギー源であるためリン酸カルシウムが骨格となっているということでした。それでは、他の成分で骨格は作れないかと考えてみました。骨格に必要な条件としてはある程度の強度を持っていて身の回りにあるものであることが考えられます。 まずは鉄です。鉄は強度もあり身の回りに存在しています。しかし、鉄は比重が重く骨格に使うとその生物の重さはとても重くなってしまうと考えられます。体重が重くなればそれだけ動くためのエネルギーは多くなり効率が悪くなります。植物のように動かなければそれほど多くの鉄をとりいれることは難しいと考えられるため、鉄は生物の骨格にはふさわしくないと考えられます。次に炭素です。炭素は糖の原料ですが炭素単体で骨格をつくれるか考えてみます。炭素は結合の仕方によってはダイヤモンドのように硬くもなります。しかし、ダイヤモンドは生成するのは難しく骨格をつくることは難しいと考えられます。ダイヤモンドでなくても炭素で骨格をつくることはできると思われますが、強度としては弱く、単体ではほかの物質と化学反応しやすいなどが考えられるため、骨格にはふさわしくないと考えられます。全ての物質については考えられていませんが、植物の骨格がセルロースであり、動物の骨格がリン酸カルシウムとなっていることはそれぞれの条件が十分に満たされていたためであると考えられます。

A:これは「他ではダメなので今の方法がよいのだろう」という論法なので、条件を網羅していないと完璧とは言えませんが、少なくとも問題設定から結論までがきちんと展開されていてよいレポートだと思います。


Q:生物を構成するアミノ酸がなぜL型だけなのかという問題に興味を持った。しかし、進化というものすごく長いスパンが想定されているものにたいして実験をすることはできないので、現在の説を調べ自分でもどんな可能性があるか考えてみた。よくわかっていないようだが、L型生物が生き残ったとする説や、宇宙に起源を求める説がある。まず、初期地球でD型、L型生物が生まれてL型生物だけが生き残ったと考えるのは難しいと思う。何らかの環境変化に対しD型だけが弱いというのは考えにくいし、L型生物がD型生物を全滅させたとも考えられない(そもそも相手がD型生物だと識別できない)。だから、どちらか一方が生き残ることを科学的に説明するのは難しいと思う。また、宇宙からやってきたとする説は宇宙でD型アミノ酸だけが排除されるしくみを、公平に証明できれば面白いと思うがどうなのだろう。還元的な環境でできた保存のよい化石からアミノ酸が出れば昔の生物も調べられると思ったが、調べてみるとラセミ化といって、L型がD型に変わることが分かった(これが年代測定に使われている)。この問題は生命誕生の謎と絡んでとても難しい。進化論では、進化の途中は説明できても最初の生命誕生は説明できていない。このまま解決されないのではないかと思ってしまうくらい難しい問題だと思う。

A:きちんと考えていると思います。確かに進化というのは実験的に証明するのは難しいのですが、革新的なアイデアで実験的な証明を思いつけば大発見でしょうね。


Q:まず、授業で挙げられたD型がいない理由に対して一つ考えがある。それは、L型とD型が混ざっているアミノ酸もあったかもしれないのではないだろうか、ということである。混ざっているアミノ酸の中のD型のみが、偏光などによって分解されL型になったということも考えられる。次に、アミノ酸にはD型のものとL型のものがあり、全ての生物はL型のアミノ酸から出来ていると授業で習ったが、調べたところ、人体には水晶体など色々な所にD型のアミノ酸があるということが分かった。人体のD型アミノ酸はL型のものが老化などから変化してできたものであるということは、人体にとってはD型はいらないアミノ酸になる。そして、偏光によってD型が分解されたのなら、体内にある老化によってできたD型のアミノ酸をL型に戻すことで何か人体にとって良いことがあるかもしれないと考えられる。また、アミノ酸は水と二酸化炭素が原料であり、D型は偏光で分解されるということからキーワードを挙げると、水、二酸化炭素、光の3つになり、植物の光合成と類似している事が分かる。それ以上のことは残念ながら私には何も思いつかないが、光合成と関連して考えるとD型について新たな発見があるのかもしれないと感じた。

A:もしかしたら誤解があるかもしれませんが、L型のアミノ酸であるのはタンパク質を構成するアミノ酸です。単独のアミノ酸としてはD型のものも報告されています。老化によってD型のアミノ酸が生じるという話は知らなかったですね。一般的な事実ではなくて何か典拠がある場合はなるべく出典を書いてくださいな。(ただし、このレポートのような引用の仕方が著作権上問題があるというわけではありません。念のため。)


Q:タンパク質の一次構造が三次構造を決定するということだったが、一次構造の決定によって三次構造すべてが決定するというのが疑問であった。というのも、一次構造が決定したとしても、二次構造がどのようになるのかわからないからである。二次構造は一次構造のタンパク質が二本、水素結合によってつくられるものであるが、これには必ずHとOがなければならない。確かにアミノ酸には−Hがあるものの、残りの炭化水素基に必ずOがあるわけではないだろう。すなわち、いくつも連なったアミノ酸のうち、どの部分で水素結合が可能であるのかは、一次構造の段階においてはわからないはずである。三次構造が二次構造でできた鎖状のタンパク質の空間的、立体的な広がりを見せたものであるから、それは当然一次構造で結合したアミノ酸の、特に炭化水素基の部分の空間的、立体的な広がりに制約を受けるだろう。そういう意味では一次構造が三次構造を決定すると言える。しかし、それは同様に一次構造のタンパク質と対になるもう1つのタンパク質についてもいえるはずである。それならば、水素結合している位置や、炭化水素基同士の影響なども三次構造に深くかかわるはずである。一次構造が三次構造を決定するというのは正しいが、一次構造だけで三次構造のすべてが決定するわけでもないはずだ。実際に、とあるタンパク質について少しずつアミノ酸を入れ替えていけば三次構造に微妙な変化を持たせることはできると思うのである。

A:これもきちんとかが得ていてよいレポートだと思います。特に講義の内容を鵜呑みにしていない点が評価できます。実際には、タンパク質の鎖は、片側から一つ一つアミノ酸をつなげていく形で合成されます。そうするとステップ一つごとに一番安定な構造を取るでしょうから、三次構造は一義的に決まるかもしれません。ただし、その他の三次構造を取りえないか、というと別の三次構造が存在し得る可能性はあるでしょう。


Q:植物は、水や二酸化炭素があれば光合成によって簡単に糖をつくることができるため、体の形の維持のために糖をつくっているということだった。つまり、私たち人間とは異なり、糖を贅沢に使っているのである。では、水や二酸化炭素が少ないところではどうなのだろうか。それらがなかったら、糖が得にくいために糖を贅沢に使うことはできないのではないか。以上のような疑問をもったため、砂漠地域のサボテンを使い、そのサボテンの中で糖がどのように利用されているか調べる実験を行いたい。砂漠地域にあるサボテンは、水が少ないために光合成をしにくく、糖をあまり作れないと予想するので、糖の使われ方も他の植物とは違ってくるのではないかと思う。一方で、ウィキペディアによると、サボテンはCAM型光合成を行っており、光合成による水分の損失を最小限に抑えているという。このような事実から、サボテンは糖を作りにくいと安易に予想することはできないのかもしれない。
参考文献:サボテン‐Wikipedia http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%9C%E3%83%86%E3%83%B3(4月22日閲覧)

A:問題設定もよいし、論理展開も悪くはないのですが、両論併記に終わってしまうとやや消化不良の印象を与えるので、自分の立場をどちらかに定めた方がよいかもしれませんね。○○の可能性もあるが、自分は××のように考える、とした方がすっきりします。これは表現テクニックの問題なので、本質的なことではありませんが。


Q:今回の講義では人体と植物(マツ)の原子質量の構成比が提示された。双方とも進化の過程から複雑な構成を獲得しているが、酵素による化学反応が持つ影響は非常に大きいだろう。その中で植物は光合成により獲得する炭水化物を身体形成に利用している事から、いかに光合成を効率的に行うかが進化の方向性の一つになるのは妥当と考えられる。例外としては食虫植物などが思い浮かんだが、(日本食虫植物愛好会、http://homepage3.nifty.com/jcps_tanabe/shoka.htm、2012年4月22日アクセス)によるとおよそは自身の消化酵素によって吸収している様である。通常植物はCHO以外の原子は土壌に依存しているのだから、食虫植物は通常の植物よりもCHO以外の組成比が高いものと考えられる。ただそれを利用しているとは考えにくく、吸収の際に体内に取り込まず組成比がそれ程変わらない可能性も高い。

A:これも両論併記タイプですね。これなどは、せっかく食虫植物という面白い題材を思いついたのですから、それを最大限に生かして、「大きくは変わらない可能性もあるが、論理的には食虫植物の方が普通の植物よりCHO以外の元素の構成率が高いはずだ」と言い切ってしまった方がよいでしょう。実際にどうかは別として、「論理的には」間違いないでしょうから。


Q:人体と植物(マツ)の構成元素の比率をくらべてみた。やはり生物はO,C,Hの占める割合が高く、人体は特にOが、マツは特にCが多かった。また、人体はN,Ca,P,K,Sも1%前後であるが含まれているのに対し、マツはそれの100分の1、もしくはそれ以下ほどしか含まれていなかった。その理由として、(CH2O)nで表される、糖、炭水化物、セルロース、でんぷんのうち、植物は幹となる部分にセルロースをたくさんもっているのに対し、動物の骨は、リン酸カルシウムでできているということがあげられる。ほかに植物と動物の違いとしては、植物は形を作るために糖を、動物はエネルギーの原料として糖を摂取しているということがあげられる。植物において、この糖は、水と、空気中の二酸化炭素から光合成にて得ている。
タンパク質について。20種のアミノ酸がペプチド結合でつながった長い分子。異なる1次構造は異なる3次構造をうみだす。これは、アンフィゼンのドグマと言われている。ヒトは20種類のうち、11種までをほかのアミノ酸、もしくは中間代謝物から生成することができるがあとの9種類はそれができないため、必須アミノ酸とよばれている。必須アミノ酸は食事によって摂取しなければいけない。
狂牛病について。プリオンの異常が原因とされている。牛に異常プリオンを含む肉をたべさせたことにより、正常プリオンが異常プリオンに変異し、発症するとされている。狂牛病の肉を食べたヒトがクロイツフェルトヤコブ病などを発症し、問題となった。

A:成績の評価について話したと思いますが、僕の講義では、事実を調べただけのレポートは評価しません。また、複数の点について論じたレポートより、1つの点を深く論じたレポートの方を高く評価します。成績の評価方法については「お知らせ」にも記載しときましたので、今後のレポートを書く際の参考にしてください。