植物生理生化学入門ー植物らしさの由来を探るー

佐藤満彦著、恒星社厚生閣、2002年、211頁、2,800円

本書は、植物生理学の教科書であるが、著者の独特の"植物観"があちこちに見られ、起伏に富んだ本になっている。特に化学物質の観点から植物らしさを見ようとする点に特徴がある。細胞壁物質の化学構造と植物の「固さ」が論じられる第2章や、物質代謝に触れている第8章には、一般の教科書では見られない新鮮な切り口が感じられる。生物も物質から成っており、化学と物理の法則に従うという基本的な思想が感じられる。第6章で触れられている植物ホルモンに関しても、シグナル伝達系路などについての議論はほとんどなく、著者がもっとも興味の持たれる問題とするのは、「ホルモンの化学構造が特有の生理作用とどう関係しているのか」という点である。環境体積に触れた第3章、第7章で触れられる液体の動き、第10章の二次代謝などの箇所にも、なるほどと思わせる独特の見方があって好感が持てる。一方で、第9章のエネルギー代謝には不満が残る。エネルギー代謝を物質の観点だけから説明するとつまらなくなってしまうのはむしろ当然かも知れない。せめて化学浸透説ぐらいは触れてもよかったのではないかと思う。 いずれにせよ、本書は、知識を網羅的に吸収するための教科書ではなく、植物生理学に関連したものの考え方を楽しむための本であろう。入試勉強の教科書として使うにはお薦めできないが、植物の生き方について考えてみるきっかけとなる教科書だと言えよう。

生物科学ニュース 2002年9月号(No. 369) p. 7