生物学教室公開セミナー

日時:2024年1月29日(月)15:00-16:40
場所:早稲田大学50号館、2階、共用会議室A

ツメガエル胚における体液・姿勢・運動と形態形成

加藤壮一郎博士(熊本大学発生医学研究所)

動物の胚にとって最重要のタスクは形態形成、すなわち機能を有する器官を形作ることである。しかし、形態形成を実現するためには、他のタスクも同時並行で実行する必要がある。例えば、形態形成に重要な体腔(体液に満たされた空間)を形成するために、器官系の未熟な胚は成体と異なる方法で外から水を取り込んだり排出したりする。また、卵膜や子宮内などの狭い空間で体を細長く作り変えるために、胚は折れ曲がったりねじれたりするなど様々な姿勢をとる。また孵化後の幼生は臓器の形態形成を完遂する前に、敵から逃れるための運動を開始する。形態形成のプロセスは分子的側面や物理的側面など様々な視点から深く掘り下げられてきた一方、このような形態形成外のタスクを胚がどのように制御・実行しているのか、これらのタスクと形態形成がどのようにリンクするのか、といった問いは、胚発生に重要であるにも関わらず注目を浴びることが少なかった。そこで私はツメガエル胚を対象に、「体液」「姿勢」「運動」の三点に着目し、実験発生学的手法と自作の装置実験を組み合わせてこれらの問いに挑んでいる。本セミナーでは私が過去に取り組んできた「体液」に関するテーマ:ツメガエル胚が原腸内の体液を胚外へと排出するための原口の開閉機構についてはじめに紹介し、次に現在取り組み始めている「姿勢」と「運動」に関するテーマ:発生中の姿勢や運動に依存して生じる外因応力下で器官形態形成を実現するしくみについて、現時点で得ているデータとともに今後の計画について議論する。