質問のコツ

質問は、まあ、当然わからないからするのですが、正しい答えを得ようと思うと、案外難しく、場合によって知識が必要なのです。 光合成質問箱には、特に多くの高校で光合成の実験が行われる時期には、一ヶ月に何十もの質問が寄せられますが、その中には答えられない質問もかなりあります。以下に、ダメな質問の例を挙げておきます。


タイプ1.「について」タイプ

「光合成について教えて下さい」というのが典型的な例です。いくら光合成質問箱でも、こう漠然としていては答えに窮します。これに答えるには教科書を一冊書かなくてはなりません。ちなみに「光合成事典」という非常に充実した光合成関係の事典がありますが、ここには、「光合成遺伝子」などの「光合成◯◯」という項目はたくさんありますが、ただの「光合成」という項目は存在しません。また、単に言葉の意味を聞きたいのであれば、辞書を引いて下さい。最近は、いろいろな辞書がWEB上で使えるようになっています。Wikipediaなどもよいでしょう。言葉の意味を調べるだけでしたら、何も質問箱を使う必要はありません。

他に、「薄層クロマトグラフィーについて教えて下さい」も同じです。具体的に何が知りたいのかわからず、何を答えてよいのかわかりません。せめて「薄層クロマトグラフィーの原理について教えて下さい」なら、答えようがあります。しかし、これでも、「よい質問」とは言えません。「何々について教えてください」と言ってしまうのは、自分で何も考えていない証拠です。いろいろなレベルで答えが可能ですから、知りたい情報が答えの中に含まれるかどうかはわかりません。あることについて「何が」知りたいのかが結局わかりません。「薄層クロマトグラフィーの実験をしたところ、クロロフィルとクロロフィルが別の場所に移動しました。同じクロロフィルなのに、なぜ分かれたのでしょうか。」なら、きちんと答えられます。

タイプ2.ぼけ老人タイプ

「光合成色素の分離の実験をした時に抽出した色素は何色に見えたでしょう」が典型的な例です。これは、質問ではなくてなぞなぞですね。「はて、わしは朝飯を食べたかな?」という感じで、自分のことを人に聞くな、と言いたくなります。おそらく、実験をした時には、ぼーっとしていて、終わって課題を見たら、何をやったか説明しなくてはならないことに気がついたけれども手遅れだったので質問してみたのでしょう。上の例で言えば、色素の色などは、その時の試料の濃さによっても違いますし、実験をした当人でないとわからないのです。

タイプ3.まる写しタイプ

「薄層クロマトグラフィー法によって精製できる純物質の性質はなんですか?」が典型的な例です。これは、タイプとしてはぼけ老人タイプに似ています。おそらく、授業なり、実験なりで説明があって、その上で、「薄層クロマトグラフィー法によって精製できる純物質の性質は何か」という課題か何かが出たのでしょう。説明をよく聞いていなかった人には、課題の意味がわからないので、光合成質問箱に質問をすることになります。しかし、答える僕も説明を聞いていなかったことには変わりはありませんから、やっぱり意味がわかりません。

この手の質問は、質問の部分だけをまる写しされても、全く意味をなしません。「薄層クロマトグラフィー法によって精製できる純物質」が何かわからないのに、その性質がわかるはずがありません。一般論として「精製できるすべての物質」に「共通の性質」を答えさせる質問かも知れませんが、その場合は、いろいろな答えが考えられて、1つに絞ることができません。例えば、目で見て分離を確認している場合は、色がある(吸収を持つ)ことが必要になりますが、それが正解かどうかは、課題を出した人でないとわかりません。

このような場合、たいていは、授業の中などで、「薄層クロマトグラフィー法によって精製できるのはこれこれの性質が必要です」といった説明があらかじめあって、その知識が前提にあるので、授業を聞いていた人には質問の意味がわかるし、1つの答えに絞ることができるのです。逆に言うと、教える立場からすれば、ちゃんと授業を聞いていたかどうか判断するためにテストをしたり、課題に答えさせたりするわけですから。

「答えがわからないから質問する」ならまだよいのですが、「質問がわからないから質問する」時には、たいてい満足な答えを得ることができません。

また、「光合成質問箱」は、「レポートの代作箱」ではありません。

タイプ4.超能力期待タイプ

「試料を加熱するとRf値はどうなりますか?」が典型的な例です。 実験をした当人にはどのような実験をしたかがわかるでしょうけれども、この質問だけでは、超能力者でもない限り、どんな試料で何の実験をしたかもわかりません。最近、自分の頭の中身が自動的に他人に伝わると思っているとしか思えない質問がたびたび来ますが、どんな材料で、何の実験をしたかぐらいは説明してもらえないと、答えようにも答えることができません。

タイプ5.「なぜ」タイプ

「なぜ光合成色素があるのですか?」が典型的な例です。これは、悪い質問ではないのですが、必要な答えが得られない可能性があります。「なぜ」という言葉には、実は2つの意味があります。上の場合で言えば、光合成色素ができるメカニズムを知りたい場合、つまり「どのようにして光合成色素が合成されるのですか?」という意味の場合と、光合成色素の必要性を聞きたい場合、つまり「何の必要性があって光合成色素を持つのですか?」という意味の場合があります。前者の意味でしたら「光合成色素を合成する酵素があるから」が答えになりますし、後者の意味であれば「光合成のために光を吸収する必要があるから」が答えになります。「なぜ」という言葉は、いわば質問の言葉の定番なのですが、できれば、もっと自分の知りたいことを直接言い表す表現にかえると、よりよい答えが得られます。

タイプ6.失敗の原因追及タイプ

「ヨウ素デンプン反応の実験をしたのですが、何も染まりませんでした。何が失敗の原因でしょう?」が典型的な例です。これは、別に「悪い質問」ではないのですが、たいていの場合、質問をしても満足のいく答えを得ることができません。実験は、数多くのプロセスから成り立っています。そして、それらのプロセスは必要だから行なうのですから、多くのプロセスのうち、どれか一つでも間違えると、結果は失敗に終わってしまいます。ですから、いろいろな可能性があって、失敗の原因として1つのことを特定することは一般には不可能です。

もし、どうしてもこのタイプの質問をしたい場合には、
  1.なるべく詳しく実験のプロセスを記述してください。
  2.何度やっても同じように失敗するのか、それとも一度だけの結果なのかを明記してください。

たいていの場合は、どこかのうっかりミスが原因なので、そのような場合には、もう一度実験をすればうまくいくことも多いのです。

そこで結論

要は、自分の興味・好奇心から質問する場合は、自然と具体的な質問になって、ちゃんとした答えを得ることができますが、そうでない場合、特に授業や実験のレポートの課題を単にカット&ペーストで質問しても、答えられないことが多いのです。

お願い

あとは、必ず過去の質問に目を通してから質問して下さい。「光合成のよくある質問」のコーナーには、質問と回答が項目別に整理されて並んでいますので、そちらをご覧頂ければと思います。また、ちょっと本を読んで勉強してみようという意欲のある方には、「光合成とはなにか」という本をブルーバックスから出していますので、ご覧頂ければと思います。


答えを見る時のコツ

最後に、答えを見る時のコツを一つ。普通の家庭で、通常のブラウザの設定をしている時には問題がないのですが、会社組織などでは、WEBのキャッシュサーバーを入れていることがあります。また、ブラウザの設定によってもキャッシュの機能が有効になっている場合があります。このような場合、ホームページのコンテンツはいったん読み込まれると、しばらくの間(どれだけかは設定によります)、キャッシュに入っているページを見ることになるため、もとのサイトで内容が変更されても、その変更を見ることができません。もし、答えが遅いな、と思った時は、念のため、ブラウザの「更新」ボタンを押してみて下さい(実際に何を押すかはブラウザによって違います)。そうするとキャッシュがクリアされて、更新されたページが読める場合があります。

実際に答えが載るまでの時間ですが、忙しくない時は、だいたい質問を受けた翌日中に答えることを日課にしております。また、気が向いた時は、回答を掲載した旨メールでご連絡することもあります。