科学史こぼれ話

佐藤満彦著、恒星社厚生閣、2002年、154頁、2,000円

科学史の中の有名なエピソードを、「予言的中」、「偶然の発見」などといったいくつかのテーマに分け、分野ごとに紹介した本である。古代から近代までを網羅した上に、物理、化学、生物、数学のエピソードを全て取り上げているのには感心させられる。著者のあとがきによると、エピソードを盛り込むことによりわかりやすくする一方で、そのつながりから科学史の道筋もわかるような本を目指したとのことである。しかし、第1話の「近代科学を準備したもの」でこそ通史的な記述が見られるが、本筋の第2話以降では、それぞれの章が、さらに物理、化学などの分野別に分かれていることもあって、「科学史の道筋を見る」という目的が達成されているとは言えないようである。個々のエピソードは、客観的かつ簡潔に描かれていて、著者が「内容を強く印象づけようとするあまり、文章表現上、作為をほどこしてしまいがち」なのを避けるようにした、という意図がよく反映されている。一方で、登場人物の人間的な葛藤に興味のある人にとっては物足りない印象を与えるかも知れない。著者は第1話の最後に「科学的事実と科学的判断」と題する文章を置いており、その中で、 科学者は利害や政治信条・宗教などによらずに事実から判断すると述べている。理想論としてはその通りであるが、科学史を振り返ってみると、そのような理想と現実の生身の人間との間の相克こそがさまざまなエピソードを生んできたように思われる。

生物科学ニュース 2002年12月号(No. 372) p. 7