読書記録2005

最近、一度読んだ本でも忘れていることが出てきて年を感じます。ひどいときは、新しく読む本だと思って、面白く読み進めていくうちに、何だか知っている気がしはじめて、読み終わる頃に、そういえば昔読んだことがあったと思い出すこともありました。 「常に新鮮な喜びが味わえてうらやましいこと」などと言われる状態です。そこで、新しく読んだ本を忘備録としてここに書いておくことにしました(平成14年3月開始)。「新しく読んだ」というだけで、別に新刊の本とは限りません。


「日本語のリズム 四拍子文化論」 別宮貞徳著、ちくま学芸文庫 平成17年12月読了
 五七五七七の短歌が四拍子に基づいているというアイデアを、東西のいろいろな文献話題から論証した面白い本です。その論じ方が極めて論理的なので、どのような人かと思ったら、理学部の動物学出身でした。論理的な点もさることながら、「生きて躍動するリズムを、いわばパラフィンで固め、ミクロトームで薄い切片に切りそぐように、こうして分析することは・・・」といった比喩は、文系の人にはきついのではないでしょうかねえ。しかし明晰な論理は、読んでいて気持ちがよいものです。電車の中で読んでいて夢中になって乗り過ごしてしまいました。

「昭和天皇独白録」 寺崎英成編著、文春文庫 平成17年12月読了
 資料としての信憑性には、疑問の余地があるという話ですが、読んでいて面白いですね。実際にどうであったかは別として、昭和天皇の人となりがにじみ出ているように思います。

「植物の観察と実験を楽しむ ?光と植物のくらし?」 松田仁志著、裳華房 平成17年12月読了
 書評を生物学関係の書評の方へ載せました。

「女魔術師ポルガラ 1?3」 デイヴィッド&リー・エディングス著、ハヤカワ文庫 平成17年12月読了
 アメリカのファンタジーのベルガリアード物語、マロリオン物語の前史となる部分のお話で、魔術師ベルガラスと同じ時代を別の角度から扱う、というスタイルになっています。手慣れた、という感じの語り口で、ひょうひょうと読者を楽しませる本です。

「ふしぎな夢」 星新一著、新潮文庫 平成17年12月読了
 どちらかというと、星新一特有の「毒」の部分が少なく、夢の部分が協調された短編を集めた一冊です。それでも、読めば星新一が作者であることはすぐにわかりますね。

「ラッセルのパラドクス」 三浦俊彦著、岩波新書 平成17年12月読了
 イギリスの数理哲学者でノーベル文学賞の受賞者でもあるバーとランド・ラッセルの哲学を非常にコンパクトにまとめた一冊です。論理学から見た哲学というものが、非常にわかりやすく解説されています。著者は駒場の科史科哲の出身の方のようで、一応文系になるはずですが、文章の論理の明晰な所は、さすがラッセルに興味を持つだけのことはある、という感じです。お買い得でした。

「歌文集金婚」 坊城俊周著、独歩書林 平成17年11月読了
 披講会会長の坊城俊周さんの新しい歌文集です。披講にまつわる論考が載っていて参考になります。

「天国からの道」 星新一著、新潮文庫 平成17年11月読了
 星新一が最初に発表した短編などが載っています。毒と夢のバランスが星新一の特長ですね。

「ローマ人の物語 危機と克服 上・中・下」 塩野七生著、新潮文庫 平成17年10月読了
 アウグスストゥスの家系がネロで途絶えた後、内乱の時代を経てフラヴィウス朝の皇帝たちの時代となります。このあたり、皇帝もだいぶ粒が小さくなってきた感じです。この中で、ヴェスパシアヌスの子供のドミティアヌスの描写がやや消化不良の感じがしました。記録抹殺刑にまでなった経緯が描写からでははっきりしません。

「魔術師ベルガラス 1?3」 デイヴィッド・エディングス、ハヤカワ文庫 平成17年10月読了
 アメリカのファンタジーのベルガリアード物語、マロリオン物語の前史となる部分のお話です。ベルガリアード物語はこれが出るにあたって再刊されたのですが、マロリオン物語は品切れのままという状態です。最近の早川文庫は(早川に限らないかも知れませんが)雑誌みたいなもので、新刊で買っておかないとすぐに手に入らなくなってしまいますが、何とかなりませんかね。お話自体は、ピカレスク小説の味付けがあってなかなか楽しめました。

「ローマ人の物語 悪名高き皇帝たち 1?4」 塩野七生著、新潮文庫 平成17年10月読了
 ローマ人の物語もティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロの四代の皇帝の部分になりました。この中ではティベリウスに共感がもてます。僕はアウグストゥスにはなれそうもありませんし、カエサルにはなるのは逆立ちをしても無理ですが、ティベリウスにならなれそうな気がします。すねて引っ込んだりしながらも仕事はちゃんと続けるところがいいですね。カリグラとネロは有名ですが、どちらももっと年を取ってから即位したらよい皇帝になっていたかも知れない、という気がしました。

「和歌を歌う 歌会始と和歌披講」 日本文化財団編、笠間書院 平成17年10月読了
 この本はCDがついていて、そこに収録された披講の実演を担当しました。内容は、過去に国立劇場などで行なった和歌の披講の公演の際のパンフレットにつけられた解説が主ですが、これがなかなか充実しています。また、新しく披講会会長の対談なども収録されていて面白く読みました。

「生命 最初の30億年 地球に刻まれた進化の足跡」 アンドルー・H・ノール著、紀伊國屋書店 平成17年9月読了
 書評を生物学関係の書評の方へ載せました。

「鎮魂歌」 グレアム・ジョイス著 ハヤカワ文庫 平成17年9月読了
 宗教が大きな意味を持っている世界においては、たぶんこの本も大きな意味を持っているのかも知れませんが、そうでないと、精神病者の戯言、とまではいいませんが、第一級の作品とは思えません。それに僕には、「歴史は、いまなおこの市街を出産中の、真珠光沢を放つ物質のように思われた。」といった言い回しはどうも。しかし、最後には現実かどうかがわからなくなるまでにフラッシュバックを使った凝った構成には、作者の才能が感じられます。

「フィン・マックールの冒険 アイルランド英雄伝説」 バーナード・エヴスリン著 教養文庫 平成17年8月読了
 20年ぐらいに読んだものを、子供が読んでいたのを期に再読してみました。いわゆるケルト神話の一環ですが、「バーナード・エヴスリン著」となっていることからわかるように、アメリカ人の著者の創作がかなり入っているようです。古い雰囲気を残していながら、現代的な解釈も取り入れられており、面白い作品に仕上がっています。

「トーベ・ヤンソン短編集」 トーベ・ヤンソン著 ちくま文庫 平成17年8月読了
 言わずと知れたムーミンの作者による短編集です。静かな沈鬱といってもよい基調に、所々皮肉が効いて独特の雰囲気があります。ムーミンの世界の特徴がどのような所から生まれたのかが少しわかる気がします。

「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団 上・下」 J・K・ローリング著 静山社 平成17年8月読了
 ハリー・ポッターのシリーズをこれまで読んできて、面白いけれども超一流の作品ではないように思っていましたが、この間では、ハリー・ポッターが少し大人になりかけている雰囲気がよく描けています。登場人物に自然に年を取らせるのはなかなかできることではありません。やはり、ベストセラーになるだけの何かを持っているのは確かなようです。

「ハリー・ポッターと炎のゴブレット 上・下」 J・K・ローリング著 静山社 平成17年7月読了
 これは、原著では読んでいたのですが、日本語訳を読んでいなかったので、あらためて読み直してみました。ヴォルデモートが自分のことを「俺様」と呼ぶのがちょっと小物っぽくて引っかかりましたが、非常にこなれた訳であることをあらためて感じました。次の巻をすぐ読んでみるつもりです。

「四色問題」 ロビン・ウィルソン著、新潮社 平成17年7月読了
 有名な数学の問題である、地図塗り分けの四色問題の証明に向けての歴史を書いた本で、数学的解説が丁寧で、証明の道筋がわかった気になれます。最後の証明は、コンピューターによるもので、僕も高校生の頃、ふーん、と思った記憶があります。しかし、今になってこの本を読むと、無限の問題をコンピューターで計算できる有限の問題に帰着させることが出来たこと自体が十分評価されるべきことだと思いました。

「量子進化 ?脳と進化の謎を量子力学が解く!?」 ジョンジョー・マクファデン著、共立出版 平成17年7月読了
 書評を生物学関係の書評の方へ載せました。

「予測の話」 大村平著 日科技連 平成17年7月読了
 1993年初版の本なのですが、その中の例が今となっては面白いですね。例えば、日本の人口の推計予測の話で、その元となる出生率の厚生省による見積が、高位では2.09人、中位で1.80人、低位で1.45人となっています。1992年の出生率が1.50人とのことですから、このあたりがせめて中位になるべきだと思いますが、実際には、政治的な思惑でゆがめられたのでしょう。この本の最後の方で、どのような場合に予測が当たらないかの例が列記されているのが面白く読めます。人口予測の場合は、前提がゆがめられていれば予測がはずれるのも当たり前、ということでしょう。

「ブランコのむこうで」 星新一著 新潮文庫 平成17年7月読了
 改版したものが出てからも2年近くたつのですが、何でだか平積みになっていたのが目について買いました。ショートショートではなく、童話で、息子が僕の読んでいるのを見てそのあと読んで、非常に面白かったと言っておりました。

「統計解析のはなし」 大村平著 日科技連 平成17年6月読了
 この本自体は、もう15年ほど前に買ったもので、その時に最後まで読んだかどうかすら忘れてしまいました。この著者の「微積分のはなし」は名著で、確か高校の頃だったかに読んで、何とわかりやすい本だろうかと感動しました。統計をちょっとおさらいしようと、この本を読み返してみたのですが、非常にわかりやすい説明ですね。ただ、例として使われている話題に、男性が女性の容姿を採点する話などがあり、今のご時世では出版できないかも知れません。

「影のオンブリア」 パトリシア・A・マキリップ著 ハヤカワ文庫 平成17年6月読了
 「妖女サイベルの呼び声」や「イルスの竪琴」で評価の高いマキリップですが、1985年の作品を最後に翻訳がなく、作家活動が中断しているのかと思っていたら、実は、着々と作品を発表していました。日本に紹介されていないだけだったようです。何ででしょうね。本書は2003年度の世界幻想文学大賞の受賞作で、やはりレベルが高いですね。マキリップの作品の登場人物には、投げやりな人間が出てきません。善悪を問わず自分の目的のために最大限努力をするところが魅力的です。

「その時、何歳だったのか」  学燈社 平成17年6月読了
 別冊国文学という雑誌にエッセーを2つ書いたのですが、それが改装版として単行本化されたので、自分以外の人が書いたところも読んでみました。いろいろな人と年齢の関わりが読み取れて面白いのですが、19人の著者の分担なので、どうしても玉石混淆という面はありますね。

「天使の卵」 村山由佳著 集英社文庫 平成17年6月読了
 Bad Kids の著者の作品をもう1つ読んでみました。若々しくていいですね。

「タフの箱船 1・2」 ジョージ・R・R・マーティン著 ハヤカワ文庫 平成17年6月読了
 自称環境エンジニアのタフがあちこちの惑星で、環境改変を売り込むお話ですが、そのストーリーむさることながら、一癖も二癖もある性格と、皮肉の効いた会話が俊逸です。これはお買い得でした。

「陛下の御質問 昭和天皇と戦後政治」 岩見隆夫著 文春文庫 平成17年5月読了
 政治家や官僚に昭和天皇とのやりとりを取材した本です。時系列で見ると、終戦直後などの方が率直な発言が多く、その発言が利用されたり、反響を呼んだり、といったことが重なった結果として、当たり障りのない発言だけになっていった様子が読み取れます。

「ナーダ王女の憂鬱」 ピアズ・アンソニイ著 ハヤカワ文庫 平成17年5月読了
 アメリカのユーモアファンタジーの代表と言ってもよいザンス・シリーズの16冊目で最新刊です。しかし原著の発行年を見たら1993年。何でこんなに翻訳に時間がかかるんでしょうね。いつも通りのだじゃれが飛び交う肩の凝らない一冊です。

「進化する地球惑星システム」 東京大学地球惑星システム科学講座編 東京大学出版会 平成17年5月読了
 太陽系の成り立ちから地球の構造、進化、生物の相互作用まで、極めて幅広いトピックスを平易で魅力的に紹介しています。章ごとに違うトピックを扱いながら、全体である程度流れを感じさせるのは、編者の努力でしょう。自分たちの学問分野に興味を持ってくれる人を一人でも増やしたい、という意気込みが感じられて好感が持てます。実際に、これを読んで興味をかき立てられる若い学生も多いのではないでしょうか。

「デューンへの道 公家コリノ 1?3」 ブライアン・ハーバート&ケヴィン・J・アンダースン著 ハヤカワ文庫 平成17年4月読了
 フランク・ハーバートのデューンのシリーズの前史をえがいたシリーズの1つですが、雰囲気はよく出ているので、まあ、一度は読んでもよいかな、という感じです。

「幻竜秘録 1?5」 ロバート・ジョーダン著 ハヤカワ文庫 平成17年4月読了
 時の車輪シリーズの第10部ですが、話が収束する気配もありません。著者もどうしてよいのかわからなくなっているのかも知れませんね。

「東大教授の通信簿 「授業評価」で見えてきた東京大学」 石浦章一著 平凡社新書 平成17年4月読了
 生協の書籍部に平積みにしたあったので手に取ってみたのですが、内容は快刀乱麻・痛快無比、あたるを幸いなぎ倒しという感じです。大学の教官というのは、常に学生を評価する立場にいるのですが、いざ自分たちが評価される立場になると、あれやこれや理由をつけて評価を避けようとする様子がよくわかります。評価委員という仕事は大変でしょうけれども、引き受けた以上、実現に向けて邁進する著者の姿勢には感服しました。

「時の彼方の王冠」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著 創元推理文庫 平成17年4月読了
 デイルマーク王国史の4巻目です。この巻は、3巻目が出てからかなり時間をおいて書かれたせいか、少し雰囲気が変化していますが、それなりに読者を引きつけます。この作者は、一つの作風に固定されずに書き続けることができるところがすごいですね。

「呪文の織り手」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著 創元推理文庫 平成17年4月読了
 デイルマーク王国史の3巻目です。相変わらず個性的な登場人物のぶつかり合いの中で物語が進行し、楽しめます。最後の方があっさり終わってしまうのがもったいないぐらいです。

「日月両世界旅行記」 シラノ・ド・ベルジュラック著 岩波文庫 平成17年4月読了
 シラノ・ド・ベルジュラックの名前は、エドモン・ロスタンの書いたもので、知っていましたが、本人の著作ははじめて読みました。奇想天外な風刺小説で、その反教会的な思想は1600年代の本としては衝撃的と言ってよいのではないかと思います。

「PHP+MySQLで作る最速Webシステム」 星野努著 技術評論社 平成17年3月読了
 読書、と言ってよいのかどうかはわかりませんが、Webベースのデータベースシステムを自作するために、一通り読みました。非常にわかりやすく書いてあって、よい本ですが、セキュリティー関係の記述がほとんどなく、できたものが外部にオープンしてよいレベルのものなのかどうかが気になりました。

「魔法」 クリストファー・プリースト著 ハヤカワ文庫 平成17年3月読了
 昨年読んで面白かった「奇術師」の作者の別の作品です。小説技巧としてはうまいのかも知れませんが、僕にはつまらない小説でした。単行本で出たときに売れなかったのを、「奇術師」の評判がよかったので、それにあやかって文庫化したようですが、最初の評価は正しかったのでしょう。

「万物理論」 グレッグ・イーガン著 創元SF文庫 平成17年2月読了
 何かでちらっと書評を読んで買ってみた本ですが、まあまあでした。600ページという長編ですが、飽きずに読めます。ただ、バイオテクノロジーがある程度重要な役割を果たしている割には、その描写が曖昧で気になってしまいました。

「熊野古道」 小山靖憲著 岩波新書 平成17年2月読了
 世界遺産になった熊野の古道についての本です。一部二部では中世の参詣記に基づく熊野参詣の変遷を扱い、三部はがらりと変わって現在の古道歩きのガイドとなっています。昨年の世界遺産の指定によって熊野もだいぶ変わってきているようですから、初版が2000年であることを考えると、ガイドの部分はすぐに情報が古くなりそうですね。

「基礎と実習 バイオインフォマティクス」 郷通子・高橋健一編 共立出版 平成17年2月読了
 書評を生物学関係の書評の方へ載せました。

「ローマ人の物語 パクス・ロマーナ 上・中・下」 塩野七生著 新潮文庫 平成17年1月読了
 この間の主人公はアウグストゥスなのですが、やはりカエサルと比べると格段に面白みが減ります。有能な政治家と偉大な英雄という感じでしょうか。

「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以後 上・中・下」 塩野七生著 新潮文庫 平成17年1月読了
 ローマ人の物語のこれまでの人物は、その時代のくびきの中で活躍、もしくは苦闘していたのですが、カエサルはこのくびきから逃れている印象を受けます。最後の暗殺も、ハプニングではあっても、グラックス兄弟が殺された時のように時代の流れに抗しきれず、という感じはしません。やはり英雄という感じがします。

「植物生態生理学(第2版)」 Walter Larcher著、佐伯敏郎・舘野正樹監訳 シュプリンガー・フェアラーク 平成17年1月読了
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