生物学通論 第10回講義

炭素同化

第10回の講義では、光合成が二酸化炭素を有機物に変換する炭素同化の仕組みについて解説しました。


Q:光合成を行う上で、植物はCO2を手に入れ、光エネルギーとともに利用している。CO2を効率的に回収するためには、周囲の酸素と二酸化炭素の濃度が重要であるが、昔の地球の大気組成であれば容易であった二酸化炭素の回収も、現在の大気組成では限度があるため、一部の植物は自分自身の中にCO2を濃縮することを身につけ、気孔からの回収だけではないCO2の獲得に成功した。授業において実際の植物の例がいくつかあげられたが、高山植物や低地植物、火山地帯や水中など様々な条件において、どの程度この進化が適用されているのだろうか。高山植物と低地植物では気圧が異なる上に、気温、日照時間、雨量も異なってくる。火山地帯では、雨はすぐに流れていってしまう上、活動中であれば硫黄や二酸化炭素のガスが噴出しているだろう。では、仮に高山植物、低地植物、火山地帯植物、水草を同環境下においた場合は、光合成に違いが見られるのだろうか。もちろんC3、C4によっても違いが出るだろうが、おそらく同じ環境においた場合、高山植物は優位なのではないかと考えられる。理由としては普段ほかのものよりも気圧の低いところで光合成をしていた分、ほかに比べ効率的に太陽光を使い、CO2を吸収し、光合成ができるのではないかと思ったからである。

A:マラソン選手の高地トレーニングのような話ですね。ただ、高地トレーニングでもそうですが、順応するのに必要な時間というのが重要なファクターです。一般に植物を二酸化炭素の濃度が高い状態に置くと、その直後は高い光合成を示しますが、しばらくすると気孔が閉じる、数日すると光合成タンパク質の量が抑えられる、といった一種の反動が起こって、結局長期的にはあまり光合成が上がらないことが多いようです。


Q:カルビンベンソン回路ではco2濃度に強い影響を受けることがわかったが、ほかにどんなものに影響を受けるのだろうか。回路の反応に影響を与える酵素に影響する条件を考えると温度を変化させれば、回路の反応が変化するので、強く影響を受けるのではないか。

A:その通り。光の吸収が物理的な反応であるのに対して、カルビン・ベンソン回路の反応は化学反応ですから、温度の影響を強く受けます。


Q:先週の小レポートでは、より短い波長の光子エネルギーの高い可視光などが、光の吸収よりタンパク質の破壊が優勢となり、発生酸素の量子吸率を減ずると考察した。このようなエネルギーの強い波長の光,波や供給過剰な可視光に対しては光呼吸による光阻害の回避が効果的であり、C3植物以前の植物が有効であることがわかる。逆にC4植物では高波長の可視光の吸収効率の上昇につながる。しかし、短波長・長波長両方の可視光での発生酸素の量子吸率を高めることは難しい。短波長・長波長両方の可視光での光合成を効率よく進めるためにはどうすればよいだろうか。C3植物とC4植物の植生の境界付近では湿度が50~80%の範囲であり、日照時間の増減も大きくかかわってくる。光呼吸については光の強度への依存性が高く、可変性に乏しいと考えられる。そうなるとこの植生の境界付近の条件より日照時間が少なくなると二酸化炭素濃縮機構が活発化する必要がありそうである。生物内の機構外で行うとすれば、日照時間が少ない植生のある地域に集中的な二酸化炭素供給量を行うと良いのではないだろうか。ただし、二酸化炭素の偏在を恒常的に続けると周囲の気候を改変してしまい、日照時間に変化をもたらしてしまう可能性も否定できないので気を付ける必要があり、水の供給量が変わらなければ湿度を減じてしまうことにもつながってしまい逆効果である。

A:光が弱いときには光合成の反応を光が律速するようになりますから、二酸化炭素の量を過剰にしてもあまり変化が出ないはずです。その点がちょっと逆になっていますね。あと、もう少しさらっとした日本語で書いた方がよいでしょう。「生物内の機構外」など、意味はわかりましたが、あまり日本語として美しくないですよね。


Q:ルビスコの2種類の反応について疑問に思った。ルビスコの進化によって①反応性が良い所では活性低い②反応性悪い所では活性高い(水中)という環境によって最適化されている印象を受ける。例えば、宇宙にルビスコを持っていったらどうだろう。宇宙という真空・無重力の環境の中でルビスコの反応で反応性が高く活性が高い性質のルビスコが最適化で生成される可能性があるのではないかと私は考える。

A:うーむ。その「考え」の根拠がわかりませんでした。「真空」と「無重力」は何の作用を持つのでしょう?


Q:C3植物とC4植物とを行き来する植物としてEleocharis viviparaという水草がある。この植物は水中ではC3植物の形をし、空気中ではC4植物の形態で生きている特殊な植物である。この水草自体ももともとはC3植物であったが、生息している地域の日照量が多かったために途中から空気に触れている部分のみC4植物へ変化したのだと考えられる。では、C3植物部分とC4植物部分の境目では細胞単位ではどのような成長が行われているのだろうか。以前「個体発生は系統発生を繰り返す」といったように、C3からC4植物へ移り変わる部分では、C3植物からC4植物へ進化していった過程が細胞にも残っているのではないかと思った。また、この水草が効率がよさそうにみえて地球全体であまり広まっていないのは、C3C4植物という機構の異なる植物が合体していることでそれぞれで作ったエネルギーを植物の体全体に浸透させるにはコストがかかりすぎてしまうためだと考えられる。 

A:2つのポイントはどちらも目の付けどころがいいですね。面白いと思います。


Q:C4植物はCO2濃縮系としての機能を持つ。また、Nの同位体に関しても生物濃縮とは存在する。このような生物濃縮については疑問が多くの残る。C4のような大きな枠組みでCO2濃縮系というものあれば、例えばヒマワリが放射性ヨウ素を吸収しやすいなどピンポイントな話題もある。C4植物やC3植物においてはそれらがおかれる環境(回りのCO2の量、乾燥地域、湿潤地域など)によってそのような濃縮が起こる場合が多い。しかし、ヒマワリが放射性ヨウ素を吸収しやすいとは真だろうか。回りの環境が影響しない場合はその植物自身の内部の回路の影響が考えられるが、よくわからない。今回のレビューシートは全く考察になっていない印象が自分でもよくわかる。

A:そうですね。考えてはいますが、やはり論理的な必然性がないので、感想になってしまいがちです。何でもよいので、一つ論理の根拠となるものを考えつくとよいレポートになると思います。そのためには、今回のような話題の場合、調べ物が必要かもしれません。


Q:水草は、水中ではC3型光合成、空気中ではC4型光合成をする事に興味をもった。C4植物とC3植物の違いとして、C4植物のほうが高温、乾燥、強い光のもと、窒素の少ない条件下では、カルビン‐ベンソン回路を行うのに適している。このことから、水中と空気中で光合成の仕方を変えるという水草は、より効率的に光合成を行っているのだろうと考える。しかし、C4植物とC3植物では維管束鞘細胞の構造が違う。ここで疑問に思ったのが、水草は成長した時に、自身の構造を水面下と水面上で変えられるのだろうか、ということである。変えられる機能を持っているのであれば、その機能を他の植物にも持たせて、急激な環境変動にも耐えられる植物が出てきてもいいものだと思った。
http://www.ipc.shimane-u.ac.jp/food/kobayasi/leaf%20of%20C3C4.htm

A:細胞の分裂自体は、特定の場所でしか起こりませんから、一度展開した葉の構造を変えるのは至難の業です。また、そのような変化にはそれ相応のコストがかかります。「他の植物に持たせて」と思う前に、「なぜ他の植物は持っていないのか」という視点が必要なように思います。


Q:O2に対するCO2の反応性が高く、最大活性が高い最強のルビスコは存在せず、また同じようにC4植物にもC3植物にも得意な環境と苦手な環境がある。そこでどうしたら最強ルビスコができるのかとか、エネルギーを使わずにCO2を濃縮するサイクルは作れないのかとか考えたくなる。だが今現在植物は環境に応じて最適なルビスコを選んだり、場所に応じてC3植物もC4植物も生き残っていて、この環境に応じてというのが一番大切なことであるので最強ルビスコなどは考える必要があまりないのではないかと思う。また沖縄で栽培されているサトウキビはC4植物、北海道で栽培されているてんさいはC3植物であるので、日本はC4とC3の境目になるような環境、あるいは共存できるような環境であると思う。

A:その通りだと思います。