生物学通論 第11回講義

DNAの複製・修復

第11回の講義では、DNAの構造からその複製機構について解説し、また、DNAが損傷した時の修復機構とともに、DNAの切り貼りを行なう、いわゆる遺伝子工学的手法についても触れました。


Q:生体内にDNAの特定の塩基配列を切断する制限酵素があることを学んだ。外来DNAから身を守るために存在する機能のようだが、そのような酵素の考えてみた。ある生物の生体内に制限酵素が存在するということは外来DNAと自己のDNAに違いがあるということが必要である。異なるDNAの部分を切断しなければ、自己のDNAまで傷つけてしまうからだ。そのため生体内に侵入する外来DNAの数が増えればその分だけ、制限酵素の種類も増える必要があると考えられる。従来にない外来DNAが増えるたび制限酵素が作られ、対応してきたとするならば、同生物内でも制限酵素がことなるかも知れない。そこから各地域の生育環境の違いをみることができるのではないだろうか。

A:よい点に気がついたと思います。ここで述べられているように、外来DNAごとに制限酵素を作る、という考え方とは反対に、むしろ自分のDNAを特殊にする、という方法もあると思います。自分のDNAの構造を何か少し修飾したり、特定の配列を使わないようにしたりということをすれば、異なる外来DNAに個別に対応する必要がなくなりますから、実際にはそのような方法を取ることが多いようです。


Q:真核生物の二重らせんDNAは①ほどけやすくするためなのか、それとも②ほどけにくくするためなのだろうか。まず、らせんの構造をとっている理由を考える。らせんの構造をとること、そしてそのらせんが更に巻かれた状態になることでより小さな空間に情報を凝縮できるということも考えられるが、2本並んだだけの構造であれば、転写や複製の際、最初にらせんを酵素の力によってほどく手間が省けるということを考えると、らせんはほどくのに手間がかかるということで、②のためと言えるのではないだろうか。次に、二本鎖の塩基同士が互いに水素結合をしていることを考える。水素結合は共有結合よりも弱い結合であるため、理由をつけるとすれば明らかに①である。このように、構造を見ると①と②どちらのためとも言える。構造以外ではどうだろうか。ヒトの細胞数は60兆個と言われている。1日に0.1~1兆個の細胞が分裂することを考えると、細胞によって頻度の差はあっても、平均して1年に1回くらい、要するに細胞1個を見るとしょっちゅう分裂しているわけではないと言える。しかも、1回の分裂にかかる時間は1時間程度である。ということであれば、ほどく手間を考えるよりも、バラバラになってしまうことや絡まってしまうことを防止する必要があるだろう。複製は向きは違えど2本の鎖で同時に起こっているため、バラバラになってしまうことのデメリットは大きいと言える上、バラバラになることで他の鎖と絡まってしまって、傷ついてしまうこともデメリットとして考えられるからである。塩基同士が水素結合であることは、らせんの構造によって十分頑丈になっているため、そこまでしっかり結合している必要が無いからではないか。以上のことより、真核生物のDNAは②ほどけにくくするための構造をとっていると考える。

A:これも面白い点に注目しています。ここでは議論されていませんが、らせんになっていると、ほどいた時に当然ねじれます。生物は、このねじれを解消する酵素も用意しています。その意味でも「ほどけやすくするため」ではなさそうですね。


Q:DNAが二重螺旋構造であることについて考えてみる。DNAは普段は二分されないようにある程度安定した構造であることが望ましいが、複製する時には二分するため安定しすぎるのも良くないと思われる。DNAが二重螺旋構造でなく平行に直線的に延びたものだとすると左右から力がかかった時に簡単に二分してしまうと思われるが、二重螺旋構造であれば安定した状態を保てると考えられる。二重螺旋構造は普段の安定性と複製時の二分のしやすさのバランスが取れている構造であると思われる。今回の授業でDNAの複製である一定の確率で誤りができてしまうということを学んだ。この誤りをできる限り少なくすることが重要になる。そのためにDNAの修正機能を持っているが誤りを見つけるときに規則的に並んでいればその誤りの部分を探しやすいと考えられる。この点においても二重螺旋構造は規則的であり適していると考えられる。普段の安定性と複製時の二分のしやすさのバランスという点から考えるとDNAが毛糸のように球体状に巻かれる構造でも代用できるようにも思える。球体状の構造の場合二重螺旋構造よりも場所を取らないなどの利点も考えられるが、球体にするための仕組みやエネルギー、DNAの読み取りやすさや修正しやすさなどを考えたときに不便さが出てきてしまうと考えられる。渦巻状にした場合を考えてみると2つの渦巻を重ねたような構造(ガムテープの両端がそれぞれDNAの鎖だと考えると市販された状態)と平面的に二本の渦巻が並んで巻かれている構造(ガムテープを紙に渦巻状に貼っていった時の状態)の二通り考えられた。一つ目の渦巻構造では普段の安定性が低いと考えられ、二つ目の渦巻構造では内側と外側で鎖の長さが変わってきてしまうと考えられるためどちらもふさわしくないと思われる。このことからもDNAが二重螺旋構造であることが理にかなっていると考えられる。

A:保存状態としてのDNAの構造は、講義でも触れましたが、ヒストンというタンパク質に絡みついたような形でコンパクトにまとめられています。ですから、保存状態と二重らせんの構造を直接絡めて議論するのは難しいかもしれません。


Q:RNAワールドと、生命の熱水起源説について。熱水環境でタンパク質のようなものが生成されるため生命の熱水起源説があるが、RNAは高温で不安定ということから両説が同時に成り立つのだろうかを考えた。熱水噴出孔は超高温であるが、少し離れた場所でならRNAが存在できるかもしれないから、温度だけではなく、熱水の組成(金属イオン等)やpHの条件(RNAはアルカリ溶液で分解してしまう)を変えてRNAが分解されない環境は熱水噴出孔付近に存在しうるかを調べたら面白いと思う。また地球科学の視点から生命誕生(と考えられている)の頃の熱水噴出孔と現在のものが同じと考えてよいのか検討が必要だと思う。

A:その通りでしょうね。温泉などの源泉に行くと、源泉から流れ出した川が源泉からちょっと離れたところに藻類がたくさん生えていることがあります。これは、温度がちょうどよい範囲に生物が存在している例ですが、熱水噴出口でも同じようなことが起こる可能性はあるでしょう。


Q:DNA分子の損傷は1日1細胞あたり最大50万回程度発生するといわれている。DNA分子が損傷すれば、生物にとって悪影響を及ぼす。DNA分子損傷の原因として、正常な代謝活動に伴うもの(DNA複製ミス)と環境要因によるものがある。生物は今日まで、環境に適応しながら、また競争に勝ちながら生き残ってきた。しかし、なぜそのような生物が、正常な代謝活動の中で、DNA複製ミスを起こしてしまうのだろうか。DNA複製ミスを起こさないような進化をとげてきてもいいように思ってしまう。このことから、DNAの複製ミスは生物にとって何らかの意味をもっている、と考えることはできないだろうか。DNAの複製ミスが起きなければ、同じ遺伝情報が受け継がれていく。かつては、気候の変化や環境の変化が大きく、同じ遺伝情報が受け継がれていくだけでは、その生物種は生き残れなかったと考えられる。そのため、あえて複製ミスをすることで、環境の変化に適応する進化をとげることができたのではないだろうか。しかし、今ではそのような環境の変化はほとんどないため、DNAの複製ミスがプラスに働くことはほとんどなく、生物にとって悪い影響を及ぼすことが多くなったのではないかと考えた。

A:これも面白い点に注目しています。進化については、残りの講義の中で少し触れる予定にしています。