たたかう植物 仁義なき生存戦略

稲垣栄洋著、ちくま新書、2015年、202頁、760円

植物が、他の植物、動物、微生物、環境などに対して、どのような戦略をとって生存しているのかを一般向けに解説した本です。それぞれの内容自体は、特に新しいものがあるわけではありませんが、非常に多くの例がまとめて挙げられているのとを次々読んでいくと、全体としての植物の生き方が浮かび上がってきます。一つ一つのエピソードは当たり前に思えることであっても、さまざまな植物での例を並べてみていくと、その共通点と相違点がよくわかります。特に、最後の人間との関係を述べた部分などは、どこまで科学的に解明されているかは別として、ヒトが場合によっては苦味(=毒)を好む理由などを議論していて、興味を掻き立てます。ただ、大げさなドキュメンタリー番組的な語り口は、サイエンスの香りを打ち消すようで、個人的にはあまり感心しませんでした。また、読者にわかりやすく語りかけようとしてなのかもしれませんが、正確さにかける記述もあります。例えば「気孔という呼吸のための換気口がある」などという表現は、読者に引き付けて書こうとしたのかもしれませんが、気孔が光合成のガス交換のためのものであることは中学生でも知っていることですから、わざわざ呼吸という言葉に置き換えることもないでしょう。漢字の変換ミスなども複数残っていて、やや編集が甘い感じがしました。

書き下ろし 2017年10月