光化学系Iの発現制御機構の解析

村松 昌幸

光合成生物は、たくさん光を集めることで光合成を活発に行うことが出来ますが、それでは光が強ければ強いほど良いか、というとそうではなく、光が強すぎると光合成系で活性酸素が生じて細胞内にダメージが与えられてしまいます。そこで光合成生物は、過剰な光エネルギーによるダメージを避けるために様々な防御策を講じます。シアノバクテリアでは、その防御策の一つとして、自ら光化学系I複合体量を減らすことが知られています。これはおそらく、系Iの還元側に過剰な電子が流れてしまうことで活性酸素が発生するのを避けるための調節と考えられます。これまでに、シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803におけるマイクロアレイ解析により、強光下では系I遺伝子群の転写産物量が一様に減少することが明らかになっています。私はこれまでの解析により、これら系I遺伝子転写産物量の減少は、プロモーター活性により主に調節されていることを見出しました。さらに、強光下で系I複合体量を減少させることのできないpmgA変異株(この変異株は長時間強光下にさらすと生育阻害を受ける)では系I反応中心をコードしているpsaAB転写産物量の減少を維持できないことを明らかにしています。これらの結果は、強光下における系I複合体量の調節が、転写レベルで主に行われていることを強く示唆するものです。ところが、これまでに系I遺伝子の発現調節に関する知見はほとんど得られていません。そこで私は以下に示す解析を主に行っています。

光化学系I遺伝子プロモーターの解析

数ある系I遺伝子のプロモーター活性が強光下で統一的に減少することは、系I遺伝子群のプロモーター間に何らかの共通した構造があり、同様のメカニズムで調節されていることが予想されます。そこで、複数の系I遺伝子のプロモーターについて、段階的に削ったものをレポーターであるルシフェラーゼ遺伝子につなぎ、弱光下、強光下でそれらのレポーター活性がどうなるかを調べています。この解析により、プロモーターのどの領域が転写の活性化、または抑制に関わるのか、また系I遺伝子の間で、制御領域の塩基配列は共通なのかどうか、などを知ることができます。さらに、詳しい削り込みによりこれらプロモーターの調節領域を特定した後、その領域に実際に調節因子が結合するかどうかをゲルシフトアッセイで調べていきたいと考えています。

系I遺伝子発現調節欠損変異株のスクリーニング

原核、真核生物とわず、一般的にプロモーター活性は何らかの転写因子により調節されていると考えられます。Synechosystis sp. PCC 6803には、推定HTH型転写因子が約50個ありますが、これら転写因子のターゲット遺伝子については、まだまだ未同定のものが多く、もちろん系I遺伝子群もどの転写因子により調節されているのか分かっていません。そこで、これら推定転写因子を網羅的に破壊することで、系I遺伝子群がどの転写因子により調節を受けているのかの同定を試みる予定です。