光合成細菌の世界

原島圭二著、共立出版、1994年、109頁、1,500円

光合成というと、どうしても陸上の植物が行なう酸素を発生する光合成が頭に浮かぶが、実際には、もう一つ、酸素を発生しない光合成のメカニズムが存在する。このタイプの光合成をする生物が光合成細菌であり、植物の光合成の起源となった生物である。いわば光合成の進化の鍵を握る存在でありながら、その分類上の位置は必ずしも明確ではないし、代謝の経路などについてもわからない点が多いという生物である。本書は、そのような光合成細菌を、わずか100ページ強の小冊子の形で紹介している。短い中で、植物の光合成の概略が説明され、それと対比させて光合成細菌の光合成の特徴が説明され、さらに光合成の進化までもが議論される。それでも、説明するポイントが絞られているので、詰め込んだという印象はなく、ストーリーを追いながら面白く読める。光合成の一般論についてもきちんと説明してあるとはいいながら、読むにあたっては、光合成についてのある程度の予備知識はやはり必要になるだろう。対象は大学の3,4年生以上になるかもしれない。全7章の中で、第6章の部分は、著者が研究した好気性光合成細菌の研究の紹介となっている。このあたりは、研究の進展が同時代の視点で紹介されることもあって、生き生きとした臨場感のある表現になっている。読み終わって思うのは、光合成細菌は、まだわからないことだらけの生き物である、ということだろうか。教科書にはわかったことが説明してある、というイメージからすると、この本は教科書ではないのかもしれないが、対象の面白みを伝えて人に興味を持ってもらうという、より重要な役割を十分に果たせる本である。光合成を考える上では、何が光合成であり、何は光合成でないのかを認識することも重要である。そのように考えて「普通」とは異なる光合成を学ぼうとした人にとって格好の書籍である。

書き下ろし 2013年9月