シロイヌナズナにおけるPSI循環的電子伝達機構

花野井和弘

光合成の光リン酸化反応では、光エネルギーを利用してエネルギー源であるATPと還元力であるNADPHが合成される。この反応には、主に2種類の電子伝達の経路が関係している。1つ目は、直線的電子伝達である。この電子伝達の経路では光化学系II(PSII)で水から電子を奪って酸素を発生し、NADP+を還元しNADPHを生成する。この電子の流れはチラコイド膜を介したプロトン濃度勾配を形成し、形成されたプロトン濃度勾配はATP合成に利用される。プロトン濃度勾配の形成は、熱放散の誘導にも必要である。熱放散は過剰な光エネルギーを無害な熱として放出する機構である。2つ目は、光化学系I(PSI)循環的電子伝達である。この電子伝達の経路はさらに、NADPHからプラストキノンプール(PQ)への電子伝達を行なうNDH経路とフェレドキシン(Fd)からPQへの電子伝達を行なうFQR経路に分けられる。これらの経路では、電子はPSIの駆動力だけで循環的に移動するため、NADPHの合成なしにプロトン濃度勾配を形成できる。そのためNADP+が枯渇してしまうようなストレス条件下においてもプロトン濃度勾配を維持することができる。近年、NDH経路に関わるコンポーネントとしてNDH複合体が、そしてFQR経路に関わるコンポーネントとしてPGR5がそれぞれ発見された。PGR5はアミノ酸配列上直接電子伝達を行なっているとは考えがたく、他の因子が存在する可能性が示唆されている。また、両方のコンポーネントが欠損している変異体では極度の生育阻害を引き起こすことから、PSI循環的電子伝達は必要不可欠な電子伝達の経路であるということが考えられる。しかしながら、様々な光条件下においてPSI循環的電子伝達がプロトン濃度勾配の形成にどの程度寄与しているのかについては明らかになっていない。また、NDH複合体やPGR5以外の因子についても明らかになっていない。

そこで本研究では、9-アミノアクリジン蛍光測定法を用いてPSI循環的電子伝達がプロトン濃度勾配の形成にどの程度寄与しているのかを明らかにするとともに、当研究室で単離された変異体の中から、PSI循環的電子伝達に関わる新規因子を発見することを目的として研究を行なっている。