光合成の効率はどのぐらいか?

これは実は非常に難しい質問です。まず、光が当たっても、吸収されなくては利用できません。葉の光の吸収率はおおざっぱに言って85%程度ですから、15%はまず最初に無駄になります。その意味での光合成の効率の上限は85%ということになります。次に、吸収された光の内、光合成反応を引き起こすものの割合ですが、これは光の強さによって異なります。酵素反応などでは、基質濃度を増やすと反応速度が飽和していきますが、光合成でも同じように光を強くしていくと光合成速度は飽和してしまいます。とすると、当然、光が強ければ強いほど、無駄になる割合が大きくなります。つまり光の強さを決めないと光合成の効率は答えられないことになります。

そこで次に、光が充分弱い時、つまり光の量が光合成を律速している時の光合成の効率についてだけ考えてみます。1個の光子が吸収された時に光化学反応が何回おこるかを考えると、光が弱い時は実はほぼ1になります。つまりこのように定義した時は、光合成の効率は100%と言うことができます。その意味では光合成は極めて効率の良いシステムなのです。しかしさらに考えなくてはいけないことがあります。クロロフィルは赤い光と青い光を両方吸収できますが、同じ光子1個でも、青い光は赤い光より多くのエネルギーを持っています。ですけれども、どちらの色の光子でも1個の光子で起こる反応は1回で変わりません。つまり、光子の数で考えると光合成の効率は100%でも、エネルギーあたりに換算すると赤い光による光合成の方が青い光の場合より効率がよいことになります。ですから、光の色(スペクトル)も決めないことには、光合成の効率は答えられないことになります。この部分で光合成の効率を低下させているのは、いわばクロロフィル分子の中でのエネルギーの損失です。

実際にはさらに光化学反応によってATPを合成する過程でもエネルギーの損失がありますし、ATPで二酸化炭素を有機物に固定する過程でも損失があります。つまり、どこまでの反応を含めるかによって光合成の効率は異なってしまうのです。光合成の効率を低下させるこれらの損失を正確に全て見積もることは難しいと思いますが、当たった光のエネルギーに対して、植物の有機物の燃焼のエネルギーの割合を出すと、人工的に最適条件で植物を育てても5%以下だ、と言われています。いずれにせよ、上記のように、光合成の効率は、植物のおかれた環境条件をきちんと決めないことには答えを出せません。また、反応の回数を考えた時の効率(量子収率)なのか、エネルギー効率なのか、さらには、ATPを作る効率なのか、糖を作る効率なのかによっても光合成の効率がどれだけなのかの答えは異なるわけです。逆に、このような点を無視して、光合成の効率は◯◯%である、と書いてある本があったら、眉につばをつけた方がよいでしょう。