読書記録2004

最近、一度読んだ本でも忘れていることが出てきて年を感じます。ひどいときは、新しく読む本だと思って、面白く読み進めていくうちに、何だか知っている気がしはじめて、読み終わる頃に、そういえば昔読んだことがあったと思い出すこともありました。 「常に新鮮な喜びが味わえてうらやましいこと」などと言われる状態です。そこで、新しく読んだ本を忘備録としてここに書いておくことにしました(平成14年3月開始)。「新しく読んだ」というだけで、別に新刊の本とは限りません。


「魔界の神殿 1?5」 テリー・グッドカインド著 早川文庫 平成16年12月読了
 シリーズもののファンタジーの第4部で、第1部はなかなかの力作でしたが、あとはこの第4部も含めて並みでした。登場人物は魅力的なので、もう少し工夫があれば第1級の作品になるのですが。

「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以前 上・中・下」 塩野七生著 新潮文庫 平成16年12月読了
 ようやくシリーズの第2期の部分が文庫化されました。この著者の作品は、ある人物の才能と時代背景による制約のせめぎ合いの描写に特徴があると思うのですが、この巻は、主人公がカエサルだけあって、その人物的な魅力に焦点が絞られている感じです。昔ガリア戦記は一通り読んで面白かった覚えがありますが、ちょうどその時代の部分はやはり面白いですね。

「聖なる島々へ デイルマーク王国史2」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著 創元推理文庫 平成16年11月読了
 下の本の続きですが、登場人物はほとんど重なりません。この巻も魅力的な登場人物が現れますが、登場人物の現代的といってよい思考・行動と、古風な背景のギャップがやや気になりました。

「詩人たちの旅 デイルマーク王国史1」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著 創元推理文庫 平成16年10月読了
 イギリスファンタジーの伝統を受け継ぐ、といった感じの正統派のファンタジーです。ダイアナ・ウィン・ジョーンズの作品は、作品ごとに持ち味が違っていてそれが楽しいのですが、これは真っ向勝負という感じでしょうか。久しぶりに昔ながらのファンタジーを楽しみました。と思ったらこの作品は著者の若い頃の作品で初版は1975年でした。まだ、独自の作風を確立する前だったのかも知れません。

「揺籃の星 上・下」 ジェイムズ・P・ホーガン著 創元SF文庫 平成16年10月読了
 硬派のSFでならしたホーガンですが、本書は、その理論的側面は味付け程度になり、地球の破滅の様を描く点に重点が置かれています。ホーガンというと「星を継ぐもの」などの知的がイメージがありましたが、いつの間にこんな本を書くように変身したのだろう、という感じです。よい点もなくはないですが、昔のファンはがっかりでしょうね。

「日本神話入門 古事記を読む」 阪下圭八著 岩波ジュニア新書 平成16年9月読了
 こちらも、おなじみのエピソードが次々に紹介されます。そこに著者の(おそらくは独自の)解釈が加わり、面白い読み物になっています。ジュニア新書と言うことですが、内容は昔の岩波新書に近い正統的な感じのものです。本家の岩波新書の方がある意味で変質して、旧来の岩波新書の部分がジュニア新書にシフトしてきたのでしょうか。

「数学はインドのロープ魔術を解く」 デイヴィッド・アチソン著 早川文庫 平成16年9月読了
 話題としてはおなじみの数学エピソードを紹介した本ですが、著者が微分方程式のシミュレーションの専門家らしく、そのあたりの話題に独自性があり、興味をひきました。題名は、連結した倒立振り子が特定の条件で安定化するという常識に反した結果が微分方程式のシミュレーションから得られ、実際に実験的に確かめられたことによっています。いくつかのシミュレーションなどはhttp://home.jesus.ox.ac.uk/~dacheson/1089comp.html
で見ることができます。

「魔法の眼鏡」 ジェイムズ・P・ブレイロック著 早川文庫 平成16年9月読了
 出だしは、少しレイ・ブラッドベリを感じさせますが、登場人物が奇妙きてれつで全体の雰囲気は独特のものとなっています。「コミカル・ファンタジイ」と紹介されていましたが、登場人物の行動の割には、しっとりとした印象を保っています。

「物理学者はマルがお好き」 ローレンス・M・クラウス著 早川文庫 平成16年9月読了
 「牛を球とみなして始める物理的発想法」という副題が付いていて、近似の概念などから出発しているが、後半は、発想法というよりは、かなり量子力学・相対論などの物理的な概念の説明にウェートが置かれている。ちょっと欲張りで、それぞれ別の本に分けても良かったのでは、という印象。

「闘竜戴天 1?5」 ロバート・ジョーダン著 早川文庫 平成16年8月読了
 時の車輪シリーズ第9部。第12部まであるという噂。もう買うのをやめようかどうしようか。

「ファウンデーションの勝利 上・下」 デイヴィッド・ブリン著 早川文庫 平成16年8月読了
 新・銀河帝国興亡史の完結編です。3部構成の最終巻ということで、いろいろな謎が収斂していくところで、アシモフの作風が一番良く受け継がれている感じです。デイヴィッド・ブリンは最後を取って得をしましたね。内容も、「無謬の人」など、アシモフの最晩年の原作に出てきて納得がいかず、さすがのアシモフも年は争えないか、と思っていた部分まで丁寧にカバーしており、水準的には、原作の後半よりはむしろ上かも知れません。

「九年目の魔法」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著 創元推理文庫 平成16年8月読了
 これも、下と同じ著者のファンタジーですが、すばらしいできです。途中で、いろいろな児童文学の名作が現れるのも本好きにとってはうれしいところです。繰り返し読みたくなる本ですね。

「わたしが幽霊だった時」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著 創元推理文庫 平成16年7月読了
 アラン・ガーナーに「フクロウ模様の皿」というファンタジーの名作がありますが、これを思い出させました。形式はファンタジーですが、その焦点は超常現象よりも登場人物の行動と心の動きにあります。アラン・ガーナーとは違って少しどたばたが入りますが、それはそれで魅力になっています。

「八妖伝」 バリー・ヒューガート著 早川文庫 平成16年7月読了
 中国を舞台にしたファンタジー3部作の最終巻です。この巻も、相変わらず登場人物の造形が鮮やかですが、物語上の重要性に比べてこの巻のヒロインの描き方にやや足りない気がしました。このシリーズは、登場人物を悪玉善玉に色分けできるにもかかわらず、ただの善玉、ただの悪玉に終わらないところが魅力でしょう。お買い得の3冊でした。

「ファウンデーションと混沌」 グレッグ・ベア著 早川文庫 平成16年6月読了
 アシモフのファウンデーションシリーズを書き継いだ第2部です。この巻の描く時代はアシモフのシリーズの最初の部分と重なっているのですが、そこでは全くなかったロボットの味付けが色濃く出ています。好みは分かれるかも知れませんが、それなりの作品に仕上がっています。ただ、アシモフだったら書いていただろう謎とその劇的な解明というスタイルが見られないのは少し残念です。

「数学を作った人びと III」 E・T・ベル著 早川文庫 平成16年6月読了
 今年初めに読んだ2冊に続く最終巻です。この巻はカントールによる無限集合の話がクライマックスになっていて、なかなか劇的なのですが、それがもたらした結果が原著の1937年の段階では完全に評価し切れていないところがあって、やや歯切れが悪い感じがします。その後の展開については、訳注で少しわかりますが、少し詳しい解説が欲しいところでした。

「星の巡礼」 パウロ・コエーリョ著 角川文庫 平成16年5月読了
 先月読んだ「アルケミスト」の著者の最初の小説です。「スピリチュアリティーに満ちた」というのが紹介文の文句ですが、日本人の感覚からするとかなり生々しい印象を受けます。著者はブラジル人ですが、南米に入って変容したキリスト教のあり方を反映しているのかも知れません。「解放の神学」などというのと相通ずるところがありそうです。キリスト教と南米(もしくはラテン)の風土とオカルトが混じり合って、不思議な雰囲気を作っており、一読の価値はありました。

「奇術師」 クリストファー・プリースト著 早川文庫 平成16年5月読了
 世界幻想文学大賞受賞という言葉に惹かれて買ったのですが、この小説の魅力は、その幻想性だけにとどまりませんでした。おそらく最初につまらない行き違いさえなければ問題がなかったであろう人間関係が変容していく様子が、人間の自然な感情の変化として描かれます。そして、物語の巧妙な枠組みと、その幻想性という道具立てが、小説としての完成度を高めています。H.G.ウェルズの「透明人間」が、SFまたはファンタジーという枠組みの中で人間の悲劇を描いていたのを思い出させます。なかなかのお買い得でした。

「魔法使いになる14の方法」 ピーター・ヘイニング編 創元推理文庫 平成16年5月読了
 魔法を題材にした短編小説のアンソロジーです。主に、少しホラーがかったものが中心となっており、古くはE. ネズビットから始まって、ラッセル・ホーバン、ジョーン・エイキン、ロアルド・ダール、ダイアナ・ウィン・ジョーンズといった児童文学の作家から、ジョン・ウィンダム、レイ・ブラッドベリといった作家など、様々な作品が集められています。全体としてみたときにやや統一感が取れていない印象を受けますが、それぞれの作品はある程度のレベルを確保しています。

「ファウンデーションの危機 (上・下)」 グレゴリイ・ベンフォード著 早川文庫 平成16年4月読了
 かのアシモフのファウンデーションシリーズを3人の作家が書き継いだシリーズの第1部です。アシモフとはひと味違いますが、これはこれで充分楽しめる作品に仕上がっています。主人公はハリ・セルダンですが、きちんとセルダンぽさが醸し出されていました。

「奇妙な論理II」 マーティン・ガードナー著 早川文庫 平成16年4月読了
 下の続編で、こちらにはルイセンコ学説が紹介されているのが目につきます。他の「奇妙な論理」とは違ってある国の中ではその学説が多数派になったわけですが、それでも、その中に見られる疑似科学特有の論理などは他のものと共通しているのが面白いところですね。

「奇妙な論理I」 マーティン・ガードナー著 早川文庫 平成16年4月読了
 いわゆる疑似科学の歴史を解説した本です。「地球の内部空洞説」や進化論に変わる神がかった学説、様々な疑似医療行為などが取り上げられています。まあ、人間の本質はいつも変わらない、という見方もできるでしょうが、何しろ1950年代の本なので古さは否めません。ほとんどの部分はアメリカでの話で、日本人からすると宗教というものの盲目性が多くの点に現れていることが目につきます。

「スノーボール・アース 生命大進化をもたらした全地球凍結」 ガブリエル・ウォーカー著 早川書房 平成16年4月読了
 地球が過去に赤道付近まで凍結したという仮説をめぐる地質学者の動きを描いた本です。地質学的な背景は丹念に追ってありますが、「生命大進化をもたらした」というわりには、生物学的な議論はお粗末です。代謝的には正反対のシアノバクテリアと従属栄養のバクテリアをごっちゃに書いているので、意味を取ることすら難しいところもあります。参考文献に原著論文が全く挙げられていないことなどからしても、一般向けの「お話」と考えた方がよさそうです。人間ドラマとしてみた場合は、ある程度のレベルを保っています。

「アルケミスト 夢を旅した少年」 パウロ・コエーリョ著 角川文庫 平成16年4月読了
 非常に質の高い小説で、「星の王子様」の延長線上という感じでしょうか。ただ、お話の寓意が全て言葉で説明されるのが、寓話としての完成度をじゃましている感じがしました。その点で、あと一歩サン・テグジュペリにおよばないという気がしました。研究室の学生さんに教えてもらったのですが、これだけの作品を読んだことがなかったのは少し反省です。

「Bad Kids」 村山由佳著 集英社文庫 平成16年3月読了
 昨年読んだ「海を抱く」の前編があることに気がつき読んでみました。同じ事件を別の登場人物の視点から描くことにより、相補的な効果を出しています。それにしても、出てくる高校生は、皆とことんまで考え、悩みますが、今時の現実の高校生はここまで「考える」のでしょうかねえ。何となく、今の高校生は物事を突き詰めずに回避してしまうのではないかと想像していました。

「グリフィンの年」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 創元推理文庫 平成16年3月読了
 下の本の続編です。一転して学園ものになりますが、個性的な登場人物の活躍ぶりは相変わらずです。人間に混ざってグリフィンが学生になる、というストーリーですが、問題を起こすのがグリフィンではない点が「ありがちな」話と違うところでしょうか。これも水準以上の作品に仕上がっています。

「ダークホルムの闇の君」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 創元推理文庫 平成16年3月読了
 ダイアナ・ウィン・ジョーンズの作品は、昔、原書のペーパーバックでいくつか読んで非常に面白かった記憶がありますが、宮崎駿監督がその作品の一つを映画化するとのことで、翻訳が進んだのでしょうか。この作品は、テーマパークを風刺したユーモア・ファンタジーですが、人物造形がしっかりしていて、第一級の作品に仕上がっています。

「著作権の考え方」 岡本薫著 岩波新書 平成16年3月読了
 講義の際に学生さんにコピーした資料を配るのは著作権上本当に許されるのかなどを知りたくて買ったのですが、これが望外のもうけものでした。業界や国の意向・利害得失によって著作権のルールが決まっていくさまや、自分の利益の代弁をお役所に押しつけようとする人びとの様子などを生き生きと描いて、しかも、それらの行動のおかしな点を適切な比喩を用いて極めて論理的に説明していきます。著者がどんな人かと見てみると、理学部卒ということでその論理性の由来がわかりました。しかも驚いたことに現役の文部科学省のお役人だそうです。現在は学術研究助成課長ということで、大学の研究者などもお世話になる部署だと思いますが、このような人がいるとすると文部科学省も捨てたものではありませんね。

「ボズのスケッチ 短編小説編(上・下)」 チャールズ・ディケンズ著 岩波文庫 平成16年3月読了
 かのディケンズの処女作を含む短編小説集です。いくつかは言葉の多義性から来る行き違いをえがいた喜劇で、落語を思わせます。単行本になるときに書き下ろしたものが2つ入っていますが、これらはやや色合いが異なり、人間の運命をむしろ象徴的に描いていて、後のクリスマス・キャロルを予感させます。

「志ん朝の落語6 騒動勃発」 古今亭志ん朝著 ちくま文庫 平成16年3月読了
 この巻では、「二番煎じ」や「今戸の狐」が珍しくて、よかったですね。「三方一両損」は有名ですが、お奉行がありきたりでもう一息の感じでした。

「志ん朝の落語5 浮きつ沈みつ」 古今亭志ん朝著 ちくま文庫 平成16年3月読了
 この巻では、やはり「芝浜」が一番ですね。しみじみとした味わいが読んだあとにも残ります。あとは、「火焔太鼓」の爽快といってもよい雰囲気が印象に残りました。

「自然をつかむ7話」 木村龍治著 岩波ジュニア新書 平成16年2月読了
 著者が寺田寅彦を目指して書いたというエッセーであるが、少なくともその方向性は充分実現されていると思います。身近な経験から自然科学の最先端を解き明かそうという意気込みはすばらしいと思います。日本の近年の自然科学エッセーとしては、ロゲルギストの「物理の散歩道」のシリーズが一番上質かと思いますが、それと比べると話の範囲が広い分だけ、やや散漫になることもありますが、背景に見て取れる文学の素養も含めて、著者の幅広い興味には頭が下がります。すらすら読めるし、お薦めの一冊です。

「夢の灯りがささやくとき 上・下」 ダイアナ・マーセラス著 早川文庫 平成16年2月読了
 これは、昨年9月に読んだ「海より生まれし娘」の続編です。人物描写が的確で好感が持てます。3部作の最後が今年の夏に刊行予定(アメリカで)とのことなので、楽しみです。

「志ん朝の落語4 粗忽奇天烈」 古今亭志ん朝著 ちくま文庫 平成16年2月読了
 この巻では、「百川」が愉快でした。単なる聞き間違い・すれ違いの噺なのですが、人物像がしっかりしていて、思わず引き込まれます。志ん朝の落語では、この巻の噺のような粗忽者などが特に生き生きしているように思います。

「数学をつくった人びと II」 E・T・ベル著 早川文庫 平成16年2月読了
 2つ下に書いた本の続編です。この本では有名なガウス・アーベル・ガロアなどが出てきますが、僕のお気に入りはシルベスタです。講義の中で自作の詩を朗読してしまう性格と、生活の苦しさと戦わなければならないときでも生活を楽しんだという気性、そして教育への情熱など、皆すばらしいですね。あと、この巻は、京都大学の吉田武という人が巻末に解説を書いていて、これがすばらしい。わずか5ページ程の文章ですが、この本と数学と人間を論じて余すところがありません。どのような人かは知りませんが、僕もこのような文章を書けるようになりたいものです。

「竜騎争乱 1?5」 ロバート・ジョーダン著 早川文庫 平成16年1月読了
 時の車輪シリーズの第8部ですが、相変わらず終わる気配を見せません。いやはや。

「数学をつくった人びと I」 E・T・ベル著 早川文庫 平成16年1月読了
 続けて数学関係の本を読みました。これは、1937年に書かれた数学史の古典的な本の第1巻です。なかなか面白いのですが、著者の人間に対する評価の基準が、どれだけ数学に専念したか、であることに笑わされます。教授になるのはいいのですが、行政官職に就こうものならそれだけでアウトです。また、宗教に対する強烈な反感も特徴的です。この間に出てくる人の中では、ラプラースが面白かったですね。この著者にかかると「俗物」と切ってすれられますが、動乱の時期を巧に生き延びただけでも大したものです。むかし、微分方程式の解法でラプラス変換というのを勉強しましたが、ラプラースが作ったんでしょうね。

「天才数学者たちが挑んだ最大の難問ーフェルマーの最終定理が解けるまでー」 アミール・D・アクゼル著 早川文庫 平成16年1月読了
 ギリシャやアラビアの数学から初めて、フェルマーの最終定理が解けるまでの歴史を人間的なドラマを中心に丹念に追っています。ガロアの悲劇などおなじみのエピソードも入っていて簡潔な数学史としても楽しめます。