ヒマワリはなぜ東を向くか 植物の不思議な生活

瀧本敦著、中公新書、1986年、174頁、660円

タイトルにもある花の咲く向き、花の咲く時期、成長の速度を左右する要因など、植物の様々な側面について、著者がうんちくを傾けるといった風情の本です。語り口はソフトですし、あくまで一般向けに紹介するというスタンスは貫かれているのですが、全体から受ける印象は、実験科学者の眼の鋭さです。サブタイトルに「植物の不思議な生活」とありますが、実際に取り上げられる話題は、いわゆる植物生理学の分野の話題です。植物生理学自体が、仮説検証型の実験が進められる典型的な分野であることが、単に観察とそれに基づく推論だけで物事を進めるのではなく、必ずその推論の基づく実験の紹介がなされるというスタイルに反映されているのかもしれません。単に予想するだけではなく、実験で確かめてこそのサイエンスであるという著者の姿勢が感じられます。さらに、実験といっても、20世紀初頭の古い文献などに載っているものなどが縦横に引用されいて、科学史的な興味を誘う場合もあります。巻末にきちんと参考文献が挙げられているのも、科学者としての基本姿勢からくるものなのでしょう。「おわりに」で著者が書いている、好奇心に基づく研究の重要さと、それに伴う責任についての考え方も含めて、研究者として何を大切であると考えるのかという基本姿勢を感じさせる本でした。

書き下ろし 2017年10月