読書記録2017

最近、一度読んだ本でも忘れていることが出てきて年を感じます。ひどいときは、新しく読む本だと思って、面白く読み進めていくうちに、何だか知っている気がしはじめて、読み終わる頃に、そういえば昔読んだことがあったと思い出すこともありました。「常に新鮮な喜びが味わえてうらやましいこと」などと言われる状態です。そこで、新しく読んだ本を忘備録としてここに書いておくことにしました(平成14年3月開始)。「新しく読んだ」というだけで、別に新刊の本とは限りません。


「万葉集で親しむ大和ごころ」 上野誠著、角川ソフィア文庫 平成29年12月読了
 最初は、妙に若ぶった中年男性のような語り口が鼻についたのですが、読み進むと慣れるのか、気にならなくなりました。感情表現という切り口で万葉集を読むという構成は面白いと思いました。

「「昭和天皇実録」を読む」 原武史著、岩波新書 平成29年11月読了
 実録は量が多いので、切り口が腕の見せ所なのでしょうけれども、この著者の場合、「御告文・御祭文」に注目している点がユニークですね。キリスト教への接近や、貞明皇后との緊張関係なども面白いのですが、やや解釈が強引な気もします。一番面白いのが「あとがき」で、現天皇の考え方に賛同しながらもその言葉が影響力を持つことに対しては反発するアンビバレントな気持ちを正直に出しています。

「美しの神の伝え−萩尾望都小説集−」 萩尾望都著、河出文庫 平成29年11月読了
 主に1970年代の後半に萩尾望都が書いた小説を集めたもので、宇宙船のコンピューターの記憶装置が磁気テープであるところに時代が感じられます。とは言え、この著者が描くのは人の心の揺らめきですから、アナクロニズムはさほど気になりません。表題作は中編で、全体の1/3を占めますが、ちょっと結末を急ぎすぎのところが残念でした。

「チーズの科学」 齋藤忠夫著、講談社ブルーバックス 平成29年11月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に掲載予定です。

「2020年度大学入試改革!新テストのすべてがわかる本」 伯井美徳、大杉住子著、教育開発研究所 平成29年10月読了
 こんなところに読んだことを記録する本でもないように思いますが一応。大学入試改革が、大学教育を変えるというよりは、高校教育を変えることを目的としていることがわかります。

「現代語訳方丈記」 佐藤春夫著、岩波現代文庫 平成29年10月読了
 佐藤春夫の訳した方丈記に、同じく佐藤春夫が書いた鴨長明に関する3つの短い論考がついています。「である」調の訳は、隠者の文学という思い込みがあるせいか、あまりしっくりきませんね。ただこれを通して読んだうえで、様々な角度から鴨長明を論じた文章を一気に読むと、なんとなくその世界観がつかめたような気がします。

「凱旋門と活人画の風俗史 儚きスペクタクルの力」 京谷啓徳著、講談社選書メチエ 平成29年10月読了
 妻の友人から妻に贈られた本を一足先に読了。一言で言えばマニア本ですね。僕が知らないだけかもしれませんが、仮設凱旋門という概念自体初耳でしたし、人が絵画を演じる活人画についてもほとんど知りませんでした。赤毛のアンの中で活人画が出てくるとのことで、引用されているアンの言葉を読んだら確かにそのような場面があったことを思い出しましたが、そもそも活人画が何かを知らないで読んでいたので、当時は何の印象も持ちませんでした。僕の無知をどれだけ一般化できるかは分からないにしても、それほど知名度が高いとは思えない様式の見世物について、過去の記録や文学・演劇・音楽、果てはヌードショーまで、広い範囲の分野を丹念に博捜していく様子からは、これはまあ本人が好きでやっているのだろうなと推察できます。一つ(この場合は二つかな?)のキーワードで欧米と日本の社会の一面を切り取り、中世から現在までをつなぐ作業を著者が楽しみながらやっているのが感じられます。白黒で小さいので老眼にはきついのですが、図版や写真もたくさん載っていて、当時の雰囲気が伝わってくるところも評価できます。でも、このマニアックな内容で、300ページを超す分量で、1850円の値段で、失礼ながら講談社は儲かるのでしょうかね。
 追記:この本が、第40回のサントリー学芸賞を受賞しました。「儲かるのでしょうか」と書きましたが、講談社は、僕よりは見る目があったようです。(2018.11.23)

「鏡の前のチェス盤」 ボンテンペッリ著、光文社古典新訳文庫 平成29年9月読了
 ジャンルとしては一応児童書になるのかもしれませんが、子供が喜ぶ本かどうかはわかりませんね。「星の王子さま」をまねた感じだな、と思ったのですが、出版年を見たら1922年ですから、星の王子さまよりも20年以上前の本です。訳者による充実した解説がついていますが、児童文学という視点からは、その感覚にややずれを感じました。

「天皇125代と日本の歴史」 山本博文著、光文社新書 平成29年8月読了
 日本の歴史を天皇から見ようという本です。視点は面白いのですが、結果としての内容は、それほど通常の歴史の本と変わらないように感じました。

「生命の起源」 フリーマン・ダイソン著、共立出版 平成29年7月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「天皇と和歌 国見と儀礼の一五〇〇年」 鈴木健一著、光文社文庫 平成29年6月読了
 宮中歌会始に奉仕する身としては読まずばなるまいと手に取りました。平安・鎌倉までの天皇の和歌についてはある程度の知識がありましたが、江戸時代の天皇による歌壇改革や、明治天皇の歌が一般に流布するようになった過程などは僕にとっては新しい知識で、新鮮さを感じながら読み進めました。このように、古代から現代までをこのような形で通覧するような和歌の本は今までなかったと思います。勉強になりました。

「眼が語る生物の進化」 宮田隆著、岩波科学ライブラリー 平成29年4月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「周−理想化された古代王朝」 佐藤信弥著、中公新書 平成29年3月読了
 古代中国王朝の夏・殷・周の最後である周は、最後といっても紀元前11世紀ごろに創立されたそうですから、その起源の古さは日本の感覚ではつかみづらいものがあります。そのような古代の国の国政や祭祀に関して、かなりの量の資料が現在も発見され続けていることにまず驚かされます。そして、人間のやること、考え方というのは、三千年前でもあまり変わりませんね。

「日本列島100万年史」 山崎晴雄、久保純子著、講談社ブルーバックス 平成29年2月読了
 僕の好きな番組「ブラタモリ」でも地形が重要な役割を果たしますが、早稲田大学の教育学部の同僚の久保純子先生からご著書をいただいたのでさっそく読んでみました。地理学という特性が、地域別の章立てにも表れています。僕などは、もしこのような本を書くとした場合、最初に思いつくのはどうしても、ある地形を生じさせるメカニズムで分類して章立てをする方法ですが、読み終わると、本としてはやはり地域別になっていた方が面白いなと感じました。プレートの沈み込みが日本の地形の形成に重要な役割を果たしていることは理解していたつもりですが、沈み込みの方向によって異なる地形が生まれ、それが東北と西日本の山脈の横断面の差に表れているということは初めて知りました。この本は、あっという間に10万部ぐらい売れたようですね。同じブルーバックスでも僕の「光合成とはなにか」はようやく2万部なのに・・・。

「パズル百科」 高木茂男著、講談社文庫 平成29年1月読了
 数学的なパズルの数々を紹介した本なのですが、読み進むうちにどうも前に読んだことがある気がしてきました。書庫を見に行っても蔵書の中にはありませんでしたが、あとがきを読むと、昭和52年に出た本に加筆修正して文庫にしたとのことでしたので、高校生の頃に学校の図書館から借りて読んだのかもしれません。気軽に読み始めましたが、内容はパズルの歴史研究の成果という感じで、なかなかの歯ごたえです。