光合成の機作

田宮博著、岩波書店、1943年、246頁、4円20銭

戦前に書かれたこの本は、光合成を正面切って取り上げた教科書としては、おそらく最初期のものであろう。今まで、光合成の研究者として一度は読んでおこうとは思いつつ、その一文一文が長くて古めかしい文体に阻まれていたものを、ようやく何とか最後まで読み通すことができた。第一印象は「はるけくも来にけり」というところであろうか。当時、葉緑体を単離してしまうと光合成の反応が見られなくなる、という状況の下に、光条件を変えたり、閃光を照射するなどして光合成の速度を測り、あるいは阻害剤による光合成の阻害効果を見るなどして、少しでも光合成のメカニズムに迫ろうという努力と気迫が印象に残る。ここで提案された機作自体は、当時は酸素発生のアナロジーからカタラーゼの光合成への関与が考えられていたこと、また発生する酸素が水に由来するというルーベンの同位体を利用した実験を信用していなかったこともあって、現在知られているメカニズムに直接つながるものではない。しかし、光の強さを変えると光合成の律速段階が光化学反応から二酸化炭素固定に切り替わるという概念や、反応速度論的な解析は、当時の限定された実験事実をもとにした考察としては驚異的と言えよう。後の実験のためのフレームワークを提供するという目的のため、著者本人も認めているように、実験から充分に裏付けられない仮説も積極的に提案している。本書全体を通して、今後の日本の光合成研究を推進するための基礎を築こうという気概が感じられる。振り返って本書の書かれた時から現在までの光合成研究の展開を考える時、その大きな成果を改めて認識すると同時に、その成果に安住せずにあらたな段階を目指すことができるのか、という点を反省せざるを得ない。

書き下ろし 2009年7月