生物学通論 第9回講義

光合成の初期反応

第9回の講義では、光合成において光エネルギーが化学エネルギーに変換される仕組みについて解説しました。


Q:生物の進化を考えていく上で、そもそもの生物の起源を考えることは非常に大事なことである。今回の授業では生物の使うエネルギーという観点から、酸素をエネルギーとして使うものから二酸化炭素を使うもの、さらには硫酸などを還元してエネルギーを得るものなど様々な細菌が存在していたということをあつかった。では、実際にどちらが先にいたのだろうという鶏が先か卵が先かというような議論が出てくる。地質学的な観点ではどう見れるか考えてみた。酸素が地球にある状態は、シアノバクテリアの光合成による大量の酸素生成と、それに伴う海洋中の鉄イオンの酸化による縞状鉄鋼層の形成が証拠となる。この層が形成される以前については現在より極端に酸素が少なかったと推測される。では硫酸還元細菌やメタン合成細菌についてはどうか。硫酸還元細菌はSO4(2-)をH2Sへ還元するが、その際34S/32S同位体比が変化し、H2S側に32Sが濃集することがわかっているため、鉄とH2Sの反応による黄鉄鉱を見れば、その同位体比から証拠が得られるかも知れない。メタン合成細菌については、CO2を用いた酸化反応によりエネルギーを得ており、メタンが生成されることから、その存在自体は容易に確認ができるだろうが、海底堆積物中で有機物を分解しているということが現在の研究でわかっており、現存する細菌と太古のものを単純に同じだとすると、有機物という下地が必要となり、生命の起源としては考えにくいのではないだろうか。

A:最後の部分、「有機物という下地が必要」という点に関しては、実はすべての生物に当てはまります。化学合成細菌は確かにエネルギー源として無機物を利用できますが、その利用のためのシステムはタンパク質であり、有機物なのです。ここでも「鶏が先か卵が先か」の議論が生まれてしまうというわけです。


Q:酸素発生の量子効率と波長の関係を見てみると、波長が短いと光子のエネルギーが高くなるため本来であれば単調減少をするが、実際には500nm付近では他の可視光領域に比べて少ない。これは葉緑体自身の色と同様の波長である可視光を反射するためだと考えられるが、緑色の波長よりもかなり低い400nmほどの可視光でも光子のエネルギーが非常に大きくなることを考慮するとあまり大きくない。それはなぜなのだろうか。可視光よりも波長が小さいものは紫外線やX線があるが、これらに共通するのは強度が大きすぎることである。人間の日焼け・皮膚がんなども考慮するとたんぱく質が確実に破壊されているため、葉緑体においても同様に破壊されているのではないだろうか。紫外線やX線まではいかなくとも低波長の可視光は光子エネルギーが大きすぎるため、葉緑体が受けるエネルギーよりもむしろ強すぎるエネルギーによる葉緑体の破壊が進行してしまうためトータルの酸素発生量が減少してしまうと考える。葉緑体に含まれるクロロフィルがより小さい波長まで吸収可能になれば光の吸収効率が改善され酸素発生量・エネルギー獲得量が増加するのではないだろうか。また、今回は光合成に焦点を当てたため葉緑体に限定した議論だったが、他の細胞に関しても細胞の各々の器官が発する波長を下回るような相対的に強いエネルギーをもった波長の波が破壊をしてしまっているのではないかと考える。

A:紫外線が主に破壊するのはタンパク質というよりはDNAですね。遺伝情報が紫外線によって攪乱されることが生物にとっては一番大きな問題点です。また、波長依存性に関しては、光の吸収は「起こる」「起こらない」の二者択一で、起こった場合の反応はどの波長の光の場合でも同じなのです。なので、光のエネルギーには依存しない収率になります。


Q:反応中心の概念においての説明で、photonひとつに影響が与えられるとそれが全体に広がってしまうというが、本当に全体に広がってしまうのかと疑問に思った。全体にある意味やみくもに伝えるより経路をしっかり決めたうえで伝達が行われた方が短時間で効率よく反応が行われるとおもうからだ。例えば、この話は反射神経にも繋がっていくのではないかと思う。効率よく伝達が行われていれば転んだときに手のつく早さによって自身の身を守ることができる。

A:ある1地点から別の1地点に経路を作る場合には確かに1つの経路に決めた方がよいでしょうね。ただ、ある空間に配置された100分子のクロロフィルからのエネルギーを1か所に集める場合はどうでしょうか?分子ごとに経路を決めるのは案外不効率かもしれません。


Q:光合成の仕組みは2つに分けられる。一つは明反応で光エネルギーを化学エネルギーに変える反応、もう一方は暗反応といい、明反応でできた化学エネルギーを使って二酸化炭素からブトウ糖を作り出す反応である。この明反応で重要な役割を果たすのがシトクロムb6f複合体である。しかしこの物質は光合成をしないのに光合成色素をもっている。この事実についてはいまだ解明されていない謎である。この謎に対しては、呼吸と光合成とが似ていることから、今でこそ光合成色素は光合成をするためのものであり、呼吸とは別ものであると認識されているが、光合成色素が誕生したときには、呼吸と光合成の役割はさほど分岐しておらず、その名残が残ったと考えることができると思う。また、光合成色素には光エネルギーを吸収するアンテナの役割があるが、現在よりも変動が激しかった太古の地球環境に適応するために、呼吸だけでは補いきれないエネルギーを余すところなく利用するために残されたものであると考えられる。このことは真核生物の細胞にも葉緑体が残っていることからも言えると思う。または、授業内でも出ていた構造の上での重要な理由もあるのかもしれない。

A:明反応・暗反応という言葉があまり適切でない、という話は来週しますね。光合成が呼吸になったのだと、クロロフィルが名残であるという説明がわかりやすいのですが、実際には呼吸の方が起源が古いとされていますので、やや説明が難しいように思います。


Q:しじみのおいしい食べ方について。しじみは汽水域に生息するが、食塩水につけると浸透圧調整され、実に有機酸(旨み成分)が蓄積されるようになる。その後ざるの上におき、布をかぶせるとしじみは殻を閉じ、殻の中は嫌気状態になる。このとき貝柱を使ってからを閉じるのでエネルギーを消費する。そこでフマル酸が呼吸によりコハク酸に変わる。しじみ汁やしじみの味噌汁の味はコハク酸によるものである。思うに、これはしじみだけにはかぎらないのではないか。アサリも砂をはかせる際に、食塩水につけるし・・・。すなわち、貝ならどれでもこの方法でおいしくなるのではないか。美味いものを美味くするだけでなく、あまり実のはいっていない、さほどおいしくもないと言われている貝(例えばカガミガイなど)にこれは応用できないだろうか。これは貝の種類にもよるので、何個体か試さなくては一慨になんともいえないが、成功すれば貝の食文化は平成の世の中にきて、おおいに広まると思う。

A:シジミのおいしい食べ方についての理解は完璧ですね。話した甲斐がありました。シジミ以外のものに適用できるかどうか、という点ですが、浸透圧調節は、あくまで「調節」ですから、環境の浸透圧が変化することが前提です。海にいる貝だといつでも海水ですし、池にいる貝ならいつでも淡水ですから浸透圧を調節する必要がありません。つまり、少なくとも浸透圧調節の部分に関しては海水と淡水の比が潮加減によって変わる汽水域の貝でないとダメだと思います。


Q:生命の起源は、深海熱水噴出孔が現在有力な説とされている。確かに実験で、粘土鉱物の表面で、アミノ酸が脱水重合することが確認されているため、私もこの説はかなり有力だと思う。しかし、昔生命ははじめ宇宙から来たという説を聞いたことがある。木星の衛星エウロパには、表面の氷殻の下に、海と熱水噴出孔が存在する可能性が高いらしい。また、隕石を調査すると、人類をはじめとする地球上の生物の全てのタンパク質を構成する左型アミノ酸が、隕石には多く含まれている。さらに、原始の地球大気中でも合成可能なことが実験で確認されているらしい。私には、こんなにも地球に様々な生物が存在するので、生物の起源がすべて同じところから発祥したとは思えない。深海熱水噴出孔や大気中という地球起源の生命もあれば、隕石にのって宇宙から来た生物もあると思う。
参考HP:「山賀 進のWeb site」http://www.s-yamaga.jp/index.htm
「覚礼原野」http://www.geocities.jp/fukuhara_1919/index2.html
「生命は海底の熱水噴出孔から生まれた?」http://home.hiroshima-u.ac.jp/hubol/biosphere/deepsea/hydrothermal.htm
「マイコミジャーナル」http://journal.mycom.co.jp/news/2009/03/18/046/index.html

A:今、地球でみられる生物の遺伝暗号(コドン表)を調べると、度の生物でも多少の違いはあっても基本的にはほぼ一緒です。暗号自体はある意味で、別の暗号表を使ったからといって困ることはないはずですから、そこから考えるとすべての地球生物は単一の起源をもっていると考えられます。一方で、その起源が宇宙由来かもしれないという点については否定できませんし、アミノ酸などの材料が宇宙由来かもしれないと思っている人は少なくないでしょうね。


Q:光合成は呼吸と異なり勾配が上向きであり、Z-schemeの形態を取るから、光エネルギーの活性を得なければ反応が起こり得ないことを理解した。生物学通論実験にて、強い日差しと室内の蛍光灯の光の強度(ルクス)の差がとても大きいことを学習し、実際に電気で光合成を起こそうとしたが上手くいかなかったことを思い返せる。私は以前は少量の光を当てれば、光に反応する葉緑体を含んだシステムが機能し始め、少量でも酸素や糖を作ると考えていた。Z-schemeを見ると、エネルギー位置の一番低い光学系IIにおいても最低エネルギーは正であるはずだから、複数の複合体を経て反応を起こす為にはある程度大きい強度の光を照射することにより、連続的と言うよりは断続的に活性エネルギーを与える必要があるようである。

A:ここの部分の理解はなかなか難しいですね。光のエネルギーといった場合、その光に含まれる光子の数という意味と、その光子1個の持つエネルギーという意味があります。前者は光量(正確には光量子束密度)、後者は光質(いわゆる色)に相当します。光が光子からなることを考えると、実際には光のエネルギーは必然的に「断続的」になります。


Q:光合成の酸化還元電位のグラフで、光化学系IIの反応中心だけがH2Oより下にあるため、H2Oを分解することができる。このため2つの光化学系を持つシアノバクテリアはH2Oがあれば反応をはじめることができ、世界中に広がったのではないか、と考えられている。だが、反応中心がH2Oよりしたにあるのは光化学系IIだけであるので、これが地球上にたくさんあるH2Oを利用するために、反応中心が下になるように変化したのではないか、と考えた。もう一つ疑問に思ったのが、反応中心は電子を放出してP+の形になるが、その電子は帰ってこないので、電子がどこからか補給されなければP+のままになってしまうこいうことである。そのままでは次の反応を起こせないのでどこからか補給されるのだと思うが、それがどこからなのか、そのときにエネルギーは必要でないのか(まわりに還元状態のものがあれば必要ないが、なければ必要?)、と考えた。

A:実はP+になった穴を埋めるための電子がまさに水から来るのです。酸化還元電位のグラフの矢印の一番下の部分がPに相当し、光が当たることによってP+になると、今度は水から電子を引き抜いてPに戻ることになります。電子を引き抜かれた水は酸化されることになりますから、酸素になります。うしろの光化学系Iの場合は、光化学系IIから流れてくる電子が使われることになります。