生物学通論 第6回講義

DNAの複製と修復

第6回の講義では、DNAを複製する仕組み、複製の際の誤り、そしてDNAの損傷の修復機構について解説しました。


Q:本日の講義では、主に高分子であるDNA及びDNAの複製、ゲノムと遺伝子という内容を行った。DNAはそれ単体で一つの分子である。シャルガフが発見したDNAの塩基組成の特徴として、AとTの数が等しく、GとCの数が等しいというものがある。これにより、それぞれAとT、GとCが対になっているとこがわかり、後にワトソン・クリックによるDNAの二重らせん構造の発見に繋がった。しかし、何故生物のDNAは二重らせん構造をしているのだろうか。複雑に暗号化されているDNAの複製を容易にするためだろうか。また、主溝と複溝はDNA複製にあたり、どんな影響を及ぼすのか。

A:最初に説明したとおり、単に疑問を提示するレポートは評価しません。疑問が生じたら、頭を絞って自分で回答を考えてみる習慣をつけてください。


Q:DNAはデオキシリボ核酸といい、デオキシリボースを成分とする核酸のことで、アデニン、チミン、グアニン、シトシンの4種の塩基を含んだ2重螺旋構造をなすものである。生命体の細胞核内に存在し、遺伝情報伝達の本体として働く。細胞が分裂しDNAが複製される時、DNAの2重螺旋構造がほどかれて、それぞれの鋳型を作り、2つに分裂することができる。しかしこの複製には誤りがかなりあり、一日に分裂する細胞の数を考慮すると生物の細胞分裂時のDNA複製には間違いが多発しているということができる。そしてこの遺伝情報の間違いが生物進化のきっかけとなるといわれている。
 生物の進化の歴史において、地球環境に適合できなかった種は自然に淘汰されていった。しかし、次の段階では淘汰されていった種の欠点を補うような性質をもった種が現れている。一見当たり前のように感じるが、遺伝子レベルで考えてみると、自然に淘汰された種の悪い部分を補うしくみを単なる核酸が支配していることに不思議を感じる。しかし、遺伝子の間違いは多数生じることから、環境に適合した種が現れるのは偶然なのではないかと考えられる。

A:このレポートの前半は講義の繰り返しです。自分の考えは後半にあるのだと思いますから、前半は削除して、後半をもっと膨らませるとよいレポートになります。


Q:DNAはなぜ二重“螺旋“なのか? DNAが二重螺旋の構造となることは誰でも知ることである。DNAが二重構造となるのは細胞分裂の際のDNAの複製が簡単になるためであるが,それだけでは螺旋構造となる必要性は全くない。そこで,螺旋構造となる根拠について考察してみることにする。まず,第一に塩基同士を結び付ける水素結合が外れにくくなることが考えられる。水素結合は共有結合に比べると遥かに結合力が弱いため,比較的に簡単に水素結合を切ることが出来る。二重螺旋構造となれば全体の構造が複雑となり,簡単には結合を切ることが出来なくなるのではないかと思う。2本の針金で二重螺旋を作り,それぞれを引っ張ってもこの二重螺旋構造をバラバラには出来ないという仮想実験を行えばこの考えに説得力が生まれるのではないかと思う。次に,DNAの長さを短く保ったまま多くの遺伝情報を蓄えるためだと考えられる。DNAは微小な細胞の内部のさらに微小な核の内部に存在する。この狭い空間の中に多くの遺伝情報を蓄えるためには,DNAに少しでも多くの塩基を配列させる,つまり狭い空間の中に多くの原子を充填させることを考えればよい。もし螺旋構造となれば,螺旋構造でない時よりも塩基同士の距離が短くなりより多くの遺伝情報を蓄えられるのは明らかであると思う。以上から,DNA は二重構造となっているだけでなく螺旋構造となっているのだと思われる。

A:よく考えているレポートだと思います。きちんと複数の考え方を検討しているところが素晴らしいと思います。あと、欠点になるように見えるところが欠点にならないのかどうかの検討もあると完璧ですね。例えば、らせんになると絡まりやすくなるのではないか、など・・・。


Q:DNA複製がとても正確だが、一定の確率で不正確な複製が起こるというのがっても興味深かった。別に履修している地史学の授業で、自然淘汰についてちょうど授業で扱った。その環境に適した遺伝子をもった生物が多く存在するのは当然のことだが、適していない生物も正規分布的に一定の割合で存在しているらしい。そしてその少ない割合の生物が、新しい環境で生き残る。それらのことから、複製の不確かさは生物があらゆる環境に対応していくために必要なことなのだと考える。しかしながら、生物の進化のための複製の間違いは、おそらく癌の原因であるのではないかと思った。癌は誤った遺伝子情報によるものなのだと聴いたことがあるからだ。子孫を残していくためにもつ「DNA複製を間違う」という能力が、生物自身の体を侵してしまうのは皮肉なことだと思う。

A:逆に言うと、変動する環境下で生き延びるためには、生物集団の中に「適していない」(ように見える)個体をある程度の割合で含んでいた方がよいことになります。中国の昔の話に出てくる「食客」などは、そんな意味合いを持っていたのでしょうね。効率一辺倒ではダメだということでしょう。


Q:多くの原核生物のDNAは閉じた環状の二重鎖として存在している。今回の講義とはあまり関係のない話だが、私にとってはそうなんだ、というインパクトがあった。というのも原核生物のDNAの存在状態について考えたことがなく、真核生物と違いがあるというように認識していなかったからである。そして核がないため、環状のほうがしっかり安定した状態で存在できるのではないか、と考えた。また環状か直鎖かは違っても二重鎖であることは同じであるから、複製のしかたなどは似ているのではないかと考えた。

A:今回はあまり詳しく説明しませんでしたが、環状DNAと直鎖状DNAでは、複製するときにも完全に同じメカニズムを使うことはできません。環状DNAには「端」がありませんからね。環状の方が安定だからという論理が成り立つかどうかはわかりませんが、原核と真核の差がDNAの存在状態に影響している可能性は十分にあると思います。