カロテノイド ーその多様性と生理活性ー

高市真一編、裳華房、2006年、267頁、4,000円

光合成色素であると同時に動物の体の中でも様々な役割を果たすカロテノイドについての最新情報を網羅した労作である。生物界における分布、植物における機能、動物における機能、生合成経路から分離分析方法まで扱われている。書評を書くために最初から最後まで読み通した場合には、一部の羅列的ともいえる記述が引っかかるが、この本は、むしろ最初から順を追って読み進むのではなく、カロテノイドの信頼できる参考文献として、疑問が生じた場合に辞書的に使うことになるのかも知れない。その意味で、付録としてつけられた50種のカロテノイドの吸収スペクトルと170種を超すカロテノイドの構造式は貴重だろう。個人的には分離分析方法の章が極めて勉強になった。カロテノイドは極めて多くの種類が存在することから、それらを比較することによって細かい構造の違いが機能に与える影響を調べることが可能である。共役二重結合の数によって吸収極大(色)が少しずつ変わっていく様子などを見ると、化学の知識が身近に感じられる。その他、植物における機能の章と動物における機能の章を読み比べると、 植物における機能は物理化学の領域にまで踏み込んで詳細に解析されている一方、動物における機能は投与実験による影響調査が大きな位置を占めており、研究の方向性が全く異なること印象的であった。

生物科学ニュース 2006年8月号(No. 416) p.6