読書記録2010

最近、一度読んだ本でも忘れていることが出てきて年を感じます。ひどいときは、新しく読む本だと思って、面白く読み進めていくうちに、何だか知っている気がしはじめて、読み終わる頃に、そういえば昔読んだことがあったと思い出すこともありました。 「常に新鮮な喜びが味わえてうらやましいこと」などと言われる状態です。そこで、新しく読んだ本を忘備録としてここに書いておくことにしました(平成14年3月開始)。「新しく読んだ」というだけで、別に新刊の本とは限りません。


「アイダ王女の小さな月」 ビアズ・アンソニイ著、ハヤカワ文庫 平成22年12月読了
 このシリーズもずいぶん長くなりました。ほとんど水戸黄門を見る心境で、新しい驚きはなくても安心して楽しめます。

「オドの魔法学校」 パトリシア・A・マキリップ著、創元推理文庫 平成22年12月読了
 主題は「イルスの竪琴」3部作の焼き直しと見ることができるかもしれませんが、新しい雰囲気の中で新しい魅力的な登場人物が動き出すと、やはり引き込まれてしまいます。マキリップの魔術健在といったところでしょう。

「古文の読解」 小西甚一著、ちくま学芸文庫 平成22年12月読了
 1962年に出された高校生向けの古文の受験参考書です。それが文庫になって現在読まれるというのが面白いですね。著者の広い視野、柔軟な思考が感じられる本です。初版のはしがきの「これからの若い優秀な人たちは、どしどし理科・工科の方面に進出してくれなくてはこまる。そちらに向くすぐれた人材が出なくなった時は、すなわち日本が衰亡への途をふみ出した時である。」という予測は半世紀を経て実現しつつあるのかもしれません。ただし、因果関係は逆なのかもしれませんが。

「ローマ人の物語 キリストの勝利(上・中・下)」 塩野七生著、新潮文庫 平成22年11月読了
 途中で紹介される首都長官シンマクスと司教アンブロシウスの論戦において、両者の宗教の違いよりも、衰亡しつつある勢力と新興勢力の違いがより反映されているのが印象的でした。

「梁塵秘抄口伝集」 馬場光子訳注、講談社学術文庫 平成22年10月読了
 梁塵秘抄の歌自体は解説とともに読んだことがあったのですが、それとともに後白河院が残した口伝集の部分は初めて読みました。やはり何と言っても、後白河院の今様にかける思いが胸を打ちます。

「ビーグル号世界周航記」 チャールズ・ダーウィン著、講談社学術文庫 平成22年9月読了
 一応、著者はダーウィンになっていますが、ダーウィンの色々な著作の中から面白そうな部分を出版社が抜き出して作った本のようです。動物・人類・地理・自然という部立てになっていて植物の研究者としてはやや引っかかるところもありますが、ダーウィンの航海の様子を気軽に読めるという点では読んでみる価値があるように思いました。

「もっと知りたいボッティチェッリ 生涯と作品」 京谷啓徳著、東京美術 平成22年8月読了
 ボッティチェッリの作風は、あまり僕の好みではないのですが、作品をずらりと並べて見せられると色々考えさせられるものがあります。塩野七生の作品で読み親しんだメディチ家とのつながりを読み、晩年のサヴォナローラに影響を受けた画風を見ると、歴史の中にボッティチェッリを位置づけることができた気がします。

「光と生命 光生物学入門」 L.O.ビョルン著、理工学社 平成22年8月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「ガロアの群論」 中村亨著、講談社ブルーバックス 平成22年8月読了
 難しい。証明自体はそれほど高度というわけではないのですが、残念ながらついていけませんでした。理由は、おそらく2つあって、一つは年ですね。昔なら、読みながら自分で証明してみたところを今は字面を追うだけになってしまって考える気力がわきません。もう一つは、証明の進め方の問題で、すべての場合に正しいという証明と、一例を挙げて確かにそうなっていることを確認する作業が、特に断りなしに混ざっているので、論理の進め方が必ずしも自明ではありません。テーマが難しいから、と言えばそれまでですが。

「ストラディヴァリウス」 横山進一著、アスキー新書 平成22年8月読了
 コンパクトにまとまっていますが、あまり新しい情報はありませんでした。その中では2組のクインテットの行方の部分が面白く読めました。

「わが友マキアヴェッリ 1?3」 塩野七生著、新潮文庫 平成22年6月読了
 各巻の解説を佐藤優が書いているのが、なんともはまっています。マキアヴェッリが述べている「正当な権利を行使することによって地位を得たものは、無理をする必要がなく、自国の統治に並はずれた能力までは要求されない」という世襲の君主国についての叙述とはちょうど反対に、ノンキャリアの外交官が人に認められるためには無理をせざるを得なかった状況が想像されます。

「光と植物 光合成のエネルギーとエントロピー」 柴田和雄著、培風館 平成22年5月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「化学の歴史」 アイザック・アシモフ著、ちくま学芸文庫 平成22年5月読了
 訳者の一人は下の「人物で語る化学入門」の著者です。こうしてみるとやはりアシモフは偉大ですね。アシモフの英語は、簡明でありながらユーモアのセンスが裏に透けて見えますが、この翻訳では、簡明さの部分だけが出てしまっているようで、ちょっと残念です。

「人物で語る化学入門」 竹内敬人著、岩波新書 平成22年4月読了
 化学の入門というよりは化学史に近く、人物に関する記述を重視している点も含めてアシモフが書いた「化学の歴史」に構成が極めてよく似ています。「化学の歴史」が書かれたのは1965年なので、それ以降の新しい記述はもちろんオリジナルですが、「化学の歴史」がやはり2010年にちくま学芸文庫として復刊されたばかりということもあり、ちょっとタイミングが悪かったですね。

「スパルタとアテネ」 太田秀通著、岩波新書 平成22年4月読了
 30年以上前に読んだものを読み返してみました。ギリシャという国に共通する理念と、ポリスごとの違いがきれいに説明されています。

「水鏡」 和田英松校訂、岩波文庫 平成22年4月読了
 神武天皇から仁明天皇までの歴史を仙人が語るという趣向の歴史書です。初期の神話的な天皇像から後期の人間的な歴史までの変遷が面白いですね。

「ローバー火星を駆ける」 スティーヴ・スクワイヤーズ著、早川書房 平成22年3月読了
 火星探査の研究代表者を務めた著者が火星に2台のローバーを走らせるまでの顛末を書いた本です。前半は、研究計画を承認してもらうまでと、承認された後、いかに予算オーバーを避けるか、という話が占めていて、この手の経験がない人だとかなりとっつきづらいのではないかと感じました。

「チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷」 塩野七生著、新潮文庫 平成22年3月読了
 下の本を読んだついでにこれも昔に一度読んだものを読み返してみました。記述される人物について評価を下すような文言はほとんどないのですが、それでも著者の主人公に対する愛情が全編から伝わってきます。最後の悲惨な没落のありさまを語っても、なおすがすがしい印象を与えることに驚かされます。

「マキアヴェッリ語録」 塩野七生著、新潮文庫 平成22年2月読了
 もう15年以上前に読んだ本ですが、子供が読んでいたのを見て再読しました。塩野七生の小気味のよい価値判断の一つの源泉を見る気がします。改めて読んでみると、キリスト教的価値観からすると異端なのかもしれませんが、多くの日本人にとってはそれほど違和感を感じるような考え方ではありませんね。

「レダ I-III」 栗本薫著、ハヤカワ文庫 平成22年2月読了
 文庫の新装版が出たので、衝動買いしました。実は、栗本薫の作品を読むのは初めてなのですが、なかなか楽しめました。アーサー・C・クラークの「都市と星」を思わせます。そして、これが四半世紀を経て行きつく先は「スカイ・クローラ」なのかな、と主人公が空を飛ぶ場面を読んで思いました。話の中で戦わされる長い議論に今の中高生はついていけないのではないかと、ちょっと心配になりましたが、そもそもいまどきの若い者はSFなどは読まないのかも知れませんね。

「自己組織化と進化の論理 宇宙を貫く複雑系の法則」 スチュアート・カウフマン著、ちくま学芸文庫 平成22年1月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。