植物一日一題

牧野富太郎著、ちくま学芸文庫、2008年、318頁、1,050円

言わずと知れた植物分類学の大家の随筆である。戦後の昭和28年出版のものが底本らしいので、著者がある程度のお年になってから書かれたことになる。語り口は、どこぞの長屋の頑固な隠居といったところで、世間一般や学者の間で通用している「誤った」分類が右に左に切って捨てられる。本の中で、繰り返し強調される主張は、「日本固有の植物に中国名があるはずがない」というものである。その背景には、日本に生えている植物に中国における名前をつけることが分類である、という(当時は奇異でなかった)考え方があったのだろうが、現代の感覚からするとやや問題点がつかみづらいところもある。植物の分類に関するさまざまな蘊蓄が傾けられ、語り口は痛快なので、読んでいる分には楽しいが、ご本人と一緒に仕事をするのはなかなか大変だったのではないだろうかという想像がかきたてられる。東大の資料館におられた大場先生の解説が最後に載っていて本書の背景がわかるが、本文の記述に関する注などは一切ない。本文だけなら、インターネットの青空文庫でも自由に読むことができることを考えると、「学芸」文庫と銘打って出版するからには、本の中で紹介される当時の分類を現在見るとどうなっているのか、といった注なり、解説なりが欲しかったように思う。

書き下ろし 2008年3月