新しい植物生命科学

大森正之・渡辺雄一郎編、講談社サイエンティフィク、2001年、142頁、3,200円

まず、章の構成を見ると、第1章植物の進化の歴史、第2章エネルギーの生成と物質の合成、第3章物質の移動と情報の流れ、第4章植物の形態形成、第5章生物相互が生み出す環境、という5章立てだが、第1章はどういう訳か最後にくっついている花の形態形成の部分を含めても14頁(含めないとたった10頁!)、第2章は20頁、第3章24頁、第4章36頁、第5章32頁と、力の入り具合にはかなり差がある。しかしそれ以上に差があるのが内容で、第4章を筆頭に、植物生命科学の「新しい」展開を紹介しようという意気込みが感じられる後半の章と、1,2章では全く内容が違う。2章では、評者の専門のエネルギー代謝、物質代謝が紹介されているが、その内容たるや、20年前に評者が卒研生だった頃の情報からほとんど進歩していない。もし、これが「新しい植物生命科学」であるのなら、エネルギー代謝の研究は20年前に終わっていたことになる。この20年間に進展した、ノーベル賞も取った光合成反応中心の構造解析に端を発する構造?機能相関の研究や、生化学・分子生物学の発展に伴って発達した代謝の制御メカニズムに関する研究、 などを著者はどのように考えているのだろうか。第4章は人によっては総説的な書き方が教科書には向かないと感じるかも知れないが、力作である。第3章、第5章は平易な書き方で要点を説明しており好感が持てる。特に第5章は、「相互作用」というきわめて曖昧な概念を、非常に幅広い視点から取り上げており、今後の研究の方向性までを示していて「新しい植物生命科学」というタイトルにふさわしい内容になっている。

書き下ろし 2002年10月