身近な植物に発見!種子たちの知恵

多田多恵子著、NHK出版、2008年、159頁、1,400円

植物の多様性といえば花でしょう。以前の植物分類学も花の形が基本の部分にありました。しかし、植物の果実の形も、なかなかの多様性を示します。そして、その多様性の背景にある植物の「知恵」を、この本は語っています。風を使い、水を使い、動物を使い、あの手この手で種子を広い範囲に散布しようとします。そして、その形は、その知恵をきちんと反映したものになるのです。例えば風に浮かぼうとすれば、綿毛によって空気に乗るか、あるいは翼をつけて滑空します。そのような植物のさまざまな工夫が、その「戦略」ごとに一つ一つ紹介されていきます。写真も豊富に使われているので、その工夫の成果を眼で確かめることができるのですが、主に本文下のスペースが使われているので、老眼にはややつらい大きさです。逆に言えば、もっと大きな写真で見たいと思わせる写真がたくさん載っています。頭で考えただけの科学ではなく、実際に野外で植物を観察して、場合によっては簡単な実験をして植物の秘密を明らかにしようとする著者の姿勢は、科学者の基本的な素質の一つでしょう。観察と考察は科学の基本であることが再認識できます。文章も語り口がソフトでありながら、「見て」「考える」際のわくわく感が伝わります。このあたり、さまざまな大学で非常勤講師を務めて、学生に植物の面白さを伝えてきた著者の経歴が反映されているのでしょう。どんな講義や実験をしているのか、聴きに行きたくなりますね。

書き下ろし 2015年10月