光合成の謎

ミ・エ・イヴィン著、現代教養文庫、1973年、307頁、320円

題名は「光合成の謎」ですが、光合成の働きを解説した本ではなく、光合成の研究史を紹介した本です。ただ、その紹介の仕方が少し変わっていて、いわば小説風に、あたかもその時代時代の研究者が生きていたころに戻って、その様子を覗いて描写したように書かれています。これはこれで面白い試みでしょう。内容的には高校などの教科書でおなじみのファン・ヘルモントやプリーストリーの話が出てくる一方、著者がソ連の人だけあって。日本ではなじみの少ないロシアの科学者も紹介されます。最後の章には、最新の研究状況の紹介と称する部分もあるのですが、残念ながら第二次世界大戦前で止まっている感じです。原著は初版が1961年、第二版が1971年に出ているのですが、著者は別に光合成の専門家ではなく、植物採集の経験がある文学雑誌の編集者ということなので、無理もないことなのかもしれません。訳者も専門家ではなく、編集部の生物を専攻した社員に協力を仰いだという程度なので、葉緑体と葉緑素の訳し分けもきちんとしていない状態です。生物学の本として読むと不満が残りますが、一種の歴史小説として読めばそれなりの味があるのかもしれません。

書き下ろし 2012年10月