地球環境化学入門(改訂版)

J.E.アンドリュース他著、渡辺正訳、Springer、2005年、307頁、2,800円

おそらく多くの人にとっては地球環境化学という言葉を聞いても、どのような学問分野かのイメージがつかみにくいのではないかと思う。内容としては、地球の大気、陸地、陸水、海水の各領域の中と領域の間の物質と元素の循環がメインテーマになっている。最初に「環境化学の道具箱」として必要な化学の基礎知識が紹介されており、以降の章の中でもコラムの形で化学の様々なトピックスが扱われているので、大学の理系の学生程度であれば、化学の知識を特別に持っていなくても充分理解出来るように工夫されている。岩石の風化を扱った部分など、評者にはやや詳しすぎるのではないかと感じられた部分もあるが、地球の元素循環に関して基礎的な知識が定量的にきちんと押さえられている。最後の章では、地球環境問題が議論されているが、勝手な価値判断をせず、地球温暖化の問題などについても「実際のデータからは何が言えるのか」という姿勢が貫かれているのが好ましい。地球環境問題は、本来は地球環境科学のデータに基づいて議論されるべきものだと思うが、実際には、経済性や、一種のイデオロギーによって左右される面が多い。そのような意味でも、 多くの定量的なデータを載せた本書は、問題を考える上でのリファレンスとしても役立つように思う。所々に口語的言い回しを使った訳文もわかりやすく好感が持てる。

生物科学ニュース 2006年4月号(No. 412) p.4