読書記録2009

最近、一度読んだ本でも忘れていることが出てきて年を感じます。ひどいときは、新しく読む本だと思って、面白く読み進めていくうちに、何だか知っている気がしはじめて、読み終わる頃に、そういえば昔読んだことがあったと思い出すこともありました。 「常に新鮮な喜びが味わえてうらやましいこと」などと言われる状態です。そこで、新しく読んだ本を忘備録としてここに書いておくことにしました(平成14年3月開始)。「新しく読んだ」というだけで、別に新刊の本とは限りません。


「魔王とひとしずくの涙」 ビアズ・アンソニイ著、ハヤカワ文庫 平成21年12月読了
 相変わらずの愉快なシリーズものですが、この巻はややストーリーの展開が雑な気がしました。

「万葉の草・木・花」 小清水卓二著、朝日新聞社 平成21年12月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「マジックは科学」 中村弘著、講談社ブルーバックス 平成21年12月読了
 もう十数年前に出た本ですが、古本屋で目にとめて買いました。トポロジーとの関連が詳しく書かれているのが面白いですね。

「素数の音楽」 マーカス・デュ・ソートイ著、新潮クレストブックス 平成21年11月読了
 いわゆる数学史の本です。素数というきわめてでたらめに出現するように見える数の背景に規則性が潜んでいることを明らかにする過程が詳しく描かれています。前半、一般向けに説明を簡略にしようとして記述が曖昧模糊とした点が気になりますが、後半になって筆がのるってくると、思わず展開に引き込まれます。

「最後の努力 上・中・下」 塩野七生著、新潮文庫 平成21年10月読了
 もう、このあたりになると、かつてのローマの威光はいずこ、という感じです。封建制度が生まれていく様子がわかります。

「ヴァイオリンの見方・選び方 応用編」 神田侑晃著、レッスンの友社 平成21年10月読了
 これまた、下の基礎編からさらにマニアックさが増します。ここで紹介されている、ヴァイオリンの取引のおいて、値段は、音ではなく格によって決まるのだ、というものの見方は非常に新鮮で、そのような見方が存在することを知っただけでも、読む価値がありました。

「ヴァイオリンの見方・選び方 基礎編」 神田侑晃著、レッスンの友社 平成21年9月読了
 世の中こんなマニアックな本があるのかと感心しました。まあ、微にいり細にいり、バイオリンの蘊蓄が傾けられます。

「無限解析のはじまり 私のオイラー」 高瀬正仁著、ちくま学芸文庫 平成21年8月読了
 数学者オイラーの業績を、関数と微積分、数論、対数の無限多価性に主に焦点を当てて紹介した本です。実は対数の無限多価性というのはきちんと認識していませんでし、ライプニッツとベルヌーイの論争から始まる経緯も知りませんでした。矛盾と混沌を一見非常識な秩序へと収束させるオイラーの論理展開の鮮やかさに感心させられます。

「海の都の物語 1?6」 塩野七生著、新潮文庫 平成21年8月読了
 ヴェネチア共和国の千年の歴史を様々な視点から振り返った著作です。資源を持たず交易に基本をおく国の歴史を語るに当たって、当然著者の脳裏には常に日本との比較があったものと思いますが、そこをあえて全く触れずに最後まで進む点に感心しました。この著者ならではの語り口は、特別の英雄を持たない国の歴史を記述する場合にでも生き生きとしています。

「曹操 矛を横たえて詩を賦す」 川合康三著、ちくま文庫 平成21年8月読了
 三国志の英雄を文学者の観点から見た、という本です。よくまとまってはいますが、それほど新しい視点は感じられませんでした。

「裏返し文章講座」 別宮貞徳著、ちくま学芸文庫 平成21年7月読了
 翻訳論で有名な著者ですが、例によってへんてこな翻訳文が槍玉に挙げられます。都留重人の文章などの例では「確かにこれはちょっと」と感じるものが多いのですが、「品格は礼儀作法だ」という谷崎潤一郎の言葉に対して「カテゴリーが違う言葉をイコールで結ぶわけにはいかない」と言われると、少し首をひねります。広い意味の比喩として認められませんかね。「芸術は爆発だ」という言葉もありましたし。

「ストラディヴァリウスが千住家へ来た日」 千住文子、新潮文庫 平成21年7月読了
 「聞いて、ヴァイオリンの詩」を読んで、中のお母さんについての記述が気になったので、どんな人なのかと、その書いた本を読んでみました。ご本人の感情の動きがいろいろ記述されるのですが、なかなか共感するところまではいきませんでした。

「聞いて、ヴァイオリンの詩」 千住真理子著、文春文庫 平成21年7月読了
 4月に読んだ諏訪内晶子の「ヴァイオリンと翔ける」に続いてヴァイオリニストのエッセーを読んでみました。諏訪内晶子の著書の中では音楽の解釈といった音楽性自体を突き詰めようという意志が強く出ているのに対して、本書では聴衆とのつながりという面が強調されています。同じヴァイオリニストでも、その指向性は人によって随分違うのだなということを感じさせます。

「光合成の機作」 田宮博著、岩波書店 平成21年7月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「老子」 岩波文庫 平成21年6月読了
 無為自然を説く老子の思想というのはよく聞きますが、実際のものを初めて読みました。知恵をつけるのはいかんと言われると、大学の教員にはつらいものがありますが、全体を通して読むと、ある種納得できる思想であることも確かです。

「フェルマーの最終定理」 サイモン・シン著、新潮文庫 平成21年6月読了
 かの有名な数学の謎がどのようにして生まれ、どのようにして有名になってどのようにして解かれたのかが平易な語り口で紹介されます。数学史上のおなじみのエピソードもたくさん出てきますが、縦糸としてフェルマーの最終定理が常に意識されていることによって、一つのストーリーに織り込まれているのに感心させられました。

「植物を考える」 ニコラス・ハーバード著、八坂書房 平成21年6月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「植物生理学」 三村徹郎・鶴見誠二編著、化学同人 平成21年6月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「聞かせてよ、ファインマンさん」 R.P.ファインマン著、岩波現代文庫 平成21年6月読了
 量子電磁気学の創始者の一人であるファインマンの講演や対談などを集めた魅力的なエッセー集です。単行本として出ていた「ファインマンさんベストエッセイ」が改題されたものです。科学における「懐疑」の重要性や、教育の方法について述べたものが多いのが印象的です。

「物理學序説」 寺田寅彦著、岩波書店 平成21年5月読了
 大正末に書かれて没後に発見された、物理学に関する哲学的な論考です。最初、寺田寅彦の全集に納められ、終戦後の昭和22年に単行本として出されたものです。メランコリーとユーモアが交錯する随筆と異なり、物理学の思考方法が、物質とは、空間とは、因果律とは、という基本から説き起こされます。相対性理論までは触れられている一方、量子力学は「予感」に留まっているなど、時代を感じさせます。日本にも哲学を語れる科学者がいたのですね。

「数学あ・ら・かると」 吉田洋一著、学生社新書 平成21年5月読了
 終戦前後に書かれた数学エッセイを集めた本で、初版は1956年です。僕の持っているのは、1967年の重版の本ですが、子供の頃に読んだものを30年ぶりぐらいに読み返してみました。軽妙なセンスとともに、時代をも感じさせますね。

「新しい太陽のウールス」 ジーン・ウルフ著、早川文庫 平成21年5月読了
 「新しい太陽の書」4部作の続編です。ファンタジーともSFともつかない一人称で語られる物語の雰囲気は、4部作そのままである事を思い出しました。ただ、実は前の内容をほとんど忘れてしまっていたので、もう一度、前の作品を読み直さないといけませんね。

「エントロピー」 小野周他編、朝倉書店 平成21年4月読了
 しばらく前に読んだ「熱学思想の史的展開」に引用されていたので、興味を持って古本で買って読んでみたところ、想像していた熱力学の教科書とは全く違いました。1985年に出版された本なのですが、半分は経済学者ジョージェスク=レーゲンという人の受け売り/宣伝文のようです。生命現象、特に光合成の反応に関する記述もあるのですが、とんちんかんな面は否めません。大まじめで植物の熱収支を計算しているところなど、ため息が出てしまいます。背景には、石油ショック後の経済状況下における生産/リサイクル万能主義に対する批判があるようですが、イデオロギーで科学を語るのにはどうしてもなじめませんでした。

「光合成と呼吸30講」 大森正之著、朝倉書店 平成21年4月読了
 著者にはなっていないのですが、僕も少し関わったので、書評は書かずにここに短い感想だけ。30回分の講義ということですが、実際には2?3ページで終わる回も多く、すぐに読めます。教科書としてはもう少し内容があった方が本当はいいでしょうね。

「ドラル国戦史 1?8」 デイヴィッド・エディングス著、早川文庫 平成21年4月読了
 多くのファンタジーシリーズを書いている著者の最新シリーズです。このシリーズは、特に後半、ストーリー展開にご都合主義が目立ってきます。まあ、もともとストーリーよりは登場人物の軽妙な会話で読ませるタイプのファンタジーなので、さっと読んで楽しむ分にはこれでも良いかと。

「黎明の星 上・下」 ジェイムズ・P・ホーガン著、創元SF文庫 平成21年4月読了
 この著者のSFは「星を継ぐもの」から始まるシリーズが面白くてお気に入りなのですが、その後の作品は、まあ並のレベルというところでしょうか。これは、「揺籃の星」の続編ですが、買って後悔はしないぎりぎりの作品という感じです。以前のシリーズに比べて、特徴だった科学的な議論の展開がやや無理筋になっているのが気になります。

「ヴァイオリンと翔ける」 諏訪内晶子著、NHKライブラリー 平成21年4月読了
 かの有名なヴァイオリニストの、もう今から15年近く前のエッセーでです。チャイコフスキーのコンクールで優勝して、その後コンサート活動を中断してアメリカに留学し、またコンサート活動を始めた直後ぐらいまでの時期のものです。文体などは、最初と最後であまり違わないのですが、後半の方が考え方などがより具体的にしっかりとしてきていて、おそらく20代における精神的な成長が反映されているのではないかと思いました。押しも押されぬヴァイオリニストになった現時点でのエッセイがあったら是非読みたいところです。

「熱学思想の史的展開 1?3」 山本義隆著、ちくま学芸文庫 平成21年4月読了
 同じ著者の「磁力と重力の発見」に感銘を受けたので、いずれ他の著作も読もうと思っていたら、ちょうどちくま学芸文庫からこの本が出たので読んでみました。これもまたすばらしいですね。残念ながら、出てくる数式の展開を全て追いかけるだけの気力はなくなってしまいましたが、その意味は充分に伝わります。「熱」というもののとらえ方が、一本道ではなく、行きつ戻りつしながら次第にはっきりした輪郭を持つようになる過程が生き生きと描かれています。生物のエネルギー代謝を研究している人間にとって最後のエントロピー概念の形成の部分は特に勉強になりました。

「女悪魔の任務」 ビアズ・アンソニイ著、ハヤカワ文庫 平成21年3月読了
 有名なユーモアファンタジーの19巻目です。原著はかなり前で、翻訳が遅れているようですね。いつもながら良い味を出しています。

「植物ゲノム科学辞典」 駒嶺穆総編集、朝倉書店 平成21年3月
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「ベーシックマスター植物生理学」 塩井・井上・近藤編、オーム社 平成21年3月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「永田和宏」 松村正直編集、青磁社 平成21年2月読了
 「牧水賞の歌人たち」というシリーズの第3巻です。この手のムックというのはあまり読んだことがなかったのですが、平面的な評伝とは違って彫刻のようにいろいろな側面から一人の人物を見ることができて面白いですね。裏表紙の後ろ姿の写真がそれを象徴しているようでした。

「タンパク質の一生」 永田和宏著、岩波新書 平成21年2月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「相対論がプラチナを触媒にする」 村田好正著、岩波化学ライブラリー 平成21年1月読了
 相対論というと、ミクロの世界とは縁が遠いような気がしていましたが、思い原子のまわりを回っている電子の速度は光速の半分以上にもなるのですね。金属の表面の原子が、周囲の気相の状態によって動いて再配列をしている、ということも知りませんでした。触媒というものの「感覚」がわかったような気がしました。

「植物生理学概論」 桜井英博、柴岡弘郎、芦原坦、高橋陽介著、培風館 平成21年1月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。