生化学I 第6回講義

生体の化学反応

第6回の講義では、化学反応を理解する上での熱力学の初歩を解説しました。以下に、質問、指摘に対して回答するとともに、いくつかのレポートにコメントをつけておきます。


Q:参考文献について質問です。webサイトを参考文献にしてURLを貼り付けるとき、以下のように、とても長くなってしまうのですが、問題ないのでしょうか?

A:例えば、光合成のWikipediaのページのURLを貼り付けると、「https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%89%E5%90%88%E6%88%90」となります。これは文字コーディングの問題なので、実際には「https://ja.wikipedia.org/wiki/光合成」というURLを入力しても同じページが表示されます。このようなコーディングの問題が原因であるときには、貼り付けてから%以下の部分を、元の言葉(ここでは光合成)に置き換えるとスマートになります。ただし、長いアドレスをそのまま貼り付けてくれても問題はありません。


Q:M(モーラー)に関して,高校化学ではmol/Lで統一されていたため,私は,授業の前半ではmolのことだと勘違いしていました。途中で「濃度1 M」と書かれた部分をみて,気になって調べべたところモーラーの存在を知りました。念のためご報告しておきます。

A:なるほど。それは盲点でした。「M」は、確かにSI単位系ではありませんから、現在では使用は推奨されないのでしょうね。ただ、大学では日常的に使われますので、講義の中できちんと説明するようにしましょう。


Q:今回の授業の最終スライド「平衡定数と自由エネルギー差」において「ΔG」の値が表に示されていますが,これは「標準自由エネルギーの差ΔG0'」のことではないのでしょうか。(平衡状態では自由エネルギーの差は0ではないかと思います)

A:素晴らしい!よく見つけてくれました。その通りです。「生化学的」である必要なないので、スライドをΔG0に修正することにします。


Q:授業において、自由エネルギー:G、エンタルピー:H、エントロピー:S、温度:Tを用いてG=H-TSという式が成立することを習った。ここから物質が溶液に溶解する原理を考察する。反応が自然に進むにはG<0である必要があるので、H−TS<0である必要がある。よく小学校で「よくかき混ぜなさい」とか「反応は温めながら」などの言葉を聞いた。これはよくかき混ぜることでSの値を増大させるため。温めながら反応を行うのもTの値を増大させるためだとわかる。どちらもこれらによってG<0にし、反応を自発的に行うよう促しているのである。

A:このように、数式を習ったら、自分の感覚に照らして理解仕様とする姿勢は非常に大切です。このような形のレポートでも結構です。ただし、実際にはちょっと問題があります。一つは、反応が自発的に進むのはG<0ではなく、差を取ったΔG<0の場合です。また、すぐに説明する予定ですが、熱力学の式で示されるのは反応の方向性であって、反応の速度の情報は与えてくれないのです。


Q:今回の講義で、熱力学第2法則について触れ、閉鎖系の「乱雑さ」は常に増大することを学んだ。では、どうして生物体内では規則正しい循環系が存在し、エントロピーを低く維持することができるのだろうか。エントロピーを低く維持するのにはエネルギーが必要である。つまり、生物体は常にエネルギーを消費していることになる。その消費エネルギーを賄うためには、①エネルギーのあるものも体内に取り込み、②それをできるだけ節約することが、その生物体の生存に必要不可欠である。この2つの観点から、植物にとって、海中と陸上のどちらが生存にとって有利か考察する。(動物は捕食・被食関係が無視できないため) まず、①について、植物は太陽光と土壌からエネルギーを摂取する。海中だと海水に光を遮られ、海底の土壌の栄養も少ない。②について、陸上では植物は大きくなることによって効率的な脈管システムを形成できるが、海中だと潮の流れに対しての抵抗が大きくならないように、小型化してしまうことが多い。 以上から植物にとって、陸上が生存にとって有利と考えられる。

A:このレポートでは、エントロピーの話から入って、実際の話題はエネルギーの話に変わっていますが、これはこれでよいでしょう。この講義では、レポートの話題を限定していませんから、このように、いわば自分の土俵に持ち込んで議論しても構いません。話題をうまく誘導できればですが。


Q:人間は代謝活性によって熱を作り出している。そのため、放射、対流、伝導、蒸発によってこの生産された熱を放出している。仮にこの機能が備わっていなかった場合人間は自身の代謝活性による熱で生命を保てなくなってしまうと考えられる。つまり、放射、対流、伝導、蒸発は増大し続けるエントロピーの秩序を保つための大切な機能であることが分かる。ここで、蒸発について詳しく考察する。人間の蒸発による熱放散は主に汗の蒸発によって行われている。また、人間の汗の成分は、99%が水で出来ている。そのため水が蒸発することで熱放散を行っていることが予測できる。ではなぜ水である必要があったのか。理由は2つある。1つ目は、人間の身体の約60%出来ている。そのため、手軽に使うことが出来ることが考えられるためである。2つ目は、熱放散の効率が良いためである。水は気化すると1g当たり約2.5kJの熱量が失われる。それに対し、アンモニアは約半分の1.3kJ、酸素に至っては0.21kJと約1/10にもなる。効率が良くなければ温度上昇に対して、熱放散が間に合わず結果として上がり続けてしまう可能性が出てくる。この二つのことから汗の成分が水であることはエントロピーの観点から理にかなっていると考えられる。
参考文献:八光電気、各種物質の性質 蒸発熱、閲覧日 2020年6月19日、、花王、汗の成分は何?、閲覧日 2020年6月19日、、森永製菓、人間の体はタンパク質でできている、閲覧日 2020年6月19日、;

A:これも、自分の土俵に持ち込むタイプのレポートのように思えます。最後でエントロピーと結び付けていますが、すこし強引かもしれません。


Q:今回の講義の中では、エントロピー増大の法則について教わった。その話を聞いて、エントロピー増大の法則には重力が影響を与えているのではないかと思った。私は、重力が比較的大きい空間におけるエントロピー増大の速度と、重力が小さい、または無重力の空間におけるエントロピー増大の速度は異なるのではないかと考える。極端ではあるが例として、軽い素材でできた一辺5cmの立方体を4つ両手で持ち、地球上のある空間で手放した場合と、宇宙のある無重力空間で手放した場合を考える。前者の場合、4つとも地面に向かって落下し、静止すると思われるが、対して後者の場合、手放した瞬間から立方体は別々の方向へあてもなく彷徨いだすと予想できる。両者ともにヒトの手や風といった外部からの力は考慮しないとき、エントロピーは前者に比べ後者の方が圧倒的に早く増大するのではないだろうか。 講義の中では、エントロピーが低い方向に進まない理由として、エントロピーが高い状態の“場合の数”がはるかに多いことが挙げられていた。地球上の地面に立方体が落下した状態の“場合の数”と、宇宙空間に投げ出された立方体の状態の“場合の数”を比較すると、後者の方がはるかに多いと考えられる。以上より私は、重力が比較的大きい空間におけるエントロピー増大の速度は、重力が小さいまたは無重力の空間におけるエントロピー増大の速度より小さくなると考える。

A:面白い考え方でよいと思います。このような考え方では、一般的には、例えば地球の大気はなぜ宇宙に拡散して失われないのだろうか、という形で議論されることが多いと思いますが、むしろ独自の表現をとっていてよいのではないでしょうか。


Q:授業で生気論は1900年代前半まで生き残っていたと習った。生気論と機械論は対立構造をとっており、今は機械論の考え方が採用されているので、生気論の考え方は採用されていない。しかし、私は、現代においても生気論は通用すると考えている。https://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/090326vitalism.html によると生気論は「生命現象をそれらの自然科学で説明できる自然現象とは別のものと見なす点で、現代では、オカルトあるいは非科学的なもの、あるいは宗 教思想あるいは信念のひとつとみなされることが多い。」とある。私は、生気論という考え方は、生物の脳に適応すると考えられる。テレパシーや念力、予言などの超常現象と呼ばれるものは機械論では解明できず、生気論の考え方を用いるべきだと考えられる。また、臨死体験や転生、死者との交流などの霊能力のようなものも架空のものではなく、生気論で解明できるものだと考えられる。
参考文献:生気論(せいきろん、vitalism,vitalismo)、、閲覧日 2020年6月19日、 「https://www.cscd.osakau.ac.jp/user/rosaldo/090326vitalism.html」

A:せっかく「生気論が現代にも通用する」という面白そうなテーマなのに、その後の3つの文の主張はすべて「考えられる」で終わっていて、何の論理性もありません。単に「私は信じる」というだけでは、宗教であって科学ではありません。テーマは「生気論」でもよいのですが、この講義のレポートでは、身の回りで経験することでも何でもよいので、何らかの根拠を基に論理的に考察するようにしてください。