日本の樹木

舘野正樹著、ちくま新書、2014年、127頁、880円

書店でぺらぺらめくったら、カラー写真がふんだんに使われていてこのお値段なら、と買う気になり、実際に買って読んでみて買う価値があったと納得する一冊でした。一目で全体像が把握できる草と違って、樹木は、葉の形や色、樹皮、花や実、そして全体の樹形といういろいろな要素があり、しかもそれらを一目で見ることができない場合が少なくありません。植物好きでも「樹木については詳しくないので」と言う人が案外いる理由でしょう。木のてっぺんに花が咲いていたとしても、近寄って観察できない場合の方が多いでしょうし。そんな中で、これはいい図鑑だな、と思ったのは北海道大学の図書刊行会の「新版北海道の樹」でした。1992年に出版されたものですが、種類の樹木の、葉の写真、枝振りの写真、花の写真、実の写真、さらに大木の場合は樹皮の写真、カエデの場合には紅葉の写真まで載っていて、これならば樹木に詳しくなれるかもしれないと思って、学会で訪れた北大で買ったのでした。舘野さんの書かれた「日本の樹木」にも、そのような複数の視点からのものの見方が感じられます。単に樹木の形態的な特徴を紹介するのではなく、その形態の背景にある樹木の生活様式に常に考慮が払われます。というよりも、おそらく著者の興味は、その生活様式そのものにあるのでしょう。従って、ふんだんに載せられた写真(しかもすべて著者撮影!)も、単にその樹木の写真にとどまらず、その樹木の生育する場所の写真であったり、場合によっては、その樹木が生育できない場所の写真(当然木は写っていない)であったりします。また、樹木と動物とのかかわりについて詳しく触れられていることも特徴でしょう。食害のようなネガティブなかかわりもあれば、種子散布のようなポジティブなかかわりもあり、植物が複雑な生態系の一部であることが理解できます。この本で紹介される樹木は約30種類。続編が期待されます。

書き下ろし 2015年5月