生物学通論 第9回講義

光合成産物

第9回の講義では、光合成により作られた産物がどのように転流され、あるいは貯蔵されるのかについて解説しました。


Q:授業の中で、光合成産物を貯蔵するシンクの例として芋が挙げられました。僕は植物がなぜ芋という存在を作りだしたのか疑問に思いました。植物がこのような事をするのは大体が繁殖のためだと思い考えてみると、まず何のためにデンプンをためるのかということを考えました。もちろん使うためなのですが、いつどのようにして使うのでしょうか。ジャガイモからは芽が出ます。そしてその芽を成長させるためにデンプンを使うと思うのですが、普通の植物の種にはこんなデンプンの塊は付いていません。デンプンの塊が付いている理由には以下の2つが考えられます。
1.養分が極端に少ないところで繁栄するために進化した
2.人間に食べられて必要なものだと思わせて滅びないようにするために進化した
1について調べてみると、ジャガイモの発祥の地はペルーの南部ということでしたがここが養分の少ない地なのかどうかはわかりませんでした。しかしキャッサバの多くはアフリカなどの砂漠地域で作られていることは仮説を強めてくれる情報だと思います。2については調べようがありませんが少し人間中心の考え方でしょうか。

A:1については、種子の大きさを考えてみることが重要です。種子によっては、ほこりのように小さくて何も栄養素を持っていなさそうに思えるものと、ソラマメなどのように大きくていろいろ貯めていそうなものがあります。それぞれ、どのようなメリット・デメリットがあるのだと思いますか?イモは、いわば大きなタイプの種子の究極の姿として考えることができますよね。2の方については、一番大事なところを食べさせるという戦略はあまり得ではないように思います。種子の周りにおいしい部分を作って、食べられることによって種子の散布を動物にやらせるという戦略はありますが、繁殖の手段自体を食べられてしまったら元も子もありませんよね。


Q:植物はソースとシンクにより光合成産物を輸送している。これは圧流説で浸透圧を利用しているものだとなっている。例えば人間などの動物は心臓をポンプとして血液を身体中に送りだしている。ではなぜ植物はこのような手段を用いているのだろうか。心臓のような器官を用いる難点としてはその器官をわざわざ持たなければならないことやその器官が停止してしまう危険に対して対応できなければならないと考えられる。動物は行動することができるので危険から逃げることができるが、植物は行動できないのでなるべく余分な器官を持たない方がいいのかもしれない。また器官を動かすためのエネルギーを減らすことも関係あるとも考えられる。

A:これについては、輸送される速度を比較してみる必要があるでしょう。篩管中を単に拡散によって糖が異動するのに比べれば、圧流説によって篩管液が動くスピードは非常に大きいことになりますが、血液の循環速度に比べるとやはり遅いと思います。その速度の差は、動物と植物の生き方にとってきわめて象徴的な気がします。


Q:今回の授業ではさまざまな光合成の産物を学んだが、その中でセルロースについて考えてみた。セルロースは樹木の幹の成分であり物理的な補強になっているとのことであった。しかし、草などの場合は一見して幹はないように見え、樹木に比べると物理的な補強はなされていないように思う。なぜ植物の違いによって、このような違いがあるのか疑問に思った。自分はその理由は植物の寿命にあると思う。木化に関わる物質としてリグニンがある。八杉ほか(1996)によると、木化と呼ばれる現象は、道管・仮道管・木部繊維の一次細胞壁の隅からリグニンの堆積が始まり、中層・細胞間隙へと広がる現象のことである。つまり、植物をより強く補強しようと思えば、それだけの時間がかかると思われる。よって、草などの植物は補強される前に寿命がきてしまうのではないかと思われる。逆に言うと、樹木ほど長い時間を生きるのでなければ、生命活動の危機に直面する回数も少なくなるので、物理的な補強をする必要性が減るとも言える。また、木化して強固にするということはエネルギーを消費することでもあると思うので、寿命が短い植物においては、木化に大きなエネルギーを消費するより、成長などの他のことに消費したほうが効率的であるとも考えられる。以上のことから、植物の寿命によって物理的な補強の具合が異なると思われ、また、木化は植物が長期的に生きるための仕組みであるとも言えると思う。
(参考文献)八杉龍一・小関治男・古谷雅樹・日高敏隆編(1996)「岩波 生物学辞典 第4版」岩波書店 2027p.

A:光合成生物はエネルギーと有機物を、光と水と二酸化炭素から自前で作りだすことができます。これに対して、例えばタンパク質は、炭素・水素・酸素のほかに窒素をたくさん含みますから、根からの窒素供給が少ない状況では高くつきます。その意味で、動物と比較した場合、セルロースは手に入りやすい安い材料であるといえます。そして、植物の中で、木と草が異なる戦略をとっているという点では、このレポートに書かれたとおりでしょう。


Q:セルロースは地球上でもっとも多く存在する有機物であり、これを有効利用したいと思いは昔からあったと思いますし、私にもありました。しかし、セルロースはもともと物理的強度を高くするために作られたもので、化学的に分解するのが容易ではないことも事実です。  授業ではセルロースを分解してエネルギーを得る例外的な生物としてシロアリが挙げられました。シロアリはセルロースを分解できる細菌を共生させていることを学びました。シロアリについて調べてみると、シロアリ自身もセルロースを分解する酵素(セルラーゼ)を作っていることがわかりました(ほかにセルロースを利用している動物に牛などの反芻動物が挙げられますが、これらの動物は微生物を共生させているそうです)。そこで、生物のこのような力を見習って、あるいは利用してセルロースを人工的に有効活用するための方法を考えると、
1)シロアリのセルラーゼ生成のメカニズムを応用して人工的にセルラーゼを合成する
2)微生物を飼育してセルロースを分解させ、分解した産物を抽出する
などの方法が考えられます。しかし、現在セルロースが有効活用されていないことを考えると、これらの方法には何らかの問題があるのかもしれません。1)については、①メカニズムが解明されていない②解明されていたとしても複雑すぎて人工的に再現することができない などが考えられます。2)については、①微生物自身が産物をエネルギー源として利用するために収量が減少する②部生物を飼育する環境を整えることができない などが考えられます。一昔前、アメリカがトウモロコシを使ったバイオ燃料を提唱してその利用を促進したのを覚えていますが、あれはトウモロコシの実の部分を使っていたものでした。食糧を使ってしまってはエネルギー政策として本末転倒だと思います。

A:利用できない理由のもう一つの可能性として、遅い、というのがあるかもしれません。大きなお芋を1個消化するのに人間ならば1時間もかからないかもしれませんが、同じ重さのセルロースを消化するには、反芻動物といえどもかなりの時間を要するでしょう。「実用化」という面を考えると、理論的にはできることでも速度が問題になって実現しないという可能性も大きいように思います。


Q:植物は、光合成産物をおもに根に蓄積するが、この蓄積された産物は子孫を残すために使われるのではないか。でんぷんを蓄えたジャガイモは、そこから新たな芽を出して子孫となる。また、果実に蓄えられた糖も、果実の中に種子が入っていることから、子孫を残すために使われると考えられる。また、光合成産物は光合成を阻害するが、植物の子孫はその光合成産物を利用して成長していく。ということは、植物の子孫はある程度成長するまでは、光合成を活発に行わず、親が残した光合成産物を使って成長していくと思われる。成長していく過程で、親が残した光合成産物が無くなった段階で、光合成が活発に行われるようになると考えられる。

A:これは、親の遺産を全部食いつぶすまでは光合成を始めないのではないか、という主旨ですか?やや危険な考え方のような気がします。やはり、余裕を持って自分で稼ぎ始めた方がよいのではないでしょうか。植物でも人間でも。


Q:植物で光合成が起こるとその過程で発生する光合成産物が蓄積される。蓄積される所はその種類や状況によって少しの違うが、主に根に蓄積される。代表的な例がにんじんと大根、じゃがいもである。 光合成の過程で発生した産物はこのように根に集まれる。 そうだったら難しい方法を使う必要なく上に述べた野菜の根の部分を分析すれば光合成産物について分かるはずだ。 すでに実験の授業で観察したように、その断面にヨウ素溶液を落すと溶液が紫色に変わるがこれはデンプンの存在を現わすことなのでじゃがいもの光合成産物はデンプンだと言える。一方こんな風に、根に保存される光合成産物にはデンプン以外に何があるか? 独特の事例の考察として、野菜ではない漢方薬品によく使われる高麗人参について簡単に調べてみた。高麗人参はコレステロールを低めるほか、坑癌と坑酸化効果など健康によほど有用な、一般的な野菜とは違う薬剤成分が入っている。 その主成分はサポニン(Saponin)である。 サポニンは糖の一種で、植物の根・幹・葉・皮・種に分布するが高麗人参の場合根にその成分が多いのである。 結局このサポニンも光合成の産物として生成された物質である。 光合成での糖の生成過程は、CO2が固定されると有機物が生成されてその有機物にデンプンと糖が含まれているのだ。 高麗人参もこのようなことによってサポニンという糖の化合物を作り出したことだと思う。サポニンについて詳しい内容はあまり知らないのでこの部分はこの後にもっと勉強する必要があると思う。果実の場合は必ず光合成の産物だと言うには無理である。 果実は主に自分の種子が動物などに食われて広く広がるために植物が自ら作り出したことである場合が多く、必ずその産物として保存されたのではない。

A:面白い内容になりそうなレポートですが、もう一息。焦点を絞って自分の考え(論理)をもっと突き詰めると、素晴らしいものになりますよ。