光合成と呼吸の科学史

真船和夫著、星の環会、1999年、187頁、2,200円

歴史をギリシャ時代までさかのぼって、呼吸と光合成の研究の歴史を概観した本です。アリストテレスから始まって、ファン・ヘルモントの柳の木の実験、プリーストリーの酸素の発見といった有名な話が次々紹介されます。前半の種本は、「ダンネマン大自然科学史」とザックスの「植物学史」のようですが、きちんとまとめられていて参考になります。後半、発酵の話が出てくると好気呼吸との関連がわかりづらくなり、なぜかと考えたのですが、どうも、好気呼吸におけるATP合成の仕組みが全く無視されていることによることに気が付きました。副題には「古代から現代まで」となっているのですが、この「現代」というのは1950年代のことのようです。1950年代といえば、ようやくカルビン回路が明らかになってはいますが、光化学系の実体や、ミッチェルの化学浸透説、ATP合成酵素の構造などがほとんどわかっていなかった時代です。著者曰く「50年代以降には呼吸や光合成の研究は一段落し」「生化学の研究は分子遺伝学に集中し」「光合成の問題は、今や生態学に移され、地球上の自然的物質生産の基礎という観点から取り扱われることが多くなった」ということです。ノーベル賞を取ったミッチェルも形無しですね。最後に引用・参考文献が載っているのですが、光合成の教科書は一冊も載っておらず、植物生理学・生化学関係といえる6冊の刊行年は、1953年、1966年、1971年、1982年、1982年、1986年という状態です。純粋に科学史で終わっているのであればまあよいのですが、最後に「光合成研究の到達点」と銘打った章を設けていながら40年以上前の研究で終わるのは、1999年発行の本としては疑問が残ります。著者は専門家ではないとはいえ、せめて詳しい人に少し現状を聞いてから書けば、と惜しまれます。

書き下ろし 2008年10月