読書記録2019

最近、一度読んだ本でも忘れていることが出てきて年を感じます。ひどいときは、新しく読む本だと思って、面白く読み進めていくうちに、何だか知っている気がしはじめて、読み終わる頃に、そういえば昔読んだことがあったと思い出すこともありました。「常に新鮮な喜びが味わえてうらやましいこと」などと言われる状態です。そこで、新しく読んだ本を忘備録としてここに書いておくことにしました(平成14年3月開始)。「新しく読んだ」というだけで、別に新刊の本とは限りません。


「作曲の科学」 フランソワ・デュボワ著、 講談社ブルーバックス 令和元年12月読了
 「科学」として期待した分は、残念ながら期待外れ。作曲以前の説明が2/3を占めていて、しかも五線譜の説明から入る割に「スコア」という言葉は説明なしに使われる。さらに「科学」とは言いながら、同じ音同士の差が0ではなく1であることが、著者にとっては自然なことのようである。一方で、実際の作曲の部分は最後に駆け足に作曲の意図が説明されるだけで、なぜそうするのかの説明がない。できたら科学者との共著にしてほしかった。

「美しき小さな雑草の花図鑑」 大作晃一写真、多田多恵子著、 山と渓谷社 令和元年11月読了
 目立たない雑草の花を拡大して写真に撮って見せてくれる本です。最近のデジタル顕微鏡などについている「深度合成」という機能を使っているので、接写をしていても、立体的な花の各パーツに焦点が合っています。多田さんのいつもの解説も伴って、楽しい本に仕上がっています。

「蜜蜂と遠雷(上・下)」 恩田陸著、 幻冬舎文庫 令和元年11月読了
 普段映画はめったに行かないのですが、数年ぶりに思い立って映画を見に行き、面白かったので原作も読んでみました。非常によくできた青春小説ですね。基本的に悪役が出てこないのが人にとっては物足りないかもしれませんが、審査員も含めて、ほとんどの登場人物に感情移入ができました。映画を先に見たので何とも言えませんが、全体としてのレベルは原作の方が上な気がしました。特に、ヒロインの栄伝亜夜の扱いが、原作では柔らかな雰囲気なのが、映画ではトラウマを負った神経質な人間になっていたのは改悪かな、と思いました。一方で、高島明石の扱いは、映画の方が重くなっていてよかったように思います。映画では、高島明石の演奏を聞いて栄伝亜夜などがどうしてもピアノが弾きたくなるように変更されていて、この方が深みが出たように思います。映画の方がちょっと大人向けになった分、爽快感が減った気がします。

「したたかな植物たち(春夏編)」 多田多恵子著、 ちくま文庫 令和元年10月読了
 SCCガーデナーズ・コレクションから出版された「したたかな植物たち—あの手この手のマル秘大作戦」を文庫2冊に編集しなおしたものの前半のものです。文庫にするとさすがに写真は小さくなりますが、ハンディなのでそれなりに利点もあります。今回、改めて読み直してみましたが、植物の化学物質防御と、それを回避する昆虫の行動の部分は、ちょうど翻訳している生物学の教科書で扱われていたので、非常に新鮮に読みました。知識が増えると、興味を持てる範囲が広がることを改めて感じました。

「十字軍物語」 塩野七生著、新潮文庫 令和元年10月読了
 いつもながら、ヨーロッパの歴史を魅力的な人物群像によって描き出す手際は鮮やかです。ユリウス・カエサル張りの簡潔な文体もこれまで通りですが、内容についてはやや冗長性が増したようです。複数の場所で同じような解説がなされるようになったのは、著者が年を取ってきたせいでしょうか。

「古典和歌解読」 小松英雄著、笠間書院 平成31年9月読了
 古今和歌集に載る歌のいわば構造からその作者の意図を読み解く営みが主題です。断定口調で下される新しいものの見方は素人には非常に面白いのですが、補章に組み入れられたこれまでの著書に対する批判への反論は、批判の意図をよく読みとれていないとしか思えないので、本体の議論についても、もしかしたら独善的な読み方に基づくものではないかとの疑念が生じます。

「知らないと恥をかく最新科学の話」 中村幸司著、角川新書 平成31年9月読了
 NHKで解説委員をなさっている中村さんから頂いて読了。いろいろな分野の科学の進展を手軽に追えます。医学、物理、地学、工学、生物と幅広くカバーされているけれども化学がないのが少し不思議でした。

「宮中五十年」 坊城俊良著、講談社学術文庫 平成31年7月読了
 明治天皇の側に仕えた公家の少年の回想録。後々まで皇太后宮大夫などとしてお仕えしていますから、別に少年時代だけの回想ではないのですが、やはり初期のエピソードにひかれます。

「ハーバードの人生が変わる東洋哲学」 マイケル・ピュエット、クリスティーン・グロス=ロー著、早川書房 平成31年6月読了
 副題に「悩めるエリートを熱狂させた超人気講義」とありますが、日本人には「ふーん」という程度の感じ。成果主義を刷り込まれたアメリカの学生には新鮮なのかもしれませんね。ハーバードの学生の人生は変わっても、東大生の人生は変わらないでしょう。

「森鴎外」 今野寿美著、笠間書院 平成31年5月読了
 しばらく前に頂いた本をようやく読破。森鴎外を歌人として考えることなどなかったので新鮮。素晴らしい歌もあるけれども、それほどでもない歌もあるような気がしました。いずれにしても、歌の背景に強い自意識が感じられます。

「愛なき世界」 三浦しをん著、中央公論新社 平成31年5月読了
 植物の研究者の世界を外からのぞいたらどのように見えるかを小説にした感じ。中にいる人間には非常に面白く読めましたが、一般的にも面白いのでしょうかね。

「歌神と古今伝授」 鶴﨑裕雄、小髙道子編著、和泉書院 平成31年4月読了
 しばらく前に頂いた本をようやく読破。やはり興味があるのは古今伝授の部分。古今伝授というのは、何やらいかめしく重要なものという意識はあったけど、少なくとも残された資料を見る限り、和歌の本質とはかけ離れたものになっていったようですね。

「書 筆蝕の宇宙を読み解く」 石川九楊著、中公文庫 平成31年3月読了
 書体の変化を、「彫る」「書く」などの視点から丁寧にたどった本。一つの漢字がどのようなバランスの上に成り立っているのかが論理的に説明されていて参考になります。一方で、このような本が面白いと感じられるようになったことに、自分でも驚きます。